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ただの駒ヶ根玉職人でも異世界は救えるか?  作者: 駒雅 嶺太郎
~駒ヶ根夢想編~
4/24

魔法って、すごーい! ~叡知の勝利~

 罪には、罰を。

「よう、見つけたぜ」

「!?」


 玉を追い、人通りの少ない路地裏まで辿り着いた俺達が見た犯人の容姿は、意外なものだった。

 服装はややみすぼらしいが、肩まで伸びた透き通るような水色の髪が目を引く少女。盗みがバレたのはこれが初めてなのだろうか、随分と驚いた様子だ。


「誰だあんた達? 私はお前らなんか見たことないぜ?」

「シラを切るつもり? 人様の物盗んでおいて、良い度胸ね」

「おいおいおいおい、証拠でも有るってのかい?」


 当然の反応。はいスミマセン、と言う(はず)が無いことは分かっていた。

 無いならこれで、と立ち去ろうとする盗人少女。


「……ここは人気(ひとけ)が無いな」


 証拠なんて必要無い。金返せ。


「おー怖、女の子相手に力ずくでってか? お兄さん見かけによらずクレイジーだね」


 妙に余裕そうな表情だ。

 何かヤバイ、二人相手に勝てる()があるのか?


「アキラは手を出さなくて良いわ」

「え?」


 エリーの手に炎が(とも)る。


「そろそろ借りも返したいしね、私がやるわ!」


 すっかり忘れていた。エリーの魔法は、一般人の俺より明らかに戦闘に向いている!

 ……しかし。


「炎……ね」


 奴は多少警戒を強めたが、(なお)も余裕だ。

 間違いない、何かある。


「エリー! 気を付けろ!」

「分かってるわ……よっ!!」

「!」


 エリーの両手から巨大な炎が放たれた。

 明らかに前回の火球より強い。

 1対1であれば、このレベルで使用できると言う事なのだろう。


「……なっ!?」

「えっ!?」


 しかしそれが標的に届くことは無かった。

 何かにかき消されている様だ。


「あんた、随分と運が悪いねェ。水属性(・・・)使いの私に炎で挑もうなんて」

「相手も魔法を……!?」


 素人目に見ても、相性最悪。


「ちょっとマズイわね……!」

「ははは……アレ?」


 火力が上がっているようだ。水の一部が、音を立てて蒸発し始めた!


「へぇ、やるじゃん。このまま力比べでもするかい!」

「!!」


 相手も余力を残していたようだ。


「スゲェ……」


 炎と水が空中で(はじ)け合う。

 完全に物理法則を無視した現象に、俺は恐怖を覚える。


「これが魔法……! こんなの、どうすれば……」

「くっ……!」


 やはり相性の差、エリーが押されている!!


「どうすれば……水を、消すには……はっ!」


 水! つまりは水素と酸素の集合体に過ぎない!


「そうだ、アレ(・・)だ! アレ(・・)さえあれば!」


 きっとこの街の何処(どこ)かにある!

 俺が見つけて来るまでエリーは耐えられるだろうか。

 いや、今は彼女を信じるしかない!


「はははは! おい!! お仲間は逃げちゃったぞ!」

「……!」

「残念だったなー。可哀想に」

「アキラは……絶対に仲間を見捨てたりしない!!」

「うぉっ、まだそんな力が……」



 街を走る。

 一直線に来た道を戻る俺の姿は、(はた)から見れば逃亡者にしか見えないだろう。だが!


「さっきここへ来る途中で、確かに……! あった!!」


 俺が探していた場所! それは!!


古道具屋(・・・・)!!」

「おっちゃん!! この鍋貰うぜ! 金ならある!」


 偽造千円札の(たば)を叩きつけ、急いで作業にかかる。


「やっぱりだ。中古の鍋! 水にはこれが一番だ!」


 あとはこれを、(こま)()()(だま)に加工するだけ……!!




「はぁ……はぁ……」

「大した奴だよ、不利属性相手にここまでやるなんてさ」

「…… まだ……」

「なんか可哀想になって来たからな……。安心しな、一撃で楽にしてやるよ」


 水を(まと)った腕が、エリーの頭上へと振り降ろされる!


「じゃあな」

「!!」




「…………え?」


 しかし、それがエリーの体を引き裂く事は無かった。

 盗人少女は、腕を振り上げたまま動かない。


「悪い、待たせた」

「あ……、アキラァ!」


 即席駒ヶ根玉の投擲(とうてき)が何とか間に合ったらしい。

 頭に駒ヶ根玉を受けた少女は、糸の切れた操り人形のように、その場に座り込んでしまった。


「でも一体、今回は何をしたの?」

「古鍋さ」

「鍋……? はっ! まさか!」


「そう。鍋に使われている金属は駒ヶ根玉と相性が良いんだ。そして……、人体(・・)ともな」

「人体……脳波コントロール(・・・・・・・・)ね!!」

「その通り」


 コツを掴んでからの彼女は随分と理解が早くなったな。

 もうちょっと教えてやれば、現代日本でも生きていけるかも知れない。


「古鍋ベースの駒ヶ根玉を頭部に接触させることで、脳の大部分のハッキングに成功した。まぁ流石に初めてだから、上手く行くかは賭けだったけどね」


 動かなくなった彼女の頭部に触れる。


「つまり……」


 スッと起き上がる身体。


「サッキハ ワルカッタナ、アキラサン」

「こいつも今日から仲間だ」

「凄い……さっきまで敵だった相手を、簡単に手懐けてしまうなんて!」


「ヨロシクナ、エリー」

「えぇ、宜しく。えっと……」

「あー名前か、適当につけようぜ。俺の財布盗みやがった泥棒だから……ドロシーだ!」

「宜しくね、ドロシー!」

「ワァイ、ワタシドロシー ダゼ」


「これで一件落着……!」


 視線を感じる。


「エリー、ドロシー」


 二人も気付いたようだ。


「見られてるわね。いつから?」

「マッタク キヅカナカッタゼ」



 本当の厄介事はこれからだとでも言うのだろうか。

 果たして俺はこんな民芸品(こまがねだま)程度で、この世界を生き抜く事が出来るのだろうか……。




「出て来いよ」

 流石に今回の行為は現実でやると捕まっちゃいますね。

 脳はデリケートなので。

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