魔物を屠る正義の鉄拳! ~New!!駒ヶ根兵器の巻~
ちょっとしっかり話を書きたくなってきたので、すみませんが1日1回更新にします。
と言うか、1日に3回も4回も更新したあの辺りが異常だったと思ってください。若気のいたりってやつです。
「出来たぞ!!」
「今度は何を作ったの?」
――――毎度お馴染み、吸血鬼と戦わない方のアキラです。
いつもの6人は魔王城を目指す道中、例のごとくいつものように木陰を見つけ、だらりと休憩していた。
「前に俺、剣が欲しいって言った事があったろ?」
「オモクテ モテナカッタ ヤツナ」
「……あまりその話はするな」
「何が出来たのー!? 魔法!?」
「いや、もちろん駒ヶ根玉だよ。だけど、見て驚け……」
座ったまま木に背中をもたれかけ、後ろ手に隠していた駒ヶ根玉を取り出し、指にはめる。
「じゃーん! 駒ヶ根メリケンサックだ!」
「……必要ですかね?」
「いらないんじゃない?」
「…………私、欲しい」
「なっ! 良いよなこれ! 俺の味方はミカだけだよ……、みかだけに」
「「「「「「………………」」」」」」
やはり剣の時と同じだ。こいつら、俺の護身問題にとことん興味が無い。自分達だけ魔法が使えるからって、ズルいぞ。
「普段の投擲用の玉じゃダメなの? 何個かストックしてるやつ」
「あれは使い切ったらオシマイだし、何より素材に生物の一部を使ってないから、1日程度で蒸発しちまう」
「その駒ヶ根メリメリなんとかは、何を素材にしたんですか?」
「メリケンサックな。今回は俺の切った爪を使って作ったんだ。1年はもつぜ」
「ナンカ キタナイナ」
「贅沢言うな、指を切り落として使えってか? 確かに威力は一気に上がるだろうが……」
「昨日の夜、腕が取れたじゃない。指の1本や2本、なんてこと無いわよ」
「……最近ほんとに冷たくないか?」
こいつらが俺の事を心配しないのは、信頼の裏返しだ。それは分かってる。
ただ俺は、実際思われている程強くないから問題なんだ……。
「あっ! 丁度良いところに誰か来たぞ!」
「ナニガ チョウドイインダ」
木陰の側の道を、東から馬車に乗った男が向かって来ている。
大量の荷物、行商人らしい。
「おーい、おっさーん! フィフスタウンに行くのか?」
「ん? あぁ、そうだが……お客さんかい?」
「いや、特に買いたいものは無いんだけど……、フィフスタウンならもう無いぜ。行っても無駄だよ」
「あぁ? 一体どういう……」
「ところであんた。ほんとに人間か?」
「はぁ? 何言ってんだ。どっからどう見ても人間だろうが」
「!! 人に化けた魔物は皆そう言うんだ!! 駒ヶ根メリケンパンチ!!」
「グバッ!!」
行商人に化けた魔物と思われる者は、見事一撃で鬼籍に入った。
「アキラ、今のほんとに魔物?」
「あぁ。魔王城がある東から来たし……多分絶対そうだよ」
「アキラさんが言うなら、そうなんでしょうね!」
「………………どうせ町、行っても無駄だったし」
ほらこれだ。正直俺への信頼が異常だ。まぁこの俺が間違える筈無いから、良いんだけどな。
「そんなことより、見たか今の威力! ただのグーパンで魔物が弾け飛んだぜ!」
「確かに……、近接限定ではあるけど、思ったより有用かもね」
「すごーい! つよーい!」
「よーし……、ようやく俺もまぁまぁ戦えるようになってきたぜ! 棺桶用の採寸しながら待ってろよ、魔王!」
時は少し戻り、魔王城医務室。
魔族の住み処らしからぬ、白く清潔なシーツの上で目を覚ましたミシェルは、ミヘッグの昨夜の不手際を糾弾していた。
「ミヘッグ!! お前の『どこでもホール』、開けっ放しだったのです! 危うく魔王城が壊滅する危機だったのですよ!」
「まぁまぁ~、落ち着きなさいって! ほら、あんたの好きなホットココア」
「む! 話題をそらそうとしても無駄なのです! ……ほぅ」
ミヘッグはミシェルとは対照的に、スラリとした長身の魔物だ。
