石ころ乱舞! 謎多き世界
主人公、そろそろ調子が出て来るみたいですね。
「ところで、さっきの事なんだけど……」
ろくに舗装もされていない、幾度もの往来によって形成されたであろう道を歩く二人。
猿のような化け物を倒した俺達は、自己紹介を交えながら街を目指していた。
「さっき? あぁ、結局私の方が助けられちゃったわね……、ありがと」
紅髪の彼女は、少し恥ずかしそうに礼を言ってくれた。『エリー』という名らしい。
「それは良いんだけど、その……あの炎は一体どうやって?」
「え? あれはただの火属性魔法だけど……。あなたのだって似たようなものでしょう? 見たことのない魔法だったけど」
「ま……ほう……?」
当然、俺がそんなもの使える筈はない。
知っての通り、駒ヶ根玉はごくありふれた民芸品だ。
「あの、念のため聞くんだけどさ。俺が投げた物、本当は知ってるんだよね?」
「見たことないって言ってるじゃない。大方、土属性魔法の応用技ってところなんでしょうけどね」
なんということだ。
ここは駒ヶ根玉が存在しない、異世界だとでも言うのだろうか。
「石器時代以下の文明ってことなのか……?」
「ちょっと、何か今すごく失礼なこと言わなかった?」
「な、何でもないです……。あっ、あとあれは? さっきの猿みたいな奴等は一体?」
慌てて話題を切り替えるが、今度は彼女が呆れ顔になってしまった。
「魔物も知らないの? あなた本格的におかしいわね。頭でも打ったの?」
「い、いや分かるよ。魔物……ってつまり、なんかヤバイやつ? だろ?」
「……呆れた」
聞くところによると、あのような魔物が現れ始めたのはほんの数年前かららしい。
『魔王』が率いているという噂もあるらしいが、そっちは眉唾物ね、と肩をすくめた。
「あっ」
「どうした?」
「嘘! 最悪……」
エリーの視線の先、彼女のスカート。
「あー、破れちゃってるね」
「お気に入りだったのに……」
先の戦いで破れたのだろう。
俺のせいで巻き込まれた事態だ。流石に責任を感じる。
「よっし任せろ。このくらい、俺が直してやるよ」
「え? 裁縫道具なんて持ってるの?」
そんなもの、あるわけがない。
「これで十分だ」
道端に落ちていた小石を拾い上げる。
エリーの頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいる様子だが、これはまぁ仕方ないか。
「石ってのは昔から、人間との関わりが深いんだ。建材にしたり……」
いくつかの小石を集め、砂利の上に並べる。
「簡単には形が変わらないからな」
砂利と擦り合わせ、よく揉む。
「つまり」
よし、完成だ。
「駒ヶ根玉の材料には最適ってことさ」
出来上がった駒ヶ根玉をエリーのスカートに当てると、破れた部分がみるみる修復されていく。
「なんなの!? こんな魔法、初めて見るわ!」
「れっきとした科学なんだが……まぁ良いか」
この程度で驚かれてしまうのか。
どうやらこの世界の科学レベルは本当に低いらしい。
「また借りが出来ちゃったわね」
「そんな大層なことじゃないよ……あれ? ってもしかして」
丘の頂上まで来たことで、視界が一気に開けた。
「そうよ、見えてきたわね……。あれが『ファーストシティ』よ」
確かに、前方に大きな街が見える。
「……マジかよ」
防壁に囲まれた西洋風の家々。そして街の中心部には、巨大な城。
その様子は決定的に、ここが現代日本ではないことを主張していた。
(だとしたら、一つ気になる事がある。アレを確認しないと……)
こうして二人は無事、城下町『ファーストシティ』へと辿り着いた。
「……やっぱりだ」
「なに? どうかしたの?」
俺が気になっていた事。それはエリーの言語だ。
ここが異世界だと言うのなら、言葉が通じている事がそもそも不自然だ。
「エリー、この街の公用語は?」
「公用語ぉ? あなた一体いつの時代の人よ。大昔から、日本語が世界共通言語じゃない」
予想を遥かに超える返答だった。
店の看板を見た時点で文字が同じことは分かっていたのだが……。
世界共通? 猿でも気付く。余りに『都合が良すぎる』と。
「何か、あるな」
「え? どういうこと?」
嫌な汗が背中を伝うのを感じた。
考えたことがありますか?
もしも駒ヶ根玉が無かったら。
世界はこんなにも不便なんですね。