第60話 EPISODE SIN Ⅱ
ようこそ、僕の固有境界へ。
初めましてだね。ボクはオルテーグ=ゲイザー。ゲイザーでいいよ。
どうやら、彼の過去について、彼の友人が話し始めたみたいだけど、ところどころ暑苦しい考察や語りが入って、とても聞きやすいモノじゃないね。
だから、キミ達にはボクから伝えよう。
彼の過去に、一体何があったのか。
彼が罪を名乗るきっかけは、何だったのか。
さぁ、始めるよ?
2014年 2月13日、彼の誕生日の前日。
当時小学3年生の彼は、言わずもがな高天原にはいなかった。
そこから当時電車で半日くらいかな、それくらい離れた、××県北滝市の斑鳩という場所に住んでいたんだ。
家族は父の隼と母の遥、そして一つ下の妹の小夜の4人。特に大きな喧嘩もなく、幸せに暮らしていたようだ。
そして彼は、斑鳩市立斑鳩中央小学校の4年生。彼には沢山の友人がいた。
第三者side
北滝市・市街地
慎を含む小学生一行。6人の小学生は、暴走体を追いかけて市街地を奔走していた。
巨大な蜘蛛の姿をした暴走体。そしてそれを追いかける慎。
暴走体「ギィイイイイイガァアアアッ!!!」
慎「よし、追い込んだ!亮哉!」
亮哉と呼ばれし男子「任せろ!『頭脳の檻』!」
市街地の十字路に暴走体を誘い込んだ慎。その反対側から、慎の友人の1人である小林亮哉が迫り、その手に持った『算数ドリル』が仄かに発光。
眼鏡をかけた理系少年の亮哉の持つ問題集からはいくつもの『足し算・引き算の筆算』が飛び出す。
知能が小学生以下なのか、そもそも知性を持っているのか不明な暴走体の8本の脚は、あっさりと筆算の檻に閉じ込められる。
そして、その暴走体の足元目掛け、黒い影が迫る。
比喩でもなく正に影だけが迫り、そして暴走体に迫った陰から、2人の人間が飛び出す。
明穂「やーーーッ!!!」
剛「せぇーーーいッ!!!」
右手に星の描かれたリストバンドをはめ、スニーカーを履いた少女、長月明穂。額に『如月』とある額当てを巻いた、ショートヘアの男子、獅子神剛。
剛「行くでござるよ、『風林火山』!!!」
明穂「いっくよー、『スターダスト』!!!」
剛の四肢、肘より先と膝より先が黄金に光り、そして明穂の両方のスニーカーも虹色に光る。
そのまま暴走体に飛びかかる剛と明穂。しかし。
暴走体「ギィイイイイイ!?!」
剛「何とッ!?」
明穂「きゃっ!?」
あろうことか、暴走体は自らの脚を全て胴体から無理矢理引きちぎり、地から浮いていた胴体を下降させ、強引に攻撃を避ける。
暴走体「ギガギギガガガィァギィ……」
亮哉「脚がまた生えてきてる……」
そして暴走体の胴体から、新たな脚が生え始める。
慎「脚を止めても意味がないなら、少しでも動きを止めて一気に叩こう!フォーメーションBに変更!」
亮/剛/明「了解!!!」
脚の再生を終えた巨大な蜘蛛が、再び立ち上がり逃げ出す。
慎「とにもかくにも、まずはまた動きを止めないと……」
慎達が逃げ出した暴走体を追いなおそうと、構えなおした直後。
少年「どっせぇえええええええい!!!」
暴走体「グギガゴゲッ!!!」
暴走体の真下の影から、巨大な人間の足のオーラが突き出て、暴走体を上空へと弾き飛ばす。
そしてその陰から、新たに二人の少年が姿を現す。
少年「どうだぁ!!!」
少年「4人は……流石に……キツかった……。」
柔道の黄帯を腰に巻いた少年、名を古川隆。
少し線の細い髪の長めの男子、名を木村知樹。
亮哉「慎!!!今だ!!!」
慎「よし行くぞ!!!総攻撃!!!」
剛/明/隆「おう!!!」
慎の掛け声に応じ、ひっくり返った暴走体に向かって一斉に飛びかかる。
慎「行くぞムラマサ、『スターダスト』!!!」
明穂「やあああっ!!!」
慎が右手に握った木刀が虹色に光る。
慎と明穂の二人は、まるで重力など無いかのように電柱を足で上り、その頂点から飛び立ち、
慎/明「せええええいっ!!!」
空中で旋回をしながら降下し、明穂は空中回転蹴り、そして慎は勢いを殺さずに木刀を振り下ろす。
強烈な衝撃を加えられた暴走体の体に皹が入り。
剛「慎殿ッ!!!」
慎「ああ、『風林火山』!!!」
虹色に輝いていた木刀が、今度は金色に輝き。
慎/剛「はああああッ!!!」
皹の入った個所に、さらに追い打ちをかける。
皹はより深く、大きくなる。そして。
慎「決めるぞ隆!『巨人』
隆「押忍!!!」
隆の拳と、慎の木刀が、オーラによって巨大化し。
慎/隆「でぇええええい!!!」
