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ただの駒ヶ根玉職人でも異世界は救えるか?  作者: 駒雅 嶺太郎
最終章 ~そして駒ヶ根へ~
22/24

魔王の正体 ―夜明け―

「――――!!」


 広く豪奢(ごうしゃ)な部屋。

 天蓋のついた豪華なベッドで寝ている彼は、毎朝窓から射し込む日の光と鳥のさえずりによって目を覚ます。

 だが、今日は違った。

 空もまだ暗い夜明け前、彼は弾かれたように飛び起きた。


「これは……城の上空から!?」


 彼の名はシノウ=ファースト。

 アキラ達に魔王討伐を命じた、ファースト王国の王である。

 一国一城の主ともあろう者が血相を変え、寝巻きを着替えることもせず部屋を飛び出し、衛兵達へ命令する。


「住民達を避難させよ!! 私の結界(・・)が攻撃を受けている!!」

「は、はっ!! 敵はどちらから!?」

真上(・・)だ! 何処でも良い! この城から少しでも遠くへ逃がせ!!」

「……! 全員聞いたな! 急げ!」


 兵士達が城下町へと散って行く。

 この国始まって以来の危機だろう。四方からの襲撃に備えた訓練は行っていたが、真上からの攻撃など、微塵も想定していなかった。


「国王! お急ぎください!」


 一人残った兵士が叫ぶ。

 シノウは、何故かその場を動こうとしなかったのだ。


「……今……私が止めている」

「!? 私にも何か……、お力になれる事は!」


 目には見えないが、この街は魔法によって作られたドーム状の防壁によって囲まれていた。

 これによって魔物達の侵入を防いでいたのだ。

 当然、どの国でもしている事……ではない。


「お前も逃げろ! 知っておろう、光属性魔法(・・・・・)は我ら王族にしか使えんッ!」


 思わず声を荒らげる。

 傍目には分からないが、全魔力を防壁に集中し続けているのだ。

 そのためシノウの体には……既に限界が近付いていた。


「……私は最後まで、王のお側に!」

「馬鹿者が……」


 ――そしてその限界は、容赦無く訪れた。


「アキラ、娘を…………頼んだぞ」



 アキラが初めて訪れた街。

 あの料理屋も、あの古道具屋も。

 沢山の出会いが詰まったファーストシティは激しい閃光に包まれ――消滅した。








 ミシェルは――夢を見ていた。

 多くの人間が行き交う道。だが、彼らは皆一様にせかせかとしている。

 見たことの無い高い建物、見たことの無い服装の人々。

 これは……自分の記憶では無い。


 場面が変わった。ここは……魔王城だ。

 ミシェルの生まれ育った城。見間違うはずもない。

 ここもすっかり閑散としてしまった。

 お調子者のガフラスも居ない。自称四天王の馬鹿達も居ない。優しかったルシファーも居ない。

 皆もう、何処にも居ない。


「……誰なのです?」


 誰かが居る。あのあと逃げなかった連中の内の誰か。

 カメル……サジタリウス? いや、彼らも先日逝ったのだった。

 じゃあ、ミヘッグか……魔王様だ。


『………、…………!』


 会話をしている。二人? いや、あれは……。


『よーし、この辺で良いよなエリー!』




「アキラッ!?」


 驚愕と共に叫び声を上げ、ベッドから飛び起きた。

 今の夢、少なくとも後半は……夢じゃない。恐らく無意識に、自身の『千里眼』が発動していたのだ……と、言うことは。


「奴等既に、魔王城に侵入しているのです!?」


 再び目を閉じ、様子を探る。

 最悪だ。ついにこの日が来てしまった。

 逃げようと思えば間に合った。だが彼女は……暖かいベッド(・・・・・・)を失いたくなかった。

 逃げれば野宿。まだ大丈夫、あと一日くらいと先延ばしにし、結局彼らの到達時間を見誤ってしまったのだった。


「……! 居たのです!」


 アキラは何やら玉を取り出し、仲間達に説明している。


(こま)()()(だま)! 何をする気なのです!?」


 会話を聞くため、視点を寄せる。

 そして聞こえてきたのは、耳を疑う言葉だった。


『――って事で、これで魔王城を丸ごと吹っ飛ばすから』

「!!??」


『俺が床に置いたら周囲の破壊が始まって……3分くらいで大爆発するはずだから、俺達はその間に逃げる』

『相変わらず完璧な作戦ですわ、アキラさん!』


 あの悪魔達は相変わらず、何とも楽しそうに恐ろしい計画を立てている。

