第8話 原校と文研部 後編
放課後。
授業が終わり、慎は霊夢達を連れ文研部の部室へ向かった。
この学園は幼等部、小等部、中等部、高等部からなり、さらに大学部・大学院と、一度入学してしまえば進学に関しては全く問題ない学園である。その代り進級試験は難易度がやや高いようだが。
そして、この学園の校舎もそれぞれP、Eエリア、Jエリア、Hエリア、Uエリア、Gエリアに分かれていて、それぞれのエリアでその等級の生徒が生活ないし授業を受けている。
そして慎達が向かっている部室はHエリア、つまり教室からはあまり遠くない位置にある。
「なあ、これから何しにいくんだ?」
「お前らを部室に案内し、文研部に入れる。」
「ウチの部活はやりがいがあるぞ。」
胸を張る栞里。彼女こそは文化研究部の副部長であった。
「やっぱりか……俺のいる意味、あるのかな……」
「あの時『何でも』なんて口走ったお前が悪い。」
「ハァ……分かってるよ。」
「文研部って、何をする部活なんですか?」
「えっと、簡単に言えば、慎くんがいろんな人のお願いを聞いてあげる部活だね。」
「その分報酬はもらう。いや、報酬の分しか仕事はしない。そして先払いだ。」
「報酬ってお金?」
「その場合もある。基本的には、『その依頼の達成と等価のもの』だな。」
「どういうこと?」
「例えばだ。誰かが、何か大切な物、そうだな、親友からのプレゼントをなくし、そいつを探してくれと頼んできたとする。」
「そいつが報酬として『少しのお金』を持ってきたとする。この時の『少し』の主観は相手におく。」
「その場合、俺は一週間かそこらで探すのをやめるだろうな。」
「仮にその『報酬』が、『自分にとってとても価値が高い物』を持ってきたとする。
そうなれば、俺は絶対に探し出して、新品同様に綺麗にしてから渡してやるだろうよ。」
「なるほどね。」
「さて、着いたぞ。」
目の前には、『文化研究部』と書かれている空き教室。引き戸を開け、中に入る。
「あっ、如月先輩。」
「来たな。これ、入部届だ。名前だけ書け。」
先にこの部屋に来ていた乾介と天音が出向かえ、
霊夢・魔理沙・早苗の3人に入部届が手渡される。
「分かりました。霜月先生がここの顧問なんですか?」
「そうだ。」
「霧雨魔理沙っと。我ながら画数が多いぜ。」
「同感。自分の名前なんて、幻想郷じゃあまり書く必要がないからね。」
「読み書きの出来ない妖精さんとかそこら辺にいますしねぇ。あ、書けました。」
「よし、受理した。ようこそ、文研部へ。」
「それで、なんだって私達をこの部活に入れたの?」
「ここにいたほうが、色々とサポートを受ける際に一々説明しなくて済むし、
それに当てもなく街を彷徨っても仕方がないだろ。」
「幻想郷……?」
「ここにいる者には説明しよう。隠した方が面倒そうだ。」
慎は霊夢と魔理沙と東風谷が幻想郷から来たこと、そして帰る方法を模索していることを文研部全員に説明した。
「なんかおとぎ話みたいですね……。」
「しかし、私の知らない何らかのエネルギーで飛行してるのを確認している以上、その話も本当だろう。」
過去に彼女らの飛行を"解析"しながら見ていた栞里は、容易くこの話を飲み込んだ。
「マジかよ……。」
「そういうわけだ。それから、そこの小3の寺島乾介も紹介しよう。」
「ああ、君か。君も我らが文研部に?」
乾介が皆の前に立ち、自己紹介を始める。
「はい。小等部3年7組の、寺島乾介といいます。よろしくお願いします。」
「歳のわりにしっかりしてるね。」
「副部長の文月栞里だ。これからよろしく。」
「なあ、ウチって新入部員の勧誘やってないのに、何で新入部員がいるんだ?」
「『お礼』だ。」
「なるほど。手っ取り早い『解決策』として、ここに放り込んだわけだ。」
「その通り。」
全員で自己紹介をすます。
各自適当に机に座り、寺島が切り出した。
「そういえば『依頼』って、どういう感じで来るんですか?」
「目安箱みたいなものがあるとか?」
「そんな管理が面倒なもの誰が置くか。」
