武装解除!!ロイヤルレモン汁の巻
駒ヶ根玉を題材にした作品って、世界初じゃないですかね? 今更ですが。
「出て来いよ」
……待て待て、なんか勢いで言ってしまった。本当に出て来られてはマズイかも知れない。
エリーとドロシーは戦闘で互いに消耗しているのだ。
(駒ヶ根玉は……クソッ! やはりダメか!)
いかにプロの職人と言えど、有り合わせの材料では限界がある。
先程脳波コントロールに使った玉は、既に蒸発が始まっていた。
「隠れてないで出てきなさい!」
「コシヌケカー?」
(挑発するなぁ!!)
「あ、いやでもさぁ。向こうにも事情があるかも知れないし? 無理にとは言えないよな~。」
よし、もうこのまま帰っちゃおう。
最悪ドロシーを操って盾にすると言う手も無くはない。
「ではこれにて失礼……」
「お待ちください!」
「「「!!!」」」
ほら出て来ちゃった!
「すみません、怪しい者ではないのです!」
セーフっぽい!
建物の影から現れたのは、純白のドレスを纏い、美しい金色の髪を持つ少女。遅れて、二人の護衛らしき人物も後ろから出て来る。
「ご無礼をお許しください。実はあなた方のお力を見込んで、頼みたい事が……」
先の戦いを見られていたと言うことか。
エリー達はともかく、俺みたいな一般人は戦力にならないと思うのだが。
「内容にもよるけど……、話くらいなら聞くよ」
(しかし、また女の子か。この世界に来てから、やけに女の子ばっかり……)
(不自然な……くらいに……?)
「内密な話ですので、我が家まで来ていただきたいのですが……」
「え?あ、あぁ。もちろん。喜んで」
考える暇はあまり無さそうだ。
だが……引っ掛かる。偶然なら、それで良いのだが。
「着きましたわ」
「えっ? ここが貴女の……家?」
「スゴク オオキイ ゼ」
「大きいって言うか、これは……」
結論から言おう、城だった。
比喩ではない。紛うこと無き、この街の中心部。
「さぁ、どうぞ入ってください」
「君……いや、貴女はもしや、お姫様? という事なんでしょうか?」
「隠していてすみません。貴方達には、今からお父様に会っていただきます」
「それってつまり、王様ってことよね!?」
「オォウ、キングニ アエルナンテ コウエイ ダゼ」
「俺この世界に来てまだ初日なんだが……。眠い……」
「この先です」
広い部屋。
ズラリと並ぶ護衛の兵士。
そして玉座には、王。
「その者達が……?」
「はい、お父様」
何の話だ。早く用件を言え。
「えっと……、お話と言うのは?」
「娘は、強力な魔法を使える人間を探していたのだ」
あ、じゃあ俺関係無いですねなーるほど
「お父様……。このアキラさんは、見たこともない魔法を使うのです」
「えっ」
「ほう」
どいつもこいつも……。
日本最古の民芸品を、魔法なんて非科学的で意味の分からん物と一緒にしやがって!
「あれはですね……、魔法じゃなくて、生物学的な」
「何だってよい。そうだな……、何かここで見せてみよ」
「えぇ……」
くっそ、なんだこのオッサン
「何でもと言いましても、俺……私に出来るのは、精々駒ヶ根玉を作ることくらいでして……」
「こまがね……? 構わん。作って見せよ」
こんなもの作ったところで、何の役にも立たないってのに……、こうなりゃヤケだ!
「では王様。布切れとレモン汁、あと小さな鉄の欠片をいくつか用意していただけますか?」
「構わんが……そんな物で一体何を?」
「布切れ……レモン汁……はっ! まさかアキラ! アレを起こす気なのね!?」
「ああ。こんなんで満足してもらえるかは、分かんねェけどな!」
原理自体は小学生の自由研究レベルだが……、この世界の科学力なら、理解していない筈!!
「レモンはクエン酸を多く含んでいるんだ。……よし」
布切れ全体に、レモン汁をよく染み込ませる。
「そして……ビタミンC。これも大事だ」
布切れを丸め、トントンと軽く、まんべんなく叩く。
「一体……奴は何をしているのだ?」
「王様、理解できないのも無理はありません。私も最初はそうでしたから……」
布を広げ、鉄片を並べ!
「頼むぞ……、成功してくれ……!!」
再び丸く!! 包み込む!!!
「おお……!」
「やったわね……アキラ!」
「ナンダアレハ スゴイ ゼ」
やれやれ。久し振りだったが、手順を忘れてなくて良かった。
「出来たぜ……! 駒ヶ根玉だ!!」
ザワつく護衛兵達。
「一体……何が起こるというのだ!?」
「見てのお楽しみさ!」
完成した駒ヶ根玉のカバーを開き、中のスイッチを押す! すると!!
「こ、これは!? 眩しいっ!!」
「これはビタミンCの作用……玉が発光しているのね!」
「メガ ミエナイ ゼ」
「こんな力……本当に、あの方は一体どういう!?」
光は収まった……が、数秒の後、どよめきが広がる。
「これは……! 護衛兵達の武器が! 鎧が!!」
「悪いな! ちゃんとあとで弁償するぜ」
当然、兵士の装備は全てドロドロに溶けている。
だが基礎的な化学の原理を知らないこの世界の人間は、ただ驚くばかりだ。
「流石はアキラね……この土壇場で、こんなこと思い付くなんて」
「へへ、まぁな」
(この者達なら……本当に出来るかも知れん)
(『魔王』を討つ事が……!!)
メインストーリーに入りそうですね。
鎧を溶かすやつは、小学生の頃友達の家でやってよく怒られました。