技術は魔術を超えて ~ぺんぺん草の活用法~
毎話ごとに一つは山場を設ける作りを意識。
初めての執筆活動につきまだまだ拙いですが、先人作家様達が基礎を作り上げてくださった「王道異世界系ストーリー」を書いていきたいので、どうぞ宜しくお願いします。
「なんだ……何処だここ?」
見渡す限りの草原。気付いた時には既に、この見知らぬ大地に立ち尽くしていた。
野ウサギだろうか? 小動物が戯れている様だが、腰の高さまで伸びた草でその姿は見えない。
「えぇ……? だって俺今、コンビニでカップ麺買って……あれ?」
ぼんやりした頭を一度左右に振り、記憶を掘り起こす。そうだ、俺は確か――
冬も終わり、すっかり暖かくなったある日の午後。仕事が一段落した俺は、夜食を買いに近所のコンビニまで来ていた。
「このカップ麺、美味かったっけ? ……まぁ良いや、買っちゃお」
小竹田 明、26歳。どこにでもいる平凡な成人男性。
大学受験に失敗した後、金も目標も無くぶらぶらとしていた俺だったが、家業の駒ヶ根玉作りを継がされた。
『時代遅れな伝統工芸品なんかに一生を捧げろって? 冗談だろ』
何と言うか、若かったんだ。俺は今にデカイことをやれるんだと、根拠の無い自信に満ち溢れていた。
これで飯を食っている今となっては、あまり思い出したくない。
親父は立派な職人だった。
ガキの頃は気にも留めなかったが、自分が同じ世界に入ったことでようやくその偉大さに気付き、同時に痛く感動した。
親父の作る駒ヶ根玉の美しい木目。完璧な継ぎ目。
俺はあっという間に、駒ヶ根玉に魅了された。
俺もいつか、親父のような職人になりたい。そしてまたいつかは……親父を超える職人に、そう思い始めた矢先の事だった。
母さんが事故で亡くなった数日後、親父は突然姿を消した。
コンビニを出た俺は手帳を開き、仕事の予定を整理していた。
「えーっと、野村さんが日曜まで。井出さんが今月中だな」
駒ヶ根玉の製作依頼。
普段は近所の人や親戚からの注文が多いのだが、たまに北海道や沖縄と言った遠方から、ごく稀に企業等から大量の発注が来ることもあり、何とか衣食住には困らない生活を送れている。
「案外、どんな物も需要ってのは無くならないんだな……。まぁ、こっちとしてはそれが有り難いんだけど」
手帳を見ながら歩いていた俺にも落ち度はあった。
歩き慣れた道だと思って、油断もあった。
「ん?」
タイヤの擦れる音に振り返ると、音の主は既に目前まで迫っていた。
大型トラック。何か操作を間違えたのだろう、運転手は大慌てでブレーキを踏んでいる。が。
「えっ? や」
「そうだ……俺、轢かれた……?」
恐らく数十秒前の出来事、鮮明に思い出せた。ハッと自身の手足を確かめる。
「なんだ、どこも怪我してないぞ。助かったのか、それとも既に死んじまってて……ん?」
上着の内ポケットに、嫌な違和感。
入れていたのは何だったか、いやいやまさか。
恐る恐る取り出すと、それは……。
「うわあああっ!! 野村さんの駒ヶ根玉がぁっ!!!」
ポケットから顔を出したのは、大きく破損した駒ヶ根玉。納品は絶望的だった。
「あーあ……、中の回路も完全に駄目だな……。あれ? いや、待て待て」
違う、そんなことでは無い。重大で奇妙な疑問。
「俺自身は間違いなく無事なんだ。なのに何で、玉だけ……」
「ちょっとあなた!! 死にたいの!?」
「!?」
耳をつんざく大声で思考を遮られる。
我に返り声のした方を向くと、日本ではまず見ることが出来ないであろう、鮮やかな紅い髪の少女がこちらへ向かって来ていた。
「こんな草原のど真ん中で! そんな無防備な姿で! あなた気は確かなの!?」
草むらを掻き分け、ズンズンと近寄ってくる少女。
何かただ事でない様子だ。相手は年下だろうというのに、思わず萎縮してしまった。
「す、すみませ……ちょっと今、なんか色々よく分かんなくて……」
「……! あーもう、なんでも良いわ! 一旦街まで戻るから、ついてきて!」
「えっ、うわっ!」
無理矢理腕を掴まれ、引っ張られる。よほど不味い事をしてしまったのだろうか?
いや、始めは怒っていると思ったが、どうやら同じくらい焦っているらしい。不法侵入だとか、そういったものではないようだ。
「……! しまった……!」
「え?」
ガサガサと草の擦れる音。
周囲の草むらに何かがいるのだ。前、後ろ……いや囲まれている。
流石に俺にも理解できた。少女は最初からこれを危惧していたのだ。
「な、なんだこいつら? 野生の……でかいぞ!!」
「あなた! 戦える!?」
「戦うって、俺が!?」
「……! 私一人なら何とかなる。けど! 守りきれなくても恨まないでよね!」
目を疑った。
少女の掌の上に、突然真っ赤な炎が現れたのだ。
「なっ……!?」
「はぁっ!!」
腕を一振りすると前方の草が焼け落ち、初めて敵の姿が露になる。
猿のような生き物だった。だが明らかに、俺の知るそれではない。体毛や爪が長く、何より目付きがおかしい。
「何だあれ……猿?」
「後ろ! 気を付けて!」
「うぉっ!?」
振り返りながら放たれた火球はすぐ横を通り過ぎ、一匹の猿を捉えた。顔を焼かれ、苦しそうにのたうち回っている。
「俺の背後に居たのか!?」
(助けてもらわなきゃ……死んでたってか!)
「くっ!」
流石に数が多いのか、彼女の頬を汗が伝う。
「逃げて! これ以上は!」
「そ、そんな……!」
年端もいかない少女を置き去りにして、自分だけ逃げる?
「何か……俺にも出来ることは無いのか!?」
「早く!!」
(いや! 逃げるなんて手は無い! 落ち着くんだ……、冷静になるんだ!)
まずは改めて、周囲の状況を分析する。
何でも良い。何か、使える物があれば!
「! これだ!!」
周囲に生えていた草を引き抜き、土に混ぜ……、こねる!
「ま……ずいっ! あっ!」
「オラァッ!!」
「…………え?」
倒し切れなかった2匹の猿が少女に襲いかかる、瞬間。
「ふー、ギリギリだったな」
俺が投げたそれは、何とか奴等に命中したようだ。
「あなた、今一体……何をしたの?」
一匹は頭を、一匹は胸を貫かれている。もう起き上がっては来れないだろう。
「ナズナだ」
「え?」
「ナズナ、ぺんぺん草だよ。ほら、ここらに生えてる。これを土と混ぜ合わせて、即席の駒ヶ根玉を作ったってわけさ」
目の前の少女は、まだ信じられないという様子で話を聞いている。いや、どうも聞いてはいるが、頭には入っていないらしい。
「この季節で本当に良かったよ……。ナズナは夏には枯れてしまうからな」
「こま……えっ?」
あぁそうか、言ってなかったんだっけ。
「俺は小竹田 明。駒ヶ根玉職人なんだ」
何度か加筆修正しました、というか今もしてます。
この頃の文章、流石に見返すと恥ずかしいレベルでした。まぁ、今もですが。