「私達の活動には、たまに金銭が絡むからな。公には活動できないんだ。
依頼は、いつもは依頼主が直接来る。」
突如。
コンコン、とノックの音が響き。
「失礼します。」
扉の向こうから女子の声が聞こえてくる。
「あの、文化研究部ってここで合ってますか……?」
「こんな風にな。」
「その通りだが。」
「あの、『依頼』があってきたのですが……。」
まるで仕組まれたようなタイミングで依頼が来た。
ひどく思いつめた表情をした、おそらく高等部の少女。
「まあ取りあえず座れ。話を聞こう。」
空いている席へ案内し、対面するよう机を動かし、その向かい側に慎が座る。
「僕、お茶入れてきます。」
張り切る乾介。
「さて、まずは学年と名前から聞こうか。」
「はい、高等部一年の、一ノ瀬宮といいます。」
「では一ノ瀬。要件、もとい依頼内容は?」
「えっと……その……なんて、いうか。」
「どうした?」
「その……ストラップ、を、探してほしいんです。」
「ほう……。」
「なんかすいません、こんな事、誰かに頼むことじゃありませんよね。」
「さぁな。ここに来たということは、最後の望み的なのもだめだったんだろう?」
「はい……。」
憔悴と絶望を顔に浮かべ、相手の顔を見ることもなくうつむき続ける宮。
そんな生徒ばかりを相手にしてきた慎、栞里、彩愛、勇太は、慣れた様子で話しに聞き入る。
「お茶、入りました。」
乾介が俺と一ノ瀬にお茶を持ってきた。仕切りなおすには最高のタイミングだった。
「それで、そのストラップの特徴は?」
「小さい、茶色のクマさんのやつです。」
「失くした場所や状況に心当たりは?」
「先週、学校から帰る途中に、なんかよく分からない人に襲われて、その時は通りすがりの人に助けてもらえたんですけど、その後気づいたらなくて……。」
「なるほど。」
「あの、そのストラップなんですけど……。」
「どうした?」
「その、私の友達からもらったもので、その時は、私もお礼にって、ボールペンをあげて、その友達の子、5日くらい前から学校来なくなってて、それで……」
一ノ瀬は途中から、泣きながら続けた。
「もしかしたら、無くしたことで怒ってるのかもって、謝ろうって思って……」
「そう思って、悠理の家行ったら、家にもいなくて、ずっと帰ってきてなくて……」
「だから、ストラップと、悠理を、探してくれませんか?」
「探してください!!!お願いします!!!」
最後の方は泣きじゃくって、机に頭を付けて頼んできた。
「先輩や後輩の子から、報酬は割高だって聞きました!だから!」
一ノ瀬は財布をとりだし、中身を全て机の上にぶちまける。
小銭が落ちる音が教室中に響く。
「『全財産』です!!!お願いします!!!」
今度は椅子から立ち、少し横にずれて土下座する。
「慎。」
慎に目配せする栞里。
「……とりあえず、顔を上げろ。そんで顔洗ってこい。」
「はい、分かりました……一旦、失礼します。」
この場において、決定権を持つのは部長たる慎。
そして、彼の中で既に結論は出ていた。
「……おい慎、どうするんだ?」
あまりの切実さに驚いていた魔理沙。
顛末が気になり、つい尋ねる。
「この報酬の払わせ方には意味があってな。狙いは、『依頼主の本気度を計ること』だ。」
「まあこの金は、形式上契約するために預かるけどな。つまり。」
「依頼は受理する。」
「お待たせしました。」
戻ってきた一ノ瀬が、席に座りなおす。
「その『悠理』ってのが、お前の親友か?」
「はい。幼稚園の頃からの付き合いです。」
「……依頼内容を確認する。依頼は、『ストラップ』と『悠理』の捜索、報酬はお前の『全財産』これで合ってるか?」
「はい。」
「分かった。依頼を受理しよう。」
「ありがとうございます!」
「よし、早速その話を聞こう。勇太、机の上を片付けろ。」
「へいへい。」
勇太が、机の上にぶちまけられた小銭や札束をかき集め、移動させる。
彩愛が手帳を広げ、メモを取る準備をする。
「まずは『悠理』についてだ。話せることを話せ。」
