15 ◯ モ ナ ー 大 勝 利
ここ数日はネズミ君以外にもマイソウルフードのキノコくんを探したり、わざわざ木に登ってアケビみたいな果物をとったりしていた。
島ではどうでも良かった存在の茶緑色のダンゴムシがこっちではサッカーボールまで巨大化してたり、同じぐらい大きな緑色のトンボみたいなやつがそれなりにいたのは驚きだった。
ダンゴムシは何がしたいかよく分からんが、トンボもどきは肉食らしい。
他の虫やら動物を持って飛んで行ったのを見かけたからな。
ちなみ俺のような硬そうなやつはスルーしてくれたので多分そんなに脅威は無いと思う。
飯探しのついでに川探しもやっていたが、思ったよりもすんなり見つかった。
川が近くて感じの寝ぐらも無事工事完了しました…。
だんだんと原始的ハウス工事が早くなってきた気がするけど、多分俺の鋏の強度が上がったり力そのものが上昇しているのかもしれない。
前まで重くていちいちフンヌゥァ!と気合い入れてどかしてた岩も今ではフン!とちょいと気合いを入れれば動かせるようになったし。
意味がどれくらいあるかはわからんが、毎朝の日課としてシャドーシャコパンチを1万回を課したりキックをするためのストレッチ体操を欠かさず行っている。
俺をただの御馳走だと勘違いしたやつらをサッカーしてやるのだフハハハハ!
だが未だにゴールキーパー以外は即レッドカードボンバーの状態。
先は長いかもしれないが手札( ただし足で出す )を増やすためにも研鑽あるのみだ。
結果はちょろちょろ出ているから、諦めずに励める環境下にいられることは本当にいいことだと思うよ。
あとは、川の水を使って色々何か出来ないか試したりもした。
水カッターが出来たんだしもうちょい器用な真似が可能なはずだ!という筋肉理論で、休憩がてら口や鋏から水を違ったかたちで出せないか試してみた。
うん、ダメだったよ。
いや、完全にそうというわけじゃなかったんじゃよ。
しかし思い描いたものを出すと、ほとんど崩れたかたちで出てきてしまうのだ。
三角錐とかはともかく、球状に射出するのすら無理だった。
正直、口の中でタバコの煙を輪っかで出す人の足元にすら及ばない。
練習すればどうにかなる問題なのかどうかはかなり疑問だが、一応僅かながら三角錐にも見えなくない水の塊を出せはした。
もしかしたら、この世界では想像する力さえ強ければかたちを持たせられるのではないだろうか。
それは多分、俺の元いた世界では魔法って呼ばれてるやつに近いのかもしれない。
それに水カッター出す甲殻類や火を吐いてくるトカゲがいたんだ。
この世界は、ゲームにある魔法みたいなものを出せるやつとかがそう珍しくない存在になっている可能性はかなり高いだろう。
まあ、俺にその才能があるかはかなーり疑問だ。
だってマジでうまくいかなかったもん。
水でちっこいボールすら作れねぇ。
水カッターマジ奇跡の産物。
謎生物のカラダ万歳。
改めてただの虫とか無機物とかに生まれ変わらなくてよかったと思う。
一縷の望みはあるから、これでも何も出来ないよりは何億倍もマシだろう。
ラノベやアニメじゃ魔法が常識な世界なのに全くその才能がないやつがいるし。
そいつが主人公だと大抵は最強になるのがお約束だがな。
残念ながら俺には無縁なのがマジ辛いわー。
…この世界の神様、無縁じゃなくてもいいのよ?(チラッチラッ )
そして、新しいお家を手に入れてから1日も経たない内にそれはやってきた。
たまたま見つけためっちゃ美味かったマツタケもみたいなキノコが「どうでも良かろうなのだぁあ!」と言い捨てられるイベントが発生。
あれですよ、ワンちゃんですよワンちゃん。
しかも二本足で立って服も着てる!
思わずはえ〜…と遠目ではあるが、ボケーっとしながら見続けてしまった。
おっと、いくらモフモフそうで俺よりちょっとしか大きくなさそうでもカニ道楽に興味がおありかも知れない。
とりあえず某ダディヤナサン顔負けのチラ見をバレるまでは続けてみる。
勿論見つかったら直ぐ様スタコラサッサできるようにする。
というわけで大きな木から片目だけ出すようにして再び観察を始める。
何だろう。胸のトキメキが俺をメモリアルして心拍数を上げてる気がする。
メディック!強心剤だ!
