第5話 暴走と対話
「文月、目標は?」
『このま真っすぐ、次の角で左!』
「了解。」
文月のナビゲートを頼りに、目標である『暴走体』を追いかける慎。
歩道で助走をつけ、そのまま適当に民家の塀、屋根へと飛び上がり、
「来い!『村正』!」
自らの『武器』を呼びつける。
弥生家の方角から、鞘に収まった一振りの日本刀が飛んでくる。
それを屋根からジャンプし、空中で左手でつかみ取る。
そのまま鞘から刀を抜き、発する。
「【現せ】『村正』!ロード、『影踏み!』」
空中で刀身がほのかに黒く光る。
そのまま慎は地面に飛び降り、そのまま『自身の影』に潜り込む。
地上において質量を持たなくなった慎は、そのまま加速する。この状態では無線は使えなくなるものの、既に察知した気配を導に追跡する。
数秒進むと、大声で泣くおそらく小学生男子を見つける。
慎はその子が『持ち主』であると検討を付けた。
「うわあああん!たすけてよおおお!」
巨大な恐竜の姿の『暴走態』が、今にも小学生を踏みつぶさんと駆け抜ける。
「ガアアアアアアアアア!!!」
「おらっ!」
「おわっ⁉」
影から飛び出し、その男子を保護する。
そのまま物陰へと匿い、目を合わせ。
「いいか、絶対に動くなよ。死んでもだ。」
「えっ!?えっ!?」
そのまま慎だけが物陰から出て、暴走体と対峙する。
まるで本物の、巨大なT‐LEX。全身が鋼鉄っぽいもので覆われている以外は。
「ガアアアアアアアアア!!!」
「来いよ!相手してやるからさぁ!」
標的を失い、ターゲットを慎に変えた暴走体が、噛みつこうと襲い掛かってくる。
振り下げた暴走体の頭を踏み台に、垂直に跳び上がる。
「ロード、『巨人』!」
慎の足が、巨人のオーラを纏い、巨大化し。
「潰れろ!!」
そのまま振り下ろす。
「ガアアアアアアアアアアア!!!」
軽く100トン程度の威力はある蹴りが暴走態に突き刺さる。
しかし、これだけの攻撃を食らっても尚、奴は平気だった。
暴走態が立っていたアスファルトはひび割れ、ヤツはそのヒビにめりこんでいるものの、その体に傷は一つもない。
見た目通り。暴走態の外皮は以上に硬かった。
「グルルルルルルル……」
暴走体が立て直す。本来ならそんな暇は与えない慎だが、現状ゴリ押しに意味がないと分かった以上、様子を見る。
おそらくあの硬度だと、『村正』の刃も通らないだろう。
さて、どうしたものか。
「グオアアアアアアア!!!」
暴走態の再びの噛みつき。今度は横に避ける。そのの顎と牙がアスファルトを抉る。
『防御』という概念は通用しないだろう、と慎は悟った。
『慎、今そっちにこの店から『巫女服の人型』が二人飛んでいった!何者か分からない、注意して!』
「面倒な……それで、弱点は?」
「ちょっと待って……見えた!」
暴走体の攻撃を掻い潜りながら、通信する慎。なるべく空中に跳び逃げていることにより、街への被害はさっきの蹴りと噛みつきによるもの以外はない。
助走も槍もなしの垂直4メートルのジャンプ。常人には不可能だが、彼の両足に灯る青いオーラがそれを可能にしていた。
それより、慎は通信の内容が気になった。『巫女服の人型が』『二人』『ジュネスから』『飛んできている』。まさか、霊夢と東風谷か?魔理沙によれば、幻想郷では魔法が存在するらしい。ならば、二人が『飛べる』のもあり得ない話ではないのかもしれない。
「慎、援護するわ。」
「勝手に手伝います!」
噂をすればなんとやら。本当に飛んできた。おそらく、彩愛が何か喋ったのだろう。これだと、多分彩愛もここに来る。その前に終わらせなくては。
言いつけを守らない常習犯である彩愛には、既に呆れすらなかった。
「あれが『暴走体』ね…。」
「なんかすごいですね。」
「あの個体に衝撃はあまり効果がない。」
「じゃあ壊れるまでぶっ叩けばいいんじゃないの?」
「ちょっとまて。今……」
計ったようなタイミングで、栞里から通信が入る。
『慎、分かった!そいつは外側は硬いけど、外側の『鎧』を剥がせば、十分に攻撃が通る!』
「そうか。二人ともよく聞け。アイツが硬いのは『外側』だけらしい。つまり、ひっぺがしゃ攻撃は通る。」
「じゃあまずは、あの『皮』を剥ぐわけね。」
「恐竜狩りですね!」
「そういうことだ。行くぞ!散!」
「ガアアアアアアアアア!!!」
暴走体の突進をかわし、霊夢と東風谷は空へ、慎は暴走態の真下へと潜り込む。
「おら飛べ!『巨人』!」
「グオオオオオオオオオ!!!」
慎が真下から巨大化した足で蹴り上げ、空中に飛ばす。そして。
「行くわよ早苗!」
「はい!霊夢さん!幻想の巫女の力、見せつけま」
「神技!『天覇風神脚』!」
「ってちょっと!ええい、蛇府!『神代大蛇』!」
霊夢の蹴りと早苗の繰り出す大きな蛇が、暴走体の『鎧』と呼ぶべきであろう部位を、同じパーツに二か所から、逆方向に捉える。
すると、二人の強烈な攻撃により、てこの原理で『鎧』が剥がれ落ちる。
「グオアアアアアアア!!!」
そのまま暴走体が落下し、その『内部』がむき出しになる。
『剥がれた!』
「美味しいところ、持って行っちゃってください!」
好機。
『村正』を逆手に持ち、暴走体に向かって駆け出す。
「封神!『青龍』!」
慎のの右足のオーラ激しく噴き出し、蒼い龍のオーラとなる。
そのまま跳び上がり、暴走体の剥き出しとなった『弱点』へと。
慎「ハァァァッ!龍皇・斬牙蹴衝!!!」
強烈な蒼い空中回し蹴りを、叩き込んだ。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウウウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」
「っ!!!」
「きゃっ!!!」
暴走体が、耳がつんざけんばかりの巨大な断末魔をあげ、動かなくなる。
そして、暴走体の体は白く発光し、縮小する。
そこには、黒いオーラを放つ、プラスチックで作られたティラノサウルスのおもちゃがあった。
「耳持ってかれるかと思ったわ。」
「凄い大きな声でしたね。」
「おーーーい!」
「慎くーーーん!」
「……間に合った、な。」
彩愛の合流前に戦闘が収束し、慎は安堵した。
戦闘の余波で彩愛が被害を被ること。それが慎が最も避けたかったことだった。
「よっし見つけた、『暴走体』とやらはどうなