~黄金の道標~ 愛と毛髪の遠心力の巻
構成上、毎回話の前半部分が盛り上げにくくて困ります。愚痴です。
朝。
結局俺達はあのあと、城に泊めてもらう事になった。
「よく……眠れなかったな」
駒ヶ根玉で歯を磨きながら、昨日の王の話を思い出した。
「「「魔王?」」」
「そうじゃ。そなたらには是非その魔王を討ち取ってもらいたい」
「魔王なんて……、都市伝説みたいなものじゃなかったの?」
「いいや、実在する。国民の混乱を避けるため、何年も噂を操作してきたのだ」
「ソイツハ ビックリ ダゼ」
何年もだと?
そんな大掛かりな隠蔽を俺達に明かすってことは、だ。
「断ることは出来ない、と言う事ですね?」
「聡明だな。話が早くて助かる」
何で終始上から目線なんだこいつは、何様のつもりだ。王様だった。
「しかし……、駒ヶ根玉は武器でも防具でもありません。こんな物で、ご期待に沿えるかどうか」
「謙遜するな。私も魔法は人並みに修めておるが、あのような術は見たことがない。属性すら見当がつかないとはな」
魔法じゃないってのに!
あんな非常識な存在と一緒にしないでほしい。
「そして旅には……、我が娘を連れて行ってもらう」
「!? 何故そのような危険を?」
あれ? また女の子が増える流れだこれ。
「娘は王家にしか使えない、光属性魔法の扱いが上手い。必ず役に立つだろう」
そいつは心強い。
もう俺みたいな非戦闘員、いらないんじゃないか?
「と言うわけなのです。皆さん、宜しくお願いします!」
「あ、あぁ。こちらこそ宜しく」
「宜しくね!」
「ナカマガ フエタ ゼ。 ワタシ ウレシイ」
で、早速今日出発しろとのお達しだ。本当に勘弁して欲しい。
「そんで、姫ちゃんよ。魔王ってのはどっちの方角に居るんだ?」
「その呼び方やめて下さいよ、ちゃんと本名も教えたのに……」
「そう、だな。その内な。で、何処に?」
「それが……分かっていないのです」
「はい?」
お話にならんぞ。
出発だーと出て行った方角が反対だったら、どうしろと言うのだ。
「過去に数度姿を現した魔王は、毎回別の方角から攻めて来ています」
「魔物の分布とかで見当は?」
力無く首を振る。
これは想像以上に前途多難だ。
「アキラ、何か手は無いの? 魔王の本拠地に一気にワープしたりとか」
「そんな魔法みたいな事出来るわけないだろ! 非現実的な……」
「マホウデモ ムリ ダゼ」
「そうですか……。では、地道に各地を回るしか手は……」
まったくこいつら、俺を何だと思ってるんだ。
お前らの魔法の方がよっぽどあり得ないって言うのに。
「うーん……」
しかし何とかならないか。この世界でこそ、出来そうなこと……そうか!
「いや、あるぞ! ひょっとしたら!」
「何か思い付いたのね!」
「姫ちゃん、金持ってない?」
「金……ですか? それなら、このブレスレットの装飾に使われていますが」
「ちょっとそれ、使わせてもらって良いか?」
「もちろんです、でも一体これを何に……?」
しめた!
日本ではそう易々と使えなかったが、こっちでは希少な金属も比較的手に入れやすい!
「あとは……これだな!」
「!? 自分の髪の毛を……一体!?」
「ウオオ イタソウ ダゼ」
自ら髪を引き抜く姿は一見異常かも知れないが……お、どうやらエリーは気付いたらしいな。
「金はいつの時代も、特別な存在だった」
「!?」
ブレスレットを高速で地面に擦り付け、細かい傷を作っていく。
「アキラさん、これは……」
「まぁまぁ、黙って見てなさい。アキラの技術は本物だから」
「金は化学的に、殆ど反応を示さないんだ」
ブレスレットに毛髪を巻き付ける。一見これだけでも十分に見えるが……。
「だから料理等で体内に摂取しても問題無い! 錆びることも無いからな!」
両手でしっかりと掴み、体を軸に……振り回す!!!
「アキラさん!? 一体これは!!?」
「よく見るのよ!! 遠心力を加えている!!!」
「マサカ! ソンナコトガ!」
「……よし!! ここだアぁぁッ!!」
限界点に達する直前!!
0.01秒の誤差も許されないタイミングで!!!
「飛んで……行った?」
「ただ手を離して飛んで行ったように見えたのなら、まだまだね」
「え?」
「流石エリー、よく見ていたな」
久々の大作だ。流石に少し疲れたな……。
「ブレスレットは俺の手を離れる寸前!! 『駒ヶ根玉に昇華』されていた!!!」
「そんな! あの一瞬で加工を施したと言うのですか!?」
「おいおい、これでもプロの職人なんだぜ? ちょーっとシビアだったけどな」
「流石はアキラね」
「スゴイ ゼ アキラサン ハ」
「これが……、駒ヶ根玉職人!!」
相変わらずこの世界の人間は、この程度で大袈裟だな……。
「よし! これで目的地は分かった! 駒ヶ根玉が飛んで行った方向は……」
四人が同時に、東の空を見上げる。
大きな問題を解決した事で、皆一様に希望を感じているのだろう。
ただ一人、大きな不安の種を抱える彼を除いて。
出発前夜。
王の話のあと、俺はふと思い出して聞いてみた。
「ところで、姫の名前は何て言うんだ?」
「あっ、そう言えば言ってませんでしたね」
「流石に不便だからな」
「そうですね、私の名前は…………」
「…………え?」
最近エリーの成長速度が恐ろしいです。