心惑わす恐怖のオヤジ! 鏡の国のプロボウラーの巻
前書きって、ひょっとして前回までのあらすじとか書いた方が良いんですか?
不運にも水没してしまったエルフの里を後にした6人は、今日も東の空を飛行していた。
「……ん? あれは……?」
「小屋……ですかね?」
眼下に広がる草原に、ポツンと佇む丸太小屋。
魔物の気配は無いようだが、住人は無事なのだろうか。
「気になるな……、降りてみるか」
「アキラサン キヲツケロヨ」
駒ヶ根玉の操縦も流石に慣れたものだ。念のため少し離れた位置に着陸させたので、小屋を押し潰すことも墜落することも無かった。
「すみませーん、誰か居ますかー?」
「おらん。帰れ」
居ないらしい。やはり住人は魔物に喰われてしまったのか。
「なら入るぞ。こういう所にはレアアイテムがあるって相場が決まってるんだ」
「帰れと言っとるんだ!!」
「うぉっ、居るんじゃないか!」
扉が内側から勢い良く開く。出て来たのは、ややくたびれた髭面の男性だった。
「誰だお前ら。用が無いなら早く出て行け。泥棒ならこの世から出て行ってもらう」
「ちょっと! 私達は貴方の安否を心配してわざわざ来たっていうのに!」
「おじさん! ひどい!」
「はは……良いよエリー、サーニャ。余計なお世話だったみたいだ」
そうだ、住人が無事であるならそれに越した事は無い。深入りは無用だ。
「どうもお邪魔しました、もう出て行くんで……」
「そうだ、帰れ帰……サラ?」
「はい、サラ……サラ?」
「サラ! サラじゃないか!! 帰ってきたのか!?」
突然俺を押し退け、目の色を変えて声を張り上げる爺さん。
「エ? ワタシ二 イッテルノカ?」
「サラ、ワシだ! お前の父親のミラーだ!」
「ワタシ ソンナナマエ ジャ ナイゼ」
「ドロシーさんのお父さん? 一体どういう事なんでしょう……?」
「……!! た、立ち話もなんだし、とりあえず中に入れてくれないか? 爺さん」
マズイ! まさか本当にドロシーの父親なのか!? だとしたら……いや、人違いだ! 切り抜ける!
「どうしたんだサラ、ワシを覚えていないのか……。仕方ない、話を聞きたい。全員中へ入るんだ」
「お、お邪魔しまーす……」
小屋の中には必要最低限の物しか置かれていない。
壁に飾ってある毛皮は魔物の物だろうか。どうやら彼は、ここで魔物を狩って生活しているらしい。
やや狭いが、人数分の椅子が無いため全員床に座った。
「で、そこのお前。サラに何があった」
「えーっとですね……多分人違いだと思うんですけどね」
「何だと!? 親の私が娘を…… まあ良い、続けろ」
「はい……」
エリーにそれとなく目配せする。流石に彼女も分かっているようで、小さく頷いた。
正確な事情を知っているのは俺とエリーの二人だけ。きっと人違いに決まっているが、念のため上手く口裏を合わせなければ。
「俺とこの子……エリーが歩いてたらですね、このドロシーに財布を盗まれたんですよ」
「何、人様の物を!?」
「ヒエエ、ハンセイ シテルゼ」
「それで、ちょーっと喧嘩になりましてね? それで俺達の強さに惚れたとか何とか言って……名前も最初からドロシーと名乗ってましたよ?」
「本当なのか?サラ」
「ホントウ ダゼ。ワタシ ドロシー ダゼ」
「サラ……! 本当にワシを! 忘れてしまったのか!!?」
「ワタシ…… ウッ、ドロ……! お父……!」
「!!」
「あーっ!! すみませんおじさん! おトイレお借りして良いですか!?」
「……そんなもの無い! 外でしてこい」
「は、は~い……」
ナイスだぜエリー!!