皹の入った暴走体の体を、一気に粉砕する。
暴走体「ギィガァィィァィァィガアアア!!!」
暴走体は一気に砕け散り、辺りは静寂に包まれ、後に残ったのは厚紙に巻かれた手芸用の糸。
亮哉「大丈夫か、知樹?」
知樹「なにが……大変って……ひたすたらに……ハァ……隆が、重い……」
亮哉「流石に影踏みで4人は無理だったか……。」
知樹「大丈夫……すこし……ぜぇ……休めば……。」
明穂「それにしても、家庭科室の糸が怪物になるなんて。」
慎「知樹が辛そうだし、すこし休んだら学校に戻ろう。この糸を戻さなきゃ。」
隆「まさか、糸から蜘蛛になるとは。」
剛「しかし流石は慎殿、的確な作戦で今回も無事勝利を飾ることが出来たでござるな!!!」
亮哉「『斑鳩の英雄』も、伊達ではないな。」
慎「へへっ、まぁな。」
ゲイザーside
『斑鳩の英雄』。
斑鳩一帯に広まっている、彼の二つ名さ。
彼の当時の能力、木刀の『ムラマサ』。性能は2021年現在と同じコピー。なぜ能力の姿や名前が違うのかは、後で説明するとしようか。
その性能を生かして、仲間の持つ能力を次々と状況に合わせて使い分け、さらに的確に戦術指揮を行う事から、小学生らしからぬ彼のスペックによって付けられた二つ名。それが、『斑鳩の英雄』。
事実、成人男性の能力者が苦戦する程度の暴走体であれば、彼がリーダーである『如月小隊』ならば即座に鎮圧できる。
『如月小隊』。彼と、先程彼と共に戦っていた5人を含めた6人の事を指す。これは二つ名ではなく、彼らがそう名乗っていた。
さらに、当時の彼は現代と同じように、頭脳明晰・スポーツ万能。学校内でもかなりの人気者で、顔も広く、本当に沢山の友人がいた。
そして、今の戦闘は彼らの帰りがけの話。無事小学校の家庭科室に糸を戻した彼は、そのまま家に直帰する。
第三者side
如月家
慎「ただいまー!」
小夜「お帰り、にいさま!」
遥「あら、お帰り。天音ちゃん来てるわよ。」
天音「慎、久しぶり。」
慎「天音、久しぶり!」
慎が帰宅すると、いつものように妹の小夜と母の遥、そして当時大学生の天音が出迎える。
慎「珍しいな、天音が来てるなんて。」
天音「近くに用事があってな。折角だからあいさつに来た。」
如月家と霜月家。かねてより十二宗家同士、先祖の代から仲良しということもあって、家族ぐるみの付き合いがあった両家の末裔。
幼馴染程度には仲が良かった。
天音「さて、長居してもなんだし、私はもう帰る……っと、そうだった。ほら、これ。」
天音が慎と小夜、そして遥に小さな包みを渡す。
天音「一日早いけど、バレンタインチョコだ。それと慎、誕生日おめでとう。それも明日だろう?」
天音「それと遥さん、隼さんに渡しておいていただけますか?明日は色々と立て込んでて、伺えるか分からないもので。」
慎「おおマジか、ありがとう!」
小夜「ありがとう、ねえさま!」
遥「分かったよ。慎、これはお返ししないとね。」
慎「ああ、すっげぇのお見舞いしてやる!来月まで待ってろ!」
小夜「そうだ、私もチョコ作らないと……」
天音「フフッ、お前は学校でもモテてるそうじゃないか。精々血の雨を降らさんよう気を付けろよ?」
慎「?よく分からないけど、気を付けるよ。」
天音「じゃぁな。隼さんによろしくお願いします。」
小夜「ばいばい、ねえさま。」
遥「はいよ、気を付けてね。」
慎「じゃーな、天音!」
天音「ああ、それでは、失礼します。」
手を振り、天音は如月家を後にする。
遥「……舞踊、やっぱり継がないのかぁ。」
慎「もったいないよな……。」
遥「まぁ、彼女の場合は、いろいろと難しいからね……。」
慎「そうなのか?」
遥「そんな事より、速く用意して道場行きな。あんまり遅いと父ちゃんに怒られるよ?」
慎「やっべぇ、準備しなきゃ!」
慎は慌ただしく自身の部屋に戻り、そして竹刀等の道具を持って戻ってくる。
慎「行ってきます!」
遥「はい、いってらっしゃい。」
小夜「いってらっしゃい!」
そのままの勢いで、慎は玄関を飛び出す。
遥「さて、私達も始めよっか。」
小夜「?」
遥「お兄ちゃんのチョコ、作るんでしょ?」
小夜「うん!」
ゲイザーside
と、まぁこんな具合に、小学生らしく、彼は幸せに暮らしていた。
まだあの事件までは結構かかるんだ。でも、彼の幼少期の生活を知るのも、悪くはないでしょ?
もうすこし、彼の平和な日常を見ていこうか。
幸せが大きいほど、後の絶望はより大きくなる。彼の絶望を知るには丁度いいスパイスだ。




