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現想真魂録~幻想の勇者共が現代入り~  作者: 観測者S
第壱章 Welcome, to outside
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第6話 かくれんぼ

買い物や戦闘、乾介との出会いがあってから、次の日、日曜日の朝。

一同朝食を摂りながら、今日の行動について話し合っていた。


「お前ら、今日はどうするんだ?」

「そうね。不知火を探したいところだけど、手掛かりがまるでないし、まずは情報収集かしらね。」

「慎くんは予定、あるの?」

「制服の調達と編入手続き。」

「制服?何のですか?」

「早速だが、お前らには明日から通称原校はらこうに通ってもらう。」


「ホントですか⁉」

「確か二人が通ってる学校だっけか。学校っつーと、幻想郷の寺子屋か。」

「寝てたら頭突かれると思うと、中々キツそうね。」

「頭突かれることは無いが、チョークなら飛んでくるな。」


「その手続きって、私達が行く必要は無いんですか?」

「必要ない。必要な書類も完成している、後は学園長のハンコをもらうだけだ。後で制服も試着してみるといい。」

「一人で行くの?」

「ああ。」


「私達は街で不知火に関する情報集めね。」

「わかりました。」

「おう。」

「じゃあ私も手伝う!」

「マジか!助かるぜ、サンキューな!」

「じゃあ早速不知火に関することだけど~」


そのまま食事を終え、各自その日の行動に移る。


「それじゃあ行ってくる。」

「いってらっしゃい慎くん!気を付けてね!」

「ああ。」


家を()つ慎。女性陣の情報収集はどうもそれぞれで行うらしく、彩愛が単独行動になることに一抹の不安を覚えながらも、彼は目的のために移動する。


家から約40分。警察のお世話にならない程度に屋根や塀を跳んで向かった先は、ある一軒家の裏手。

そこからは、一人の小太りな男性が、庭でその妻や娘と遊んでいる姿が見える。


慎は男性から見える位置に移動し、手招きをする。


「っ!?わ、悪いが、どうやら知り合いが来たようだから、ちょっと挨拶に行ってくるよ。」

「?わざわざお庭に?折角ならご挨拶しないと……」

「大丈夫!大丈夫だから、ちょっと、行ってくるからね。」


男性は大きく動揺し、家族に隠しつつ慎の下へ向かう。

怯えた表情に対し、心底慎はつまらなそうな顔をしていた。


「き、君がまさか、こんなところまで来るとは。今日は何をやらせに来た?」

「『お願い』ですよ、『学園長先生』。」


この男性こそ、慎達の通う『私立高天原学園』の学園長、三原みはら泰三たいぞうである。


「で、今日は何の用なんだ?」

「ハンコをいくつかもらいに来た。ただの編入手続きだ。クラスはウチ、天音(あまね)には話を通してある。」

「そうか、分かった。」

「くれぐれも丁重に扱ってくれよ?」

「わ、分かっている。それで、いつまでだ?」

「明日編入させる。今日中だ。」

「分かった。」


「じゃ、今日はこんだけ。浮気がバレないうちにとっとと戻れ。」

「た、頼むからそのことだけは!」

「残業すればするほど職員の仕事が増え、本人は学校におらず。残業代はなぜかお風呂屋さんに入っていく。なかなか愉快な職場だよ、あの学校は。」


言い捨てる慎の眼は、眼前の廃棄物を眺めるそれであった。


「そんな大きな声で言わないでくれ!」

「ほら、書類だ。じゃあな豚野郎。」

「ぐぬぬぬぬ……」


用事が達成された慎は、馴染みの仕立て屋へ制服を受け取りに向かう。

全く、世間体を気にする連中は扱いやすくて助かる。その一点にのみ、慎は三原に価値を認めていた。



慎が家を出発してすぐ後、霊夢達も出発する。


「さて、そろそろ出発しましょう。」

「そうだね。あ、これ渡すの忘れてた。はい、霊夢ちゃん。魔理沙ちゃんと、早苗ちゃんにも。」

「これは?」


彩愛が3人に小型の通信機を配布する。昨日戦闘後、ジュネスで出会った栞里がつけていたのを見て、用途は大体想像ついた。


「これは……無線機ですか?」

「なんだこれ?」

「そうだよ。これを耳につけると、離れていても、4人でお話しできちゃうの!」

「携帯電話と何が違うんだ?」