「はい。名前は、最上悠理、私と同じ高等部1の5の生徒です。」
「部活は?」
「一緒に空手部に入ってます。」
聞いた情報を、すぐさま書き留めていく彩愛。
慎、栞里、勇太も、それぞれが頭の中に情報をインプットしていく。
「次、お前が『襲われた』時の状況について。」
「はい。いつも私は、悠理と途中まで一緒に帰ってるんですけど。その日襲われたのは、悠理と別れた後でした。」
「何か黒い服を着た人がいきなり出てきて、私を攫っていこうとしたんです。」
「なので、応戦していました。そしたら、周りの人が集まってきて、その黒い人たちは逃げていきました。」
「なるほどな……。よしわかった。今日はもう帰っていい。」
「分かりました。悠理とクマさんのこと、よろしくお願いします。」
一ノ瀬が退室する。
「さて、と。」
「慎、まずはどうする?」
「そうだな……。勇太、アイツはどの位の額、置いてった?」
「ざっと5万ちょっと……だな。」
「ふむ……。」
報酬の額から、解決に用いる日数、そして手順を逆算。
「よし。そのストラップの形状が分からなければ探しようがない。まずは情報収集からだな。」
「じゃあ、今からまた彼女の所に行って話を……」
「いや、おそらく効果は薄いだろう。悠理とやらの事で頭が一杯だろうからな。」
「じゃあ、どうするんだ?」
「捜索は明日からだ。それに……」
窓から外を見る。
一ノ瀬が校舎から出たところのようだ。
そして、その動きに合わせて、木の上にわずかに確認できる黒い人影も見えた。
「まずは鼠を捕ってくる。」
その黒い影を追い、慎は外へ飛び出した。
「まずは鼠を捕ってくる。」
幻想郷人と健介は、飛び出していく慎を目で追いながら、ただ黙っていた。
今まで彼女らは、人が泣いて物を頼むなんて場面を見たことがなかった。
表現として日常会話の中で『泣いてでも頼む』なんてことは言ったことはあるかもしれない。
だが、実際どういう物であるかを初めて見た。
人里の人間と同じくらい、必死だった。
「これが、慎の、そして私達のやっていることだ。」
「これが……。」
呆然としている霊夢達に、語り掛ける栞里。
「ああ。そして私達は、必ずこの『事件』を解決する。」
「おそらく、既に慎は手掛かりを見つけているのだろう。」
「……私、初めて誰かが本気で泣いてるところを見たぜ。」
幻想郷では、泣いている間に殺されていたから。
「……僕たちも、手伝いましょう!」
「そうです!折角文研部に入ったんですから、お手伝いしましょう!」
「じゃあまずこの部屋の掃除だな。アイツならそういう。」
「どういうことですか?」
「アイツが一人で飛び出すときは、『俺達が付いてこられない事をやる』か、『邪魔だから来んな』の2パターンだ。」
「つまり、今アイツにしてやれる最大の手伝いは、掃除くらいしかないのさ。」
勇太が慎の行動の意図を説明する。
慎にも不器用な一面があるのだな、と霊夢はすこしだけ可愛げを見出だしていた。
「そうね。私達は、ここで待機してましょう。」
「じゃ、慎くんから連絡あるまで、お掃除、がんばろう!」
彩愛の号令で、掃除が始まる。
結局、何の連絡もないまま下校目安時刻を迎え、彼女らは帰宅することとなった。
どうも、観測者Sです。今回も読んでいただき、あちがとうございます。
今回から、霊夢達が学園に編入しましたね。制服姿は脳内保管でオナシャス!
そして、キャラも一気に増えました。これからまだまだ増えます。お楽しみに。
実は、寺島親子は最初は名前を出す予定はなかったんですよ。けどまあ、展開を考えたらこうなりました。
そして、文研部。実際は慎の事務所的な存在です。
何か昔粋がってた不良を黙らせたとかで、一気に有名になりました。それにより、依頼する人が増えたとか。
本当はもう少し話を盛りたかったのですが、それやるとどえらいくどくなりそうだったので、やめました。
さて次回。慎くんが追った『黒い人影』とは何なのか?ご期待ください。
誤字脱字、日本語の間違い等ありましたら、教えていただけると幸いです。
それでは、また次回で。