低レベル・ザ・ワールド
お食事スタート。まるで元気系少年主人公。
「うっ、うンまい……!! ここの料理人は天才か!?」
「ちょ、ちょっと。恥ずかしいから大声出さないでよ……」
難しいことを考えていても、いきなり答えは出てこない。
と言うわけで、俺達は料理屋にて絶賛腹ごしらえ中だ。
「大丈夫なの? そんなに食べて」
「なぁに、こんな旨いもんならいくらでも入るぜ!」
元の世界では食べたことのない味。この貝みたいな何かが最高に好みだ。こっちは……タツノオトシゴの素揚げ?
「そうじゃなくて、お金……」
そちらも問題無い。この世界の通貨が日本円であることは確認済みだ。
「だーいじょーぶ! 確かこの前駒ヶ根玉の材料費のために、5万円下ろして……」
凍りついた。財布が、無い。
「あ……れ……?」
(落ち着け! コンビニでは確かにあった! 買い物出来たんだからな!)
ちなみに買ったものは手を離してしまったからか、こちらの世界に持ち込めていない。
(猿と戦った時……でもない!)
あのあと現状把握のために所持品を整理した。その時は確かにあったのだ。
「スられた……」
「え? 今なんて!?」
「いや、慌てる事じゃないんだ。大丈夫。でも……千円だけ貸してくれないか?」
「それは良いけど、千円じゃ絶対足らないわよ! 私も大した額持ってないし……」
千円札。一枚あれば十分だ。
「驚いても大声出すなよ……」
「一体何を……っ!?」
受け取った千円札を細かく千切る。1センチ四方の紙吹雪が出来上がった。
「そろそろ俺を信じろよな……。まぁ、黙って見てなって」
紙吹雪をワインに浸す。
「アルコールってのは、構造によって種類が違うんだ。第一級、第二級、第三級ってな」
ワインを吸った千円札を皿に移す。
「だから本来は色々面倒なんだが……、その点に関して紙幣ってのは非常に相性が良いんだ」
皿の上の紙吹雪をフォークで混ぜる。
「流石にもう分かるよな? これからどうなるか」
胡椒を振りかけ、手で押し固める!!
「それって……、ひょっとしていつもの?」
「あぁ、駒ヶ根玉だ。完成したぜ」
出来上がった駒ヶ根玉にナイフで傷を入れると、傷口から次々と湧き出る千円札。
「凄い……! 一体なんで!?」
「なっ!? このレベルでも理解できないのか?」
化学基礎を習っていないらしい。高卒の俺でも分かるってのに。
この世界の人間には、幼稚園児と話すつもりで話さなきゃならないようだ。
「でもこれって、大丈夫なの? 偽札なんじゃ……」
「大丈夫。バレないよ」
「それってつまり大丈夫じゃないわよね……」
確かに、現代日本ならこんなもの即座に見破られてお縄だ。
「何となくこの世界の文明レベルは分かってきたからな。これを見破る技術は、無い」
「これで私も犯罪者か……」
無事に会計を済ませ、何事も無く店を後にする二人。
方や清々しい顔、方やゲッソリした様子。
「な、大丈夫だったろ?」
「千円札ばっかりで、まあまあ怪しまれてた気がするわよ?」
「終わり良ければすべて良し! じゃあ始めるかぁー」
「え? 始めるって、何を?」
「何って、決まってンだろ。俺の金盗みやがった野郎を取っ捕まえんだよ」
あいにく俺は泣き寝入りするほどお人好しじゃあないんだ。当然の流れだろうに、エリーは意外と甘いのか?
「そ、そんなの不可能よ……。顔すら見てないのよ? こんな大きな街じゃ、見つかりっこないわ」
「うーん……、正論だね。でもこれならどうかな?」
これが無ければ、確かに不可能だった。天は俺に味方しているらしい。
「それは……リンゴの葉? そんなものが一体何の役に立つって言うの?」
「よーく考えてみてよ。かのアイザック・ニュートンはリンゴの落下を見て万有引力に気付いたんだ」
「ニュートン?」
しまった、この世界にニュートンは居ないか。
「要するに……、物体が物体を引き寄せる力だと思ってくれ」
説明しながらも手は休めない。リンゴの葉を半分に折り、自分の額に擦り付ける。
「そしてリンゴの実の色だ。リンゴが赤いのは詰まる所、その表面が赤い光を反射しているからに他ならない。」
「……! まさか!」
葉を地面に起き、葉脈に沿って指を滑らせる!!
「そう、そのまさかさ」
「駒ヶ根……玉……!!」
ようやくエリーも理解し始めたようだ。
すると突如、強烈な風が吹き付けた。
「あぁっ! 玉が!」
風に煽られ、コロコロと転がって行く駒ヶ根玉。だがもちろん、偶然などではない。
「いや、これで良いんだ。あとは俺達がコイツに着いていくだけで……」
「犯人の元へ……ってわけね」
「やれやれ、ようやく円滑な会話が出来たな」
駒ヶ根玉は速度を増す。転がり始めた運命の車輪はもう、止められないのだろう。
筆者も子供の頃よくやりました。
リンゴは色々使えますよね。