その瞳は彼方を見つめて
今日も東へ……おや? 様子が違いますよ奥さん。
カーテンの閉め切られた、薄暗い部屋。少々埃っぽい床の上を右往左往しながら、部屋の主は一人困惑していた。
「ルシファーやガフラスに続き、カメルまで! 二人の死体を視た時はまだ半信半疑でしたが、これはマズいのです!」
毎度お馴染みアキラ一行、ではない。
背丈は低く、150センチ程度。深い緑色のローブに身を包み、床まで伸びた銀色の髪。その隙間から爬虫類のような尻尾が覗いている以外は、人間に程近い容姿と言える。
彼女の名はミシェル、魔物である。
「何なのですアイツは! 何なのです月の兎さんって! と言うか駒ヶ根玉って何なのです!? そしてそれを知ってたカメルも何なのです!? むあ~っ!」
他の幹部達同様、彼女にも特殊な能力があった。
『千里眼』。その両の目を閉じている間、遠く離れた如何なる場所をも覗き視ることが出来るのだ。
「お、落ち着くのです私。ホットココア……飲むのです。 ………ほぅ」
セカンドシティの爆発を仲間達に伝えたのも彼女である。趣味で日課の『床上世界旅行』をしている最中、偶然目撃したのだ。
しかし様子を見に行ったルシファーが帰らず、またその様子を見に行ったガフラスも帰らず。
『時間停止』、『絶対防御』と言う反則的能力を持った彼らだ。二人揃って何らかの事故に巻き込まれたとは考えにくい。
大方合流し、何か面白い物でも見つけて遊んでいるのだろう。私も見たい。そうだ、視れば良いんだ。
そう考えた彼女は再び千里眼を使い、愕然とした。
「始めに見つけたのがルシファーの焼死体、何故かサード王国は滅亡してるし、おびただしい数のエルフと、ガフラスの水死体! おまけにフィフスタウンは真っ黒焦げ! 奴等は悪魔か何かに違いないのです……!」
ローブと髪で床の埃を掃除しつつ、ブツブツ言いながら部屋を後にし、長い長い廊下へ出る。
ここは魔王城。アキラ達の目指す、東の果てである。
「謎の物体で空を飛ぶ人間に気付いたのが数時間前! 間違い無いのです、奴等を野放しにしていては、世界が滅びるのです!」
壊滅した都市や幹部達の死体が飛翔体の軌道上にあったことで、彼女は全てを察し、恐怖した。
そしてその進行ルートがここ、魔王城を真っ直ぐに目指すものだと知り、今度こそ絶望した。
「カメルに抹殺を依頼したから一安心だと思ったのです……。でも失敗だったのです! まさかあのカメルまで殺られるなんて!」
ここは東の果てだ。馬を超える速度で飛ぶらしいあの飛行物体でも、魔王城到達までの時間にはまだかなりの余裕がある。
「とにかく今はこの事を、魔王様に伝えるのです! 魔王様なら、きっと何か良い手を……ん?」
無駄に長い廊下を急ぐ彼女だったが、歩きながらも数秒ごとに千里眼を使用していた。
その俯瞰した視界の端に、見覚えのある物が映り込んだのだ。
「えっ? あれってまさか……えっ!!?」
彼女の顔から、サーッと血の気が引いていった。
「カメルが使った『時空穴』!? ミヘッグの奴、まさかまだ閉じて無いのです!?」
時空穴。幹部の一人、ミヘッグの能力だ。
空間と空間を繋ぐ事の出来る彼女の能力は非常に重宝され、大規模な襲撃から個人的な使用まで引っ張りだことなっている。
その多忙さが、今回は仇となったらしい。
――――個人使用の時に開く場所は大抵……中庭!!
逆方向だ。魔王城の掟の一つ、「廊下は走るな」など守っている場合ではない。
「ヤバすぎるのです! 穴は誰でも通れるのです……! 奴等に見つかったら、一巻の終わりなのです!!」
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「ん……? なんかあそこ、光ってない?」
「うーん……? なんだよエリー……、寝てたのに。 あれ? 本当だ……降りてみるか」
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「はぁっ! はぁっ! やった、間に合ったのです!?」
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「何だこれ! すっげぇ!」
「何これー!」
「迂闊に触らない方が……」
「大丈夫だって! 多分これボーナスステージだよ! ボーナス!」
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「!? もう穴の前に居るのです!?」
ミヘッグの時空穴は誰でも通れると同時に、穴の前で強く念じれば誰でも閉じる事が出来る。
ただし誤作動防止のため、ミヘッグ本人以外は閉じ切るまでに十数秒の時間を必要とするのだ。
「閉じるのです! 閉じるのです!」
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「大丈夫だと思うんだけどなー……。石投げてみるか!」
「………………私、やりたい」
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「閉じ……いてっ! ちょっ、信じられな、いたっ! 痛いのです!」
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「ナア、ナンカ ドンドン チイサクナッテ ナイカ?」
「あっ! ふざけんな! 待てコラ俺のボーナスステージ!!」
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「ひぃっ!? 腕突っ込んで来たのです!?」
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「あ、アキラっ! 限界よ、腕を抜いてっ!」
「うおおっ! 俺のボーナス!! ぐわああああぁぁっっっ!!!」
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「ひ、ひいいいぃぃっっ!!! う、腕! 腕があぁ!!」
彼女の目の前でボトリと落下した右腕。
時空穴の消滅に巻き込まれ、切断されてしまったのだ。
「う、うげぇ……。で、でもやったのです! 思わぬ収穫、これで奴の右腕は……ひっ!?」
腕を無くした男の泣き叫ぶ姿を見てやろうと千里眼を使用した彼女だったが、すぐにそれを後悔した。
「腕が……生えてきたのです……ウッ」
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「だから言ったじゃない! 変なもの見つけてもすぐ触っちゃ危ないって!」
「いってええええぇぇっ!!! 許さんっ!! 今回ばかりはっ! マジで許さんぞ魔王がぁぁあっ!!」
「魔王じゃなくて、ボーナスステージなんでしょう? まったく、事前に治癒用の駒ヶ根玉を作っていなかったら、今頃どうなってた事か……」
「許さん……。ちょっと甘くしてやれば付け上がりやがって……!! 魔物共!! もうこれからは容赦せんからなっ!!」
「イママデハ シテタノカ……」
翌朝。
中庭で気絶しているミシェルが、ミヘッグによって発見された。
今までの進め方だとレギュラーキャラが増やせないことにやっと気付きました。
みんな勝手に死んじゃうので。
ここから読者様には全く関係の無い独り言。
週別ユニークって、あれ火曜日更新だったんですね。最近本当にただ書いているだけで楽しいので構わないのですが、いつまで経っても100未満と言われているのは、ちょっとだけションボリだったのでホッとしました。




