戦力差、300対15000!天才軍師による神の一手とは!?
今回は書いていて、かなり力が入りました。
戦力差300対15000と言う前代未聞の絶望的な状況、一気に結末まで書き切りましたので、作戦の内容を予想しながら読んでみて下さい。
「見えてきましたわ、あれがサード王国です」
「あれが……。私、国外に出るのは初めてだわ」
幸い駒ヶ根玉はコアの部分が無事だったため、こうして飛行を続けられている。
「ここの女王様に、挨拶とかした方が良いのかな?」
サード王国。人口は千人にも満たない小国らしい。
国土は狭く、国を治める王はまだ幼い少女だと言うが……、逆に国民の団結力は強く、資源も豊富な良い国だそうだ。
「アキラさん、そろそろ着陸しましょう」
「そうだな……ミカ、悪いがお前とはこの国でお別れだからな」
「…………」
悲しそうに俯くミカ。そんなに俺達と別れたくないのだろうか……。
「よし、今回はミスらず着陸……ん? なんだ?」
「こっちへ来るみたいよ?」
「ドウモ ユウコウテキ デハ ナイミタイ ダゼ」
「動くな! 貴様ら、何者だ!!」
走り寄ってきた数人の兵士に、突然槍を突き付けられた。
国土に謎の飛行物体が侵入してきたのだ、仕方無いが妥当な対応と言わざるを得ない。
「怪しい者ではありません。ファースト王国の者だとミリア女王にお伝えください。これが証拠の書類で……」
「女王様にだと? どれ……」
ここの女王はミリアと言うらしい。
すっかり忘れていたが、俺達は王国から派遣された身だったのだ。
少し緊張したが、入国問題は基本的に心配無さそうだ。
「……! これは失礼した。どうぞ、私がご案内しましょう」
「ありがとうございます」
だがこの時、俺達は知らなかった。
この国の存続を揺るがす、大事件に関わることになるなんて……。
「……なるほど、事情は分かりました」
サクサクトントンと話は進み、現在俺達は女王との謁見の最中だ。
とりあえず、この国に数日滞在させてもらおう。ミカの事もあるし、最近は疲れる事件が多かった……。
「ですが貴方達には、早急にこの国を発っていただかなくてはなりません」
「えっ?」
がーんだな……、出鼻をくじかれた。
「な、何故ですか?」
国民の団結力が強い。つまり逆に言えば、排他的な国ということなのだろうか?
もちろん、そんな事はなかった。
「この国は現在……宣戦布告を受け、緊張状態にあるのです」
「なんですって!?」
「相手は北の大国、フォース帝国。恐らく勝ち目は……、無いでしょう」
戦争。日本に居た頃はニュースや教科書でしか聞かず、どこか現実味の無かった言葉。
だが、決して対岸の火事では無い。
自分の置かれている現状を改めて認識したことで、家で下らないテレビ番組を見て、日々駒ヶ根玉を作るだけの生活が不意に懐かしくなった。
「アキラなら……、何とか出来るんじゃないかしら?」
「あぁ……えっ!? 俺!?」
「まさか、これは一人の力でどうこう出来る問題では……」
「いいえ、アキラさんは天才的な機転で、何度も私達を救ってくれたのです。もしかすると……」
冗談じゃない!ただの一般人の俺が戦争を止める!?
俺のことを信じてくれるのは有り難いんだが、どうも最近過大評価が過ぎる気がする。
「いや、その……今までのは運が良かったって言うか、流石に……」
「……その話、本当か?」
今まで黙っていた大男が口を開いた。先程俺達をここまで連れて来た、あの兵士だ。
「私はゴルゴス、この国の騎士団長だ」
如何にも、と言う風貌。
強さだけでなく、その立ち居振舞いからは誠実さも垣間見える。
「元より我々は皆誇り高く散る覚悟であったが、もし何か方法があるのなら……民を守るため、是非力を貸して頂きたい!」
「……分かりました。そこまで言われたら、俺も努力します。ただし、勝てる保証はありませんよ?」
「……! 本当ですか!?」
勝てる保障が無いと言うのは本当だ。まだ互いの戦力も、何も知らないのだから。
その上で、全力を尽くそう。
「まず、こちらの兵力は?」
「悔しいが、小さな国だからな……。兵士の数は300人程度だ」
少ない。相手は大国、その数は想像がつかない。
だからまずは、不確定要素を潰していく。
「女王、この城にルビーは有りますか? あと、砂を大量に運び込んで下さい」
「! アキラ、あれをやるのね?」
「ヤッタ、タノシミ ダゼ」
「ルビーと砂、ですか? 分かりました。いや分かりませんが……すぐに用意しましょう」
部屋一杯に、満遍なく砂が敷かれる。掃除が大変そうだが、今はそれどころじゃない。
「ルビーとサファイア、あれって実は同じ物なんです」
「え? サファイア?」
日本ではもはや使い古された雑学。だがこの世界では、そんな研究はされていないだろう。
「赤ければルビー、青ければサファイア。この曖昧な性質を、利用する……!」
丁寧に、ルビーに砂をまぶしていく。
ムラがあってはいけない!