しかしマズイ、抹消した筈のドロシーの自我が目覚めかかっている!?
「…………私も、行く」
「!! あぁ、行っておいでミカ!」
あった! この状況を切り抜ける策!
「そうだ、皆今の内に行ってこいよ。話が長引いたら、行くタイミング無くすぞ?」
「いえ、私は別に……」
「私も大丈夫! 全然平気だよ!」
「良いから! 絶対行っといた方が良いから!!」
「……! 分かりました。ほら、サーニャさんも行きましょう?」
「ええー! まぁ良いけど!」
やった! これで小屋の中には俺とドロシーと爺さんだけ!
あとはドロシーの脳をコントロールすれば!
「……! チョット アキラサント フタリデ ハナシタインダ」
「何?」
「おお、良いぞ! ってことで爺さん、悪いけどちょっと待っててくれ」
「あ、あぁ。全くなんなんだ次々と……」
「エリー! 皆!」
「アキラ! 抜け出せたのね!」
「あぁ。二人もありがとな、言うこと聞いてくれて」
「考えは分かりませんが、アキラさんに従えば間違いありませんからね!」
「えー! 何の話!?」
俺とドロシーが小屋を出ると皆は少し離れた場所、駒ヶ根玉の近くに集まっていた。
これで小屋の中には、爺さんただ一人!
「最後の仕上げだ! 全員玉に乗り込め!」
「アキラ、やるのね?」
「ああ、これが最善手だ。心配か?」
「ふふ、今更心配なんかしないわよ。アキラが間違えた事なんて、今まで無かったもの」
「……行くぞ!」
「あいつら……遅いな」
用を足すだけでどこまで行ったと言うのだろう。
かと言って、見に行く訳にもいくまい。
ぶどう酒を一口飲む。戻らない。二口飲む。戻らない……。
「飲み干してしまったぞ! 一体いつまで……ん? 何の音だ?」
ガリガリガリ、と聞いたこともない轟音が響く。そしてそれは次第に音量を増している様であった。
「一体なんだ? 音が大きく……! 違う!! 近付いッ! ぐああああぁぁっ!!!」
6人は今日も東へ進む。まるでボウリングのピンの様に弾き飛ばされた、丸太小屋を後にして。
「流石にちょっと怖かったな、駒ヶ根玉で突撃作戦」
「そんなこと言って、楽しんでたくせに」
「…………もう一回、やりたい」
轟音の正体は、アキラ達の乗る駒ヶ根玉が猛スピードで地面を削る音だったのだ。
「あのおじさん! 大丈夫だったの!?」
「あれは……魔物だ」
「! なるほど、そうだったんですね!」
「あぁ。ドロシーの心を惑わせ、きっと俺達の仲を内側から破壊しようといていたんだ」
「すごい! なんで分かったの!?」
「あいつが一度だけ名乗った名前。ミラーって言ってたろ?」
「そう言えば……。でもそれが何故?」
「ミラーとはつまり、『鏡』のこと。あのまま気付かず小屋の中に居れば、おそらく鏡の世界か何かに引きずり込まれ、全員殺されていたに違いない」
「流石はアキラね……あの少ない情報で、そこまで推理してしまうなんて!」
「アキラって凄いんだね!」
「アリガトヨ アキラサン。アヤウク ダマサレル トコダッタゼ」
「良いってことよ。しかし、許せないのはあの魔物! ドロシーの心を弄びやがって!」
魔物とは、何故これ程までに卑怯で下衆な生き物なのだろう。アキラの正義の心は、激しく燃え盛っていた。
「そしてこれも全て魔王!! 貴様のせいだッ!!!」
ドロシーとの結束をより強めた一行は再び東へ、次の町を目指すのだった……。
「魔王!! 許さんぞッ!!!」
敵が一人の時は楽ですね、一網打尽にしなきゃいけない回は手段が限られるんで。