 そして今この瞬間、その絶望的な状況を把握している魔族はただ一人……ミシェルのみだ。


「ミ、ミヘッグに! 知らせるのです!」


 大急ぎで部屋を飛び出す。

 幸いミヘッグの部屋はさっき視た廊下とは反対方向。奴等と出くわす心配は無い。

 ただ、問題は……。


「ミヘッグ!! まだ寝てるのですか!! 起きるのです!!」


 まだ寝てるも何も、まだ夜明け前なのだ。

 部屋のドアをどんどんと叩くも、中からの返事は無い。


「……! おりゃーっ!」


 何もここで起きるのを待っている必要など無いのだ。

 腐っても魔族。彼女はミヘッグの部屋のドアを粉々に蹴破った。


「ミヘッグ! 起きるのです!」

「んもう……なぁによ……」


 体を強く揺さぶられ、ようやく目が覚めるミヘッグ。

 眠たそうに目を擦っている。


「奴等が爆弾持ってきたのです!」

「だから、説明はちゃんと――」

「アキラ達がもうここに居るのです!!」

「……はぁっ!?」


 寝ぼけていた頭が一気に覚醒し、両手でミシェルの肩を掴む。


「あんた昨日はまだ大丈夫って! それに爆弾って何よ!?」

「西棟一階の廊下なのです! お前のどこでもホールでどっかに放り捨ててほしいのです!」


 事態を把握し西棟への時空穴を開いたミヘッグだったが、慌ててミシェルに止められた。


「何よ! 捨ててほしいんじゃないの!?」

「既に爆弾の周りがバリバリしてるのです! 近付けないのです!」


 相変わらずのアバウトな説明だが、今は注意する時間も惜しい。


「……遠隔で穴を開くわ! あんたが誘導して!」


 西棟の床面に、当てずっぽうで時空穴を開く。

 玉から1メートルほどズレた位置だった。


「違うのです! もうちょっと右なのです!」

「右ってどっちよ! 私からは見えてないんだって!」

「あ~っ! えーっと!」


 残された時間も分からず、爆弾の位置も見えず。

 常人ならパニックになってもおかしくない状況の中、ミヘッグは……。


「――方角は!!」


 冷静だった。


「東なのです!!!」

「っ!!!」


 可能な限りの大きな時空穴を開く。

 玉は――


「どう!?」


 ――無事、穴へと落ちていった。


「や……、やったのです!」

「っはぁ~~っ、疲れたっ!」


 ホッと胸を撫で下ろすミシェル。

 起き抜けに大仕事を片付けさせられたミヘッグは、後ろ向きにベッドへと倒れこんだ。


「でもあの穴、何処に繋げたのです?」

「分かんない、焦ってたからね。でも、ず~っと西の方の上空(・・・・・・)よ」

「西ならたぶん大丈夫なのです。奴等が大体滅ぼしたあとなのです」


 と言って、はたと顔を見合わせる。


「「…………」」

「逃げよっか」「逃げるのです」








「……おかしい」


 俺達は離れた場所で、今か今かと爆発を待っていたのだが……どうにも様子がおかしい。


「爆発! しないよ!?」

「…………楽しみだったのに」


 困惑するサーニャに、落胆するミカ。

 そして俺は、その両方だ。


「不発弾……?」

「ミニイッテ ミルカ?」

「まだ危険なのでは……」


 今まで成功続きだった俺の作戦が失敗した事で、エリー達に動揺が広がる。

 やっぱり……、こんな手では終わらせてくれないか。


「行こう」




 再び城へと足を踏み入れる。

 魔物の気配は無い。ただただ冷たい石の床を歩く、俺達の足音だけが響く。


「……!」


 先程玉を置いた場所に着いた。

 辺りの壁や床には激しく破壊された跡があるが、駒ヶ根玉だけが綺麗サッパリ無くなっていた。


「気を付けろ。まだ何か居るのかも知れない」


 予想に反し、いくら探索を続けても襲われる事は無かった。

 もぬけの殻。魔物達は皆逃げ出してしまったとでも言うのだろうか。


「……アキラ」

「あぁ。あとは……、この部屋(・・・・)だけだ」


 他の部屋とは一線を画す巨大な扉。

 間違いない。この中に、アイツ(・・・)は居る。


「行くぞ、皆。諸悪の根源……魔王(・・)の面を拝んでやろうぜ」


 誰も声には出さなかったが、代わりに力強く頷いた。


 そして静かに、扉に手をかける――。






「…………よく来たな」


「久しぶりだな……親父」




 ――――夜が、明けた。


 最終決戦。

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