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こちら、妖魔対策局!

「本日から、山内君に専属の部下をつける」


 上司からの不意な連絡事項に、僕の表情筋は動揺した精神についていくことができず固まったままだった。口から発せられた音だけが、戸惑いという感情を、直立している僕と机を挟み、両手を組んだ姿勢で椅子に腰かけている上司へと伝えることに成功した。


「……え?」


「いや、だからね、部下をつけることにしたんだよ君に。しかも、美人でまだ19のピチピチの新人!養成所出たばっかだから優しくしてあげてね?」

 

話の内容を絶賛消化中の僕に、彼はどんどん話を進めていく。


「てことで、君には彼女の教育係として、手取り足取り腰取り……って、まだそこまでいくなよ? いくらカワユイからって、彼女はまだ――」


「あの」


「ん?」


「新人を任される、というのは大変光栄なんですが……なぜ僕なんです?」


「空いてそうなのがお前しかいなかったから。他は皆忙しそうだし」

 

 あっけからんとした様子で、僕の上長である谷村啓造主任は答えた。まったくもって単純明快な理由である。あやうく納得しかけるが、僕の意思を無視したそのオーダーには、少しばかり意見させてもらいたく存じる。


「僕は、可能な限り単独での任務を希望しています。それに……僕には後輩に仕事を教える自信なんて……ありません」

 

 ダークスーツに身を包み、皺を刻んだ顔に柔和な表情を湛えている谷村主任は、僕の言葉にうん、うんと頷いてからこう切り返した。


「そろそろ君も実務経験2年…半?くらい経つし、教わる側から教える側に立つ時期にさしかかったってことだよ。それに人に教えるっていうのは、今までやってきた仕事の再確認と、理解を深めることにもつながる。人間、他人と関わってこそ自分を見つめ直し、成長できるってもんだ」


 至極真っ当なことを言われて反論のしようがない。

 

「それに、俺は仕事ができないやつに新人を任せるなんてことは絶対にせん。山内君を信頼して頼んでるんだ」

 

 主任の目には、柔らかな表情とは裏腹に、例えるなら《ギラギラと照りつける月の光》を反射させているかのような鋭さがある。この目でものを言われると、年の差というのもあるが、どうにも自分が何を言ったところで、彼の決定を覆すことはできないのだと確信させられるのだ。


「まあ、困ったときは遠慮せずに言ってくれ。相談に乗るから」

 

 そう言いながら椅子から立ち上がり、僕の肩をポンポンと叩いてから、谷村主任は事務所から退席した。と思ったが、またすぐにドアが開き、「あぁ、噂をすれば、新人君が近くまで来たようだ。迎えにいくよ。ちょっと待ってて」と扉から顔だけ出して言い残し、バタンと扉を閉めていった。


「……はあ」

 

 言ったそばからか。というか展開早いな。さてはあの人、僕に報告するの忘れてたな? おおよそ、今日新人から連絡が来て思い出したってところか。まあ、今はそれについては置いといて――

ついにこのときがやってきたのだ。とはいえやはり不安だ。単独任務に就くようになってからは、仕事上の不利益はすべて自分に返ってくる分、気が楽だった。しかし、これからは新人の面倒も見てやらなくてはならない。僕の教育がみっともないものになってしまえば、僕だけでなく、新人にまで迷惑を被ることになってしまう。もしそうなってしまったらと考えると………怖かった。

 

 今の状態(・・・・)の僕に、本当に教育係が務まるのか? かつての『彼女』のように――。

 

「たっだいまーっ! 連れて来たぞーっ新人ちゃん! さあ、入って入って」

 

 僕が色々と憂慮していることなど露ほども知らない様子で、主任は事務所へと舞い戻って来た。

 ちなみに今僕たちがいる場所は、K県の主要都市から少し離れた土地に建つ小さな雑居ビルの2階だ。僕と主任以外の人員は出払っている。これから加わるという新人を除けば。

 

「――失礼します」

 

 美声、そして眉目秀麗――という率直な第一印象を受けた。事務所に入って来た『新人君』は、他人に対してそこまで興味を持たない気質の僕でも、主任の言う美人という点には全面的に肯定せざるを得なかった。

 

「本日付で妖魔対策局関東支部配属となりました、鷹月(こがれ)です。宜しくお願いします」


「は、はじめまして。僕は山内優乎(やさか)。実行部所属です。えーっと、僕が一応君の担当になるんだけど......頼りないかも知れないけど、精一杯やるから、よろしくね」


「はっはっは! 二人ともカタいなー! それに、これじゃどっちがどっちかわかんないし! 」


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