魔法って、すごーい! ~叡知の勝利~
罪には、罰を。
「よう、見つけたぜ」
「!?」
玉を追い、人通りの少ない路地裏まで辿り着いた俺達が見た犯人の容姿は、意外なものだった。
服装はややみすぼらしいが、肩まで伸びた透き通るような水色の髪が目を引く少女。盗みがバレたのはこれが初めてなのだろうか、随分と驚いた様子だ。
「誰だあんた達? 私はお前らなんか見たことないぜ?」
「シラを切るつもり? 人様の物盗んでおいて、良い度胸ね」
「おいおいおいおい、証拠でも有るってのかい?」
当然の反応。はいスミマセン、と言う筈が無いことは分かっていた。
無いならこれで、と立ち去ろうとする盗人少女。
「……ここは人気が無いな」
証拠なんて必要無い。金返せ。
「おー怖、女の子相手に力ずくでってか? お兄さん見かけによらずクレイジーだね」
妙に余裕そうな表情だ。
何かヤバイ、二人相手に勝てる策があるのか?
「アキラは手を出さなくて良いわ」
「え?」
エリーの手に炎が灯る。
「そろそろ借りも返したいしね、私がやるわ!」
すっかり忘れていた。エリーの魔法は、一般人の俺より明らかに戦闘に向いている!
……しかし。
「炎……ね」
奴は多少警戒を強めたが、尚も余裕だ。
間違いない、何かある。
「エリー! 気を付けろ!」
「分かってるわ……よっ!!」
「!」
エリーの両手から巨大な炎が放たれた。
明らかに前回の火球より強い。
1対1であれば、このレベルで使用できると言う事なのだろう。
「……なっ!?」
「えっ!?」
しかしそれが標的に届くことは無かった。
何かにかき消されている様だ。
「あんた、随分と運が悪いねェ。水属性使いの私に炎で挑もうなんて」
「相手も魔法を……!?」
素人目に見ても、相性最悪。
「ちょっとマズイわね……!」
「ははは……アレ?」
火力が上がっているようだ。水の一部が、音を立てて蒸発し始めた!
「へぇ、やるじゃん。このまま力比べでもするかい!」
「!!」
相手も余力を残していたようだ。
「スゲェ……」
炎と水が空中で弾け合う。
完全に物理法則を無視した現象に、俺は恐怖を覚える。
「これが魔法……! こんなの、どうすれば……」
「くっ……!」
やはり相性の差、エリーが押されている!!
「どうすれば……水を、消すには……はっ!」
水! つまりは水素と酸素の集合体に過ぎない!
「そうだ、アレだ! アレさえあれば!」
きっとこの街の何処かにある!
俺が見つけて来るまでエリーは耐えられるだろうか。
いや、今は彼女を信じるしかない!
「はははは! おい!! お仲間は逃げちゃったぞ!」
「……!」
「残念だったなー。可哀想に」
「アキラは……絶対に仲間を見捨てたりしない!!」
「うぉっ、まだそんな力が……」
街を走る。
一直線に来た道を戻る俺の姿は、端から見れば逃亡者にしか見えないだろう。だが!
「さっきここへ来る途中で、確かに……! あった!!」
俺が探していた場所! それは!!
「古道具屋!!」
「おっちゃん!! この鍋貰うぜ! 金ならある!」
偽造千円札の束を叩きつけ、急いで作業にかかる。
「やっぱりだ。中古の鍋! 水にはこれが一番だ!」
あとはこれを、駒ヶ根玉に加工するだけ……!!
「はぁ……はぁ……」
「大した奴だよ、不利属性相手にここまでやるなんてさ」
「…… まだ……」
「なんか可哀想になって来たからな……。安心しな、一撃で楽にしてやるよ」
水を纏った腕が、エリーの頭上へと振り降ろされる!
「じゃあな」
「!!」
「…………え?」
しかし、それがエリーの体を引き裂く事は無かった。
盗人少女は、腕を振り上げたまま動かない。
「悪い、待たせた」
「あ……、アキラァ!」
即席駒ヶ根玉の投擲が何とか間に合ったらしい。
頭に駒ヶ根玉を受けた少女は、糸の切れた操り人形のように、その場に座り込んでしまった。
「でも一体、今回は何をしたの?」
「古鍋さ」
「鍋……? はっ! まさか!」
「そう。鍋に使われている金属は駒ヶ根玉と相性が良いんだ。そして……、人体ともな」
「人体……脳波コントロールね!!」
「その通り」
コツを掴んでからの彼女は随分と理解が早くなったな。
もうちょっと教えてやれば、現代日本でも生きていけるかも知れない。
「古鍋ベースの駒ヶ根玉を頭部に接触させることで、脳の大部分のハッキングに成功した。まぁ流石に初めてだから、上手く行くかは賭けだったけどね」
動かなくなった彼女の頭部に触れる。
「つまり……」
スッと起き上がる身体。
「サッキハ ワルカッタナ、アキラサン」
「こいつも今日から仲間だ」
「凄い……さっきまで敵だった相手を、簡単に手懐けてしまうなんて!」
「ヨロシクナ、エリー」
「えぇ、宜しく。えっと……」
「あー名前か、適当につけようぜ。俺の財布盗みやがった泥棒だから……ドロシーだ!」
「宜しくね、ドロシー!」
「ワァイ、ワタシドロシー ダゼ」
「これで一件落着……!」
視線を感じる。
「エリー、ドロシー」
二人も気付いたようだ。
「見られてるわね。いつから?」
「マッタク キヅカナカッタゼ」
本当の厄介事はこれからだとでも言うのだろうか。
果たして俺はこんな民芸品程度で、この世界を生き抜く事が出来るのだろうか……。
「出て来いよ」
流石に今回の行為は現実でやると捕まっちゃいますね。
脳はデリケートなので。