人間だったなら間違いなく腕専用シルバーアクセで導かれる自信があるほどの不審さを漂わせていただろう。
だが今この身は甲殻類。
こういう状況での鼻息や脇汗とは多分無縁になっているのだ。
お陰で唯の変態海産物型狩猟者ぐらいにまで落ち着いている。
良し、泡がこぼれなくなってきたな。
良くない気がするが、これも神の与えたもうた試練に相違ないと決めつけておこう。
どうやら、なんか草を籠に詰めたり水を汲んでるみたいだな。
犬は鼻がいいからもしかしたら既にこっちに気付きながらも襲って来ないのを見越されてるかも知れない。
だか、こちとら観察するのが目的だから何の問題もない。
むしろ、気付いていないなら好都合なのでこのままレッツストーキングを続行する依存である。
仮称コボルトくん!俺はお前のことに興味あるんだよ!
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黙々とした作業を数十分間続けついたコボルトくんは籠に植物を十分に詰め込みおわったのか、もと来た道を戻ろうとしていた。
ちょっと重そうにしながらも難なく籠と桶をもって大股で歩き始めた。
俺はそれを大さじ一杯分の罪悪感をもって追跡する。
コソコソコソコソと付いて行ったが、もう一時間は経ったかもしれない。
ちょっと遠すぎんよ〜と自分勝手な感想を抱きながらも、コボルトくんを相変わらず遠目から伺う。
流石に少々お疲れのご様子。
今すぐ飛び出して荷物運びのお手伝いして差し上げたいが、そんなことしようものなら碌なことにならないのは確定的に明らかなのでグッと堪える。
こんな大したコミュも取れない巨大甲殻類が.山の中でいきなり目の前に飛び込んできたら逃げるに決まってるんだよなぁ…。
もうちょいの辛抱だろうと自分に会い聞かせていると、コボルトくんは急に立ち止まった。
おそらく前方で鳴った草葉の音のせいだろうと思い、俺も同じ方向を見た。
んん〜?なんだアレ。
保護色で分かりにくかったが、でかい何かの背中か?
そこそこずんぐりとしながら背丈は子供を上回ってる。
もしあいつが肉食だったら危ない相手だな。
そんなやついたら逃げに徹するも致し方なし。
俺より先に発見したコボルトくんもまともに取り合う気はゼロみたいで、慎重に距離を離すべくじりじりと後退していく。
バキンッ
あっ…( 察し)
いい音してんねぇ!どおりでねぇ!!
ずんぐり背中がこっちを向くと、どっかで見たような顔。
クチバシネズミはあんなに成長するのか…。
そしてコボルトくんを見つけると即まっしぐら。
視姦甲殻類だけではなくクソデカげっ歯類にもロックオンされた憐れな生類くんは、肉食系のアプローチを水被せという手段をもってお断りを入れる。
ネズミはそのお断りを数秒で制し、再アタックを仕掛けるも既に全力後ろダッシュにより物理心理両方の距離を離されていた。
それに追いつこうと走り出すがここでギッチョン介入。
水を受けたことで注意が完全にコボルトくんに向いていたお陰で、難なく側面の肩あたりに飛びついてしがみつく。
鈍い鳴き声を出しながら驚いたネズミは急停止して戸惑っていた。
一瞬でも隙を見せたらこっちのもの。
慣性に抗えず腹に取り付く形に変わってしまったが、振り解こうと動く前に俺は鋏で容赦なく腹を突き刺す。
同時に、この距離からでも打ち出せば鈍器程度の威力を持つ水を鋏から出した。
この時、鋭そうな爪で腕や背中をひっかかれたが全く痛くないので無視。
口腔の奥底にある食道あたりで水を圧縮し、それを何時でもはじき出せるようなイメージをコンマ一秒でつくる。
噛み付いてこようとする敵に、待ってましたと言わんばかりに顔目掛けて口から水を撃つ。
岩すら傷つけられる威力をもろに受けてネズミはもんどりうった。
間髪入れず、俺は嫌な音の立てたながら首に鋏を何度も突き刺す。
三発入れると断末魔のようなものが聞こえたが、念のためもう二発入れる。
動かなくなって10秒ほど様子をみる。
流れる赤以外は何もなかったので、どうやら止めは刺せたみたいだ。
さて、事後処理はどないしよ。
うーむ。
取り敢えずコボルトくんが投げていった桶はちゃんと立て掛けてあげよう。
ネズミは…置いてくか。
引きずりながら移動するのは目立つし、コボルトくんに見つかったら何を思われるか分からなくなっちゃうからな。
肉食動物ってなんか退治したくなる存在だもの。
鋏をちょっと綺麗にしてから作業して、終わったらもう今日は帰ろうかね。
とっさに狩っちゃったけど、コボルトとはいえ服を着た文明を持った存在がガジガジされるのが見たくなかったから仕方ないね。
また川の方に来てくれたらいいなぁコボルトくん。