「えっとね、ケータイは、手に持ってないとお話しできないけど、この無線機は手ぶらでお話しできるの!」

「ただ、ケータイの場合は通話以外にも色々できるけど、無線は通話しかできないんだ。」

「一長一短ってとこね。」

「そういうこと。じゃ、いこっか。」


向かった先は、霊夢たちが初めて出会った大通り。この路地裏で、彼女は不知火と出会った。


「それじゃあ、手分けして探しましょう。」



聞き込み等を初めて、しばらく経った。

が。駄目。

全く情報が掴めないでいた。


「全く、一体何者なのよアイツ……」


そう霊夢ぼやいた矢先、その『アイツ』の気配を感じる。

いや、正確には『ここに不知火が来る』と、霊夢の勘が言っている。


「ッ!」


後ろを振り返る。






そこには。





「よう。勘がいいな。」


手提げ袋を持った慎がいた。


まただ。不知火がいると勘づくと、そこに慎がいる。


「んー……。」

「どうした?」

「いや、なんでもないわ。気にしないで。」

「その反応、二回目だな。何があった?」

「本当に何でもないから。それより、何でここにいるのよ?」


『アンタが不知火かもしれない』なんて話は、霊夢自身が否定できる証人。

わざわざ口に出すほどのことでもない、という判断。


「制服を受け取った帰りだ。」

「そう。彩愛なら、多分あっちの方向よ。」


指をさして、方向を教える。

どちらかというと、話の方向が変わることを願っていた。


「そうか、分かった。それで、何があった?」


巫女の願いは通じなかった。


「ハァ……。実は……」


霊夢は慎に、これまでの不知火に関する勘と慎の事を話した。


「いつもは、自分で言うのもあれだけど、私の勘ってよく当たるのよ。」

「なるほど。それで不知火の事になると、必ず俺が現れると。まるでその『勘』とやらは、俺が不知火だとでも言いたげだな。」

「そうなのよ。……ねえ、昨日使ってた刀、見せてくれない?」

「何故?」

不知火(あいつ)の持ってるのは妖刀だわ。アンタの持ってるのが違えば、それで否定できる。」

「そうか。じゃあ、やってみるか。」


そういうと、慎は左手を開き、そのまま前に向ける。


慎「次元干渉虚数方陣展開。空間湾曲。転移。」


慎の手の平に魔方陣のようなものが現れ、さらにそこから昨日慎が使っていた刀が現れる。

それをつかみ取る。

見た目では慎の刀と不知火の太刀は大きく違う。だが、姿を変えうる妖刀というのもまた存在する。

故に外見では判断がつかない。


「よし、成功だな。」

「魔法?」

「いや、違う。これも科学だ。」

「ふぅん。」


違いは霊夢にはわからない。


「それで、どうだ?」

「ちょっとまって。」


精神を研ぎ澄まし、意識を慎の持つ『刀』に集中させる。

霊夢は確かに、何かの波動を感じていた。

しかしそれは、妖力ではなかった。どちらかといえば霊力のそれに近い。


「一瞬妖刀かと思ったけど、これは霊刀ね。アイツのとは違って、妖力じゃなくて霊力を感じたわ。」

「そうなのか。」

「知らなかったの?」

「ああ。俺の研究室には、まだ霊力とやらを計測する技術はないからな。しかし、コイツは貰い物だったのだが、そんな代物だったとは。」

「貰い物なのに、能力が使えたの?」


昨日の話と食い違う。


「ああ、俺のは『刀』そのものじゃなく、正確には『刀の柄』だからな。」

「もとは木刀だったんだが、昔いろいろあって、ボッキリいってしまってな。叔父さんの知人に、刃を打って取り付けてもらった。」

「そうだったの。」

「それで、満足か?」

「ええ、これでハッキリしたわ。あなたは不知火じゃない。」

「そうか。じゃあ村正はしまおう。位相反転。転移。」


今度は手の中にあった刀が、光に包まれて消える。


「これで振り出しね……。」

「情報は集まったのか?」

「全然ダメ。」

「そうか。」


一区切りついたところで。


霊夢の腹の虫が鳴った。


「腹でもへったか?」


魔理沙なら確実に笑い飛ばすところだが、慎は少しも気に留めていないようだ。


「そ、そうね。もうお昼どきだし、おなかすいたわ。」

「腹の音を聞かれたのがそんなに恥ずかしかったか?」

「これでも私は一応年頃の乙女よ。」