「ミカ! このルビーに電気を!」
「…………!!」
ミカの雷魔法。これがあれば、特殊な加工も容易に実現できる!
「……今だ! エリー!」
「はぁっ!」
電気と炎! これらが同時に砂を纏ったルビーに加わると言うことは、つまり!!
「……よし! 出来たぜ」
「コレハ、マサカ!」
「あのルビーに一体、何が起こったのですか!?」
「流石はアキラね……、この完成度!」
「ああ、良い駒ヶ根玉が出来たぜ!」
出来上がった玉に手をかざす。すると!!
「これは……!? 砂が!!」
「何なのだ一体! 砂が動いて、模様? いや、精密な映像だ!!」
「超音波振動! 遠い地の映像を、砂に投影しているのね!」
「その通りだエリー。これは北に待機している帝国軍の様子……なんだが、マズイな」
「1万……いや、1万5千は確実に居る……!!」
そう、想定外の敵の規模と、その様子。
素人の俺にでも分かる。敵はいつでも開戦可能な状態! そしてその時は、この国の終わりを意味する!!
「50倍の戦力差、か」
「アキラ様、もう十分です。私はこの国と心中する覚悟が、とうに出来ています……」
この場の誰もが絶望に包まれた。
……この男以外は!!
「……明日の正午丁度!! この国の全兵力を以て、帝国軍への奇襲を仕掛けて下さい!!」
「!?」
「アキラさん!? 無茶です!!」
「ナニカ サクセンガアル ノカ!?」
「ああ……。ただし綿密な計画なので、間違いは許されません! 俺の言う通りに動いて下さい!」
「正午と言うのにも理由が? 奇襲なら、寝込みを襲う方が……」
「大丈夫です。敵が起きている方が、俺の作戦には都合が良いんでね」
言ってしまった以上……、もうこの手しか無いだろう。
だが万が一これが失敗すれば……俺も殺されるかも知れない。
「そして攻め方は、正面突破! 必ずこの国の北方で、全軍が同時にぶつかり合う必要が有る!」
「その時アキラ殿が……何か細工を発動させる、と言う訳だな?」
「……タイミングが間に合うかは分かりません。犠牲は避けられないでしょう」
残念だが、それが現実だ。犠牲無くして、この戦争は終わらないだろう。
「……良いだろう。つまり、我々はそれまで持ちこたえれば良いだけだ。この命尽きるまで!」
「……! すみません。これで必要な事は全て伝えました」
俺だって命を懸けた作戦だ……、絶対に成功させる。
「早速準備にかかります。俺達は恐らく時間までには戻れませんが、騎士団が絶対に正午丁度にここを出発するため、今すぐ兵を集め、準備をお願いします」
「ああ。任せろ。そして、任せたぞ」
「……はい!」
これであとは、全てが俺次第。急いで準備を……!
「アキラ様!」
「!! ……何でしょう?」
「もしやアキラ様……、ご自身の身を危険に……いえ、命を捨てる気なのでは……?」
何だ、そんなことか。驚かせやがって。
「神に誓って約束する! 俺は死なない! 絶対に!!」
「何故……私達のために、ここまで!!」
「簡単なことさ、俺はあの葬式みたいな空気が嫌いでな。ただのそれだけさ……」
「…………アキラ様……!」
翌朝。
まだ空も暗い。
サード王国の騎士団は正午の進軍に備え、まだ睡眠を取っているだろう。
そして俺達は今まで通り、東を目指し旅を続けていた。
「アキラさん、これで良かったのでしょうか……?」
「ああ、戦力差50倍だぜ? 無理だよ。そもそも俺素人だし」
「何故、希望を持たせるようなことを?」
「あの様子じゃあ、遅かれ早かれ戦争になってたんだ。最後くらい、希望を抱かせてやってもバチは当たらないだろう……。まぁ、あの葬式みたいな暗さに耐えられなかったってのもあるけどな」
「時間や攻め方の指定は?」
「決まってんだろ? 万が一にも作戦が失敗したら、俺達の命が危ない」
「ワタシタチノコト カンガエテ クレテタンダナ!」
「ですが……」
「不満か?」
「アキラはこう考えていたんでしょう?『300人を助けると言うことは、15000人を殺すということ』だ、と」
「!!!」
「え? あ、ああ。全く、流石はエリーだな……。ま、そう言うことだ。どっちに味方するのが正解とか……そんな簡単な話じゃないんだよ」
「すみません、私は……アキラさんが、そこまで考えていたなんて!」
「ナンテ シリョブカインダ!!」
「お兄ちゃん…………!!」
「出逢いがあれば、別れがある。 ミリア女王、ゴル……ゴルモン騎士団長。もし生きてたら……いつかまた逢おうぜ」
俺達は振り返らなかった。何故だか分からないけど……振り返る気にならなかった。
きっとそれが、先へ進めと言う世界の意思なのだろう。
「こんな悲しみも全て……魔王!! お前のせいだからな!!!」
奇しくも今回の事件でより互いを理解し、結束を強めた一行は、ただただ東へ進む。
「魔王ッ!! 許さんぞッ!!!」
次の町では、どんな出逢いが待っているのだろうか……。
二人とも死にました。二度と出てきません。