肩の辺りでくるりと跳ねたオレンジ色の髪に、黒地にレモン色の模様が入った薄手の服。長く鋭い真っ赤な爪が、彼女が人間ではない事を主張している。
「で、何があったの? あんたが穴を閉じたって事は、カメルは帰らなかったの?」
先程までとは打って変わり、真剣な面持ちになるミヘッグ。
元より彼女が、事の重大さを察せない程の阿呆では無いと知っていたミシェルだったが、真剣に自分の話を聞いて貰える事に少しだけ安心した。
「……カメルは死んだのです。妙な玉を使う、訳のわからん人間共に殺されたのです!」
「……訳の分からないのはあんたの説明よ……。視た事は正確に話しなさいって、前にも言ったでしょ?」
「奴等は悪魔なのです。空飛ぶ乗り物に乗って、真っ直ぐにこの場所を目指しているのです!」
「それ、何かの予言? 意味が分からないけど、カメルを殺した奴等がこの魔王城に向かって来てる、って事で良いの?」
「さっきからそう言ってるのです!」
ご覧の通り、ミシェルは説明が下手だった。セカンドシティの爆発時も、「町が突然真っ黒になって! 吹っ飛んだのです!」と言うだけだったため、始めは誰にも相手にされなかった。
ただ一人彼女の話を真剣に聞いてしまったのが、ルシファーの運の尽きだったという訳だ。
「きっと奴等は今も休まず……、あれ?」
「今度は何? オークの首吊り死体でも見つけたの?」
「奴等、休んでいるのです……」
千里眼とは言うが、ミシェルの能力は適切な距離まで視点を近付ければ、音も聞く事が出来る。
この時丁度休憩していたアキラ達の姿を捉え、会話を盗み聞いていたのだ。
『じゃーん! 駒ヶ根メリケンサックだ!』
「ひぃっ……! 奴等休んでいると思いきや、武器を作っていたのです! 根っからの蛮族なのです!」
「武器ぃ? 魔法じゃなくて? そんなもん、私らに効くのかねぇ?」
「奴等の力を甘く見てはいけないのです! 現にあのルシファーやガフラスまで殺られているのです!」
「……確かに。あいつらに勝つなんて、私ら魔族でも難しいってのに」
『おーい、おっさーん!』
「とにかくこの事を魔王様に伝えるのです。魔王様ならきっと、何とかして……!?」
「な、なんなのよさっきから……、目を閉じたまま急に固まるのやめてよ、怖いから」
「あいつ、やりやがったのです……! 突然行商人を殴り殺したのです!」
「はぁ!? 人間の?」
「しかもあの威力! あ、頭が吹っ飛んだのです! 恐らく魔物の耐久力でも……おえええぇぇっ!」
「ちょ、ちょっと! 大丈夫!?」
魔物や魔族は多かれ少なかれ人間を殺し、その肉を食うこともある。しかし、わざわざ好んでこの様に凄惨な殺し方をする者は多くない。
ミシェルは確かに、比較的耐性が低かった。
「それあんた……、ほんとは魔族なんじゃないの? そんな頭のおかしい人間がこの世に居るとは思えないわよ」
「……少しだけど、あいつを見てきて分かったのです。あいつは一片の疑いもなく、自分の事を『正義』だと思っているのです。さっきの行商人も、魔物が化けた姿だと信じているのです」
「……たちが悪いわね、手の施しようが無いじゃない」
「恐らく生まれついてのものなのです……。でも問題は一緒に居るあの女達! 奴等は何故か、あの男のする事成す事、全肯定しているのです!」
「そんなのもう、ただの異常者集団じゃない……」
「だから、最初からそう言ってるのです!」
知らぬ所で非難を浴びるアキラ。もしこれを聞いていたら、彼はなんと応えるのだろう。
容易に想像できる。「誰だお前ら! 魔物風情が好き勝手言いやがって! 許さん!」これで決まりだ。
「そういやあんたの側に腕落ちてたけど、取っとくの?」
「捨ててくるのです!」
魔王サイドが出るようになってから、書いてる私は楽しいんですが……、どうなんでしょう。話のインパクトは落ちた気がして心配です。
暇潰しに書いた短編に即日ポイント抜かされました。嬉しいやら……いや、嬉しいです。