たとえ気に留めていなくとも、恥ずかしいものは恥ずかしい。乙女心を分かってほしい。いや、乙女心とか関係ないか。

慎としては、『わざわざ笑うことじゃなかった』。その事実が余計に霊夢に刺さる。


「そうかそうか。じゃあ飯にするか。」

「そうね。どうせ二人だから、多少混んでいても問題ないでしょうし。」

「二人?合流しないんだな。まぁ別にいいが。」

「――ああ、そうね。あの二人は拗ねそう。じゃあ早速、この『むせんき』で連絡を……」


なぜ今、私は無意識に『慎と二人で』なんて思ったのだろう。別に逢引でもないし、そもそも恋仲ですらないのに。

霊夢は己の無意識に疑問を抱き。

そして、連絡を『取ろうとした』。


そう。『取ろうとした』。

つまり、取れなかった。


霊夢は使い方を聞いていなかった。


「……。」

「使い方が、分からない、と。」

「……。」


霊夢は小さく頷く。


「ハァ。いい、俺がやる。」

「あっ…」


実は超使ってみたかった霊夢。だがその機会は今回ではなかったようだ。

現代の技術に触れてみたかった霊夢だが、それでは早苗と同じ思考回路では?と頭を振り払い、己を取り戻す。


「よし、連絡がついた。彩愛と東風谷にな。」

「魔理沙は?」

「彩愛と一緒らしい。鉢合わせたそうだ。霧雨も無線機の使い方が分からなかったらしいな。」

「そう。じゃあいきましょう。」


この後、霊夢達は手近なファミリーレストランで合流。

お品書きにある料理も、実際に運ばれてきた料理も、霊夢や魔理沙にとっては初めて見るものばかり。未知の味覚に舌鼓をうつ。

こんな生活ができるなら、いっそ巫女なんぞやめて、現代に住もうかしら。でも働くのは面倒だから、慎あたりにでも嫁ぐか。

浮かれた霊夢の頭の片隅には、ほんの一瞬そんな考えが浮かんで消えた。


「大体予想できてたけど、結局収穫なしね……。」

「これだけ人がいりゃ、誰か一人は知ってると思ったんだけどな……。」

「そもそも、なぜ紫さんは突然私達を幻想郷から追い出したのでしょう?」

「う~ん……。」

「分からないことだらけだぜ。」


「ごめんね、力になれなくて。」

「いいのよ、気にしないで。」

「謎の仮面妖刀使いは、本当に謎でしたね……。」


「これからどうする?」

「私が思うに、これ以上続けても無駄だとおもうんだ。また違う手を打たないとな。」

「それもそうね。今日はもう引き揚げましょう。」

「そうだ!帰って制服の試着をしないと!」

「すいません店員さん、ストロベリーパフェ一つお願いします!」



帰宅し、リビングに集う一行。


「おおお!すげーピッタリなんだぜ!」


くるり、と一回転して魔理沙がはしゃぐ。

ベージュのブレザーに、紺色のスカート。

幻想郷人の3人は高天原学園の制服を纏っていた。


「確かにピッタリね。まるで体の一部みたい。」

「いつの間に買ってきたんですか?」

「博麗と合流する直前にな。」


「私達はこれを着て明日から『学校』に行くんだな。」

「そういうことだ。」


明日から学校だ。どんな場所か分からない以上、今日はもう余計なことはせず、ゆっくり休んでいよう。

布団に入った霊夢は、忙しくなる日常に若干の面倒くささを感じつつ、

しかし同時に、新たな日常に対する高揚感も抱いていた。

どうも、観測者Sです。今回も読んでいただき、ありがとうございます。

今回、新しい慎くんの一面を書いてみました。ホントに高校生かコイツ。スペック高すぎやろ。

それから、霊夢と慎の恋愛フラグっぽいのも立ててみました。なかなかこういった作品での霊夢に色恋沙汰はあまり縁がないので、ついやってみたくなりました。

成立させるか、それとも折るかは未定です。自分のその時の好みってことで。まあ、他にも|ヒロイン候補(攻略対象)は出すつもりですしね。

さて、次回から学園に入ります。『学園編』というと、少し違うかもしれません。

それに伴って、さらにキャラが増える。ただでさえ5人も喋って長ったらしい会話がさらに長くなる。

空気になるヤツを作らないのって、結構難しいんですよね。でもまあ、この作品を始めた以上は投げ出すつもりはさらさらございません。

誤字脱字、日本語の間違い等ありましたら、教えていただけると幸いです。

それでは、また次回で。

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