殺してでも生き残れ! ~四天王と4人の悪魔の巻~
前回新しいオモチャを手に入れたので、アキラさん大喜びです。
「……失礼しましたー」
「あっ、どうだった?」
数多の魔物達が住む、東の果ての魔王城。
その一室の、一際巨大な扉を開けて出てきたミシェルに、結果を尋ねるミヘッグ。
しかし返ってきたのは、意外な答えだった。
「……『気にするな!』と言われたのです」
「……はぁ?」
仲間の魔族を3人も殺され、その犯人一味が今もここに向かっている。その報告への返答が、「気にするな」。
いくら彼が『魔王』と言えど、異常な言葉だ。
「あのさぁ……、あんた、ただでさえ説明下手なんだから、魔王様に正確に伝わってないんじゃないの?」
「伝えたのです! それに魔王様は、既にあの玉の事を知っていたのです……」
「それって例の、駒ヶ根玉とか言うやつ? なんだって魔王様が?」
駒ヶ根玉。「西の悪魔」アキラが所持する、幾多の魔物と魔物以外とを葬ってきた殺戮兵器……と、彼女らは認識している。
ご存じの通り、本来は単なる日本の民芸品であるのだが、異世界の住人たる彼女らには知る由もない。
「そしてこうも言っていたのです。『元よりこの世界の人間に私は殺せないし、その男も絶対に私を殺すことは出来ない』と」
「はぁ~、回りくどい言い方……って、そうじゃないでしょ!」
突然怒鳴り声をあげるミヘッグに驚き、ミシェルの小さな肩が跳ねる。
「な、何を突然怒ってるのです!?」
「魔王様が死なないのはそりゃ結構な事よ。でも、私達魔族が死なないとは言ってないじゃない!」
「はっ! そうなのです!」
昨夜から連続している異常事態のため、ミシェルの頭は既に限界だったのだ。もっとも、元々頭の回転が早い方であるとは言えないが。
「魔王様が動かないと言うのなら……私が動くわ。自分の身は自分で守るのよ」
「それは駄目なのです! ミヘッグの能力は替えが利かないのです! もしお前まで殺られたら……」
「ば~か、私が直接戦う訳無いでしょ。ま、戦っても負ける気はしないけど」
「ほっ……でもそれじゃあ、また誰かを送り込むのです?」
「そゆこと。まぁ、まずは様子見がてら、あのアホ集団にでも行ってもらおうかね。」
「あー……アイツらなのです? 良いと思うのです、私もそんなに好きじゃないのです」
アホ集団を探しにその場を後にするミヘッグ。一方、反対方向へ向かうミシェル。
「ちょっとあんた、何処行くのよ」
「え? もう疲れたから、部屋でお休みするのです」
「……あんたが視ないでどーすんのよ。次のための情報収集するのよ!」
「うげぇ~……ていうか次って、もうアイツらが負ける前提で話してるのです……」
――――どうも、たけのこ派のアキラです。
自己紹介をしている場合ではない。俺達6人は、今日も今日とて東を目指していたのだが……。
「……四天王、だと?」
「如何にも!」
どうにも頭のおかしい魔物に絡まれてしまったのだ。
「魔王軍の?」
「そうだ」
エリー達は最低限の警戒はしているが……、どうやら俺一人で倒せると思っているらしく、やや遠巻きに見守っている。
「何故……、4人いるんだ?」
「四天王だからだ。」
ちなみにミカとサーニャは昼寝を始めた。
「バカかお前ら! なんで四天王が4人揃って来るんだって聞いてんだよ! 普通1人ずつだろ!」
「……はて? 何を言っているやら……」
分かっている。確かにそんな決まりは無いし、この方が確実だ。だけど……だけど……!
「『この先ひょっとして、四天王とか出て来るのかな~』って寝る前に妄想してた俺のワクワクを返せよッ!!」
「だからこうして出て来たではないか……。どうやら頭がおかしいと言う噂は本当だったらしいな」
人の夢を壊しておいてぬけぬけと、これだから魔物共は生かしておけん……んっ?
「おい貴様ら、誰の頭がおかしいだと? 誰がそんな根も葉も無い噂流しやがった!?」
「知る必要は無い」
「貴様は今から」
「死ぬのだからな」
「あっ……」
最後の奴にも台詞残してやれよ可哀想に……。
「アキラー、手伝おうか?」
「いや、こいつらは俺がやる。何をしようが人の勝手だが、この俺を侮辱する事だけは! 万死に値する!!」
魔物共が構える。いやなんで揃って待ちの構えなんだよ、数で勝ってんだから攻めて来いよ。
「ふふふ……。4人相手に勝てると思っているのか?」
「勝てるよ。相手が4人だってんなら……」
3本の髪の毛を抜き、投擲用駒ヶ根玉に突き刺す!
「「「「俺が4人分になる」」」」
「バカな! 分身しただと!?」
「流石アキラ! 毛髪を利用して、駒ヶ根玉で自分の分身を作ったのね!」
「「「「さぁ……始めようか」」」」
四天王と4人の俺がそれぞれ向かい合って立つ。
緊張が走る。誰かが動けば即座に均衡は崩れ、凄惨な殺し合いが始まるであろう。
「数が増えようと、所詮は人間」
「我々魔族に」
「敵う筈がないのだ」
「……そっ、その通りだ」
そいついじめられてるのか?
「……!! 死ねィッ!!」
「!!」
「「「「駒ヶ根メリケンパンチ!!!!」」」」
「「「「ぐばあああぁぁっっ!!!!」」」」
その終演は呆気ないものだった。正義の正拳突きによって、悪しき魔物達は無事粉砕された……。
「流石はアキラさんです!」
「シテンノウ タイシタコト ナカッタナ」
「「「「なに、敵がバカで助かっただけだよ」」」」
「……ところでアキラ、その分身髪の毛で作ってたけど、いつになったら消えるの?」
「「「「……あっ」」」」
「あっ」
「えっ?」
「4バカが死んだのです」
「ウッソ! もう!?」
魔王城中庭。ミシェルの千里眼により、一連の戦いは監視されていた。
「4人に分身した男に、能力を使う間も無く殴り殺されたのです」
「なんで人間が分身するのよ……、新手の魔法?」
「駒ヶ根玉なのです」
「だから何なのよそれは……」
予想外に早い決着に、流石のミヘッグも内心焦っていた。
その一方で、予想通りという様子のミシェル。
「何だかんだ言って、ミシェルの話は少なからず誇張されているだろう」。そう高を括っていたミヘッグだったが、自分の認識が甘かった事を知った。
「終わったから、さっさとそのどこでもホール閉じるのです。また奴等に見つかったら今度こそ……ひっ!?」
「こ、今度は何よ!?」
「……残った分身達と、殺し合いを始めたのです……」
「…………」
生物の一部を素材にした駒ヶ根玉は持続時間が長い? だったら壊せば良い。至極自然な流れでそれは始まった。
しかし玉達もまた、アキラである。この世の何よりも我が身が大事だ。当然鬼神の如く抵抗し、その死闘は一時間に及んだ。
「トメナクテ イイノカ?」
「分身が勝っちゃったら、どうするんです?」
「大丈夫よ、アキラが勝つわ。私は信じてる」
「ドノ アキラサン ダヨ」
「「「「うおおおぉぉっ!!」」」」
分身達は忘れていた。駒ヶ根玉は所有者を傷付けられない事を。
「「「「お前が死ねやあああぁぁ!!」」」」
……いや、本体も忘れているようだった。
投稿時間って、何時が良いんでしょう?




