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ただの駒ヶ根玉職人でも異世界は救えるか?  作者: 駒雅 嶺太郎
~エピローグ~
24/24

ただの駒ヶ根玉職人でも異世界は救えるか?

「結局……どういうことだったの?」


 どこかの草原。

 丁度良い木陰を見つけ、二人(・・)はのんびりと休憩していた。


「魔王様は……死んだのです」


 ミシェルとミヘッグ、今回の騒動で生き残った数少ない魔族だ。

 本来魔族とは魔王……つまり、アキラの父がこの世界で英雄になるための、敵として生み出された生き物だった。

 だが彼は幼かったエリー達の心が思うように掌握できず、その絶望の余りカメルやサジタリウスといった一部の魔族達に事情を話し、自らが魔王として君臨したのだった。

 

 その魔王が死去した今、二人は特に何もする気がおきず、ただダラダラとしていた。


「魔王様が死んだら、世界が滅ぶんじゃなかったの?」


 ミシェルの説明でしか状況を知り得ないミヘッグには、例のごとく、所々正確に伝わっていないらしい。


「『アカウントハック』……と言っていたのです。魔王様が死ぬ瞬間、何かを乗っ取ったとか何とか言ってたのです」

「……ちゃんと視て、ちゃんと聴いて、ちゃんと説明しなさい」


 あの時、魔王の呼吸が止まる瞬間、アキラは駒ヶ根玉(この世界)をハッキングした。

 駒ヶ根玉の脆弱性が発見、研究されたのはつい数年前から。魔王はその技術を知り得なかったのだ。


「要するに……アキラの奴が、この世界の『所有者』になったらしいのです」

「……大丈夫なの? それ」


 魔王が支配していた方が平和だったのではないか、ミヘッグはこの世界の未来に不安しか感じなかった。


「それは大丈夫みたいなのです。アキラは帰るそうなのです」

「帰る?」

「えーっと……、アキラや魔王様が生まれた、別の世界らしいのです」


 精一杯に頑張って伝えたつもりらしい。

 ギリギリ及第点かね、とミヘッグの頬が緩んだ。


「私達、これからどうするのです?」

「さぁ~ね~、世界旅行でもする? あんたの()も、私の()も使わずに。私達の足で」

「良い考えなのです! 実は前々から、自分の目で世界を見て(・・)みたかったのです!」

「いっつも千里眼で旅行もどきしてたもんね~」

「なっ!? なぜ知っているのです!?」

「あんたの部屋の前通る時、いっつも気持ち悪い声が漏れてたんだもん」

「~~! もう知らないのです! 私一人で旅するのです!」

「はいはい。で、どっちに行こっか」

「ん? うーん、南なんかどうなのです? きっと暖かいのです」

「じゃー、南へレッツゴー!」

「おー! ……あれ?」


 魔族とは、本当に悪だったのだろうか。

 いや、そもそもそんな考え方自体が、ナンセンスだったのかも知れない――。







「本当に帰っちゃうの?」


 エリーが寂しそうに尋ねる。


「あぁ。野村さんにも謝らないといけないし……、あのトラックの運転手にも無事を伝えておきたいしな」


 恐らくあの時……トラックが俺を()ねる寸前、胸ポケットに入れていた野村さんの駒ヶ根玉に接触したのだろう。

 認めたくないが、俺は確かに親父(アイツ)の息子だ。技術もアイツから学んだ。

 だから……、アイツの駒ヶ根玉(この世界)と共鳴反応を起こし、俺をこの世界へと飛ばしてしまったんだろう。


「…………お兄ちゃん」


 ミカは今にも泣き出しそうだ。可愛いやつめ。


「大丈夫だって! いつでもこっちに来れるから、心配すんな!」


 この世界が駒ヶ根玉であると分かった以上、その原理を理解するのは難しくなかった。

 となれば当然……自由な行き来も可能となった訳だ。


「魔物達も皆、機能停止したみたいだしな。あれは恐らく、魔王の奴がこの世界で遺伝子に細工した生き物だったんだよ」

「遺伝子の中に仕込まれた玉が機能停止したことで、皆死んじゃったってわけね」

「あぁ。エリー達みたいに、この世界と同時に創ら(・・・・・・・・・・)れた魔物(・・・・)は生きてるかも知れないけど……、まぁ居ないだろ、多分」


 もし生き残りが居ても、きっと大した問題にはならないだろう。これは勘だが、俺が間違える筈は無いから、きっと大丈夫だ。


マドカ(・・・)、今まで名前で呼んでやらなくて、悪かったな」

「そうですよ……姫ちゃんだなんて。そう言えば、どうしてだったんです?」


 マドカ=ファースト。姫ちゃんの本名だ。

 なんとなく、そう呼ぶ気にはなれなかった。


「……母さんの名前なんだよ。あのロリコンきっと、お前をメインヒロインにするつもりだったんだぜ」

「……!?」


 ファースト王家のみが光属性魔法を使えたのは……彼女を万が一にも傷付けないためだったのかも知れない。

 親父は結局、母さんを愛していたのだろうか。

 今となってはもう分からないし……俺が考える必要も無い。


「アキラ! 壊れた町! なんとかならないの!?」

「……いくら所有者になったと言っても、俺の技術じゃ無理なんだ。今はまだ、な」

「! それって……」


 そう。俺は元の世界に帰ったら、駒ヶ根玉の修業に打ち込む予定だ。


「いつか……もしいつか、親父(アイツ)を超える職人になれたら……、この世界で死んでいった人達も、何とか出来るかもしれない」

「…………!」


 ミカが目を見開く。


「ミカのお母さんも……サーニャの里のエルフ達も……。もちろん保証は出来ないぜ?」


 確かに難しい。でも……俺はやってみせる。




「お兄ちゃん…………またね」

「アキラ! またねー!」


 こいつらが家族と、また笑って暮らせるように。


「アキラサン、ゲンキデナ」

「今まで……ありがとうございました!」


 この世界の人々が、平和に過ごせるように。


「アキラ……。信じてるからね!」


 そのためなら、俺は頑張れるんだ。




「あぁ、見せてやるぜ。ただの駒ヶ根玉職人でも、異世界は救えるって事をな!」




END

 全国70億人の駒ヶ根市民の皆様、最後まで読んでていただき、ありがとうございました!

 終わりましたねー、私の処女作。

 色々書きたいですが長くなってもあれなので、また活動報告の方にでも。

 何はともあれ読者の皆様、本当にありがとうございました。そしてよろしければまた、次回作で。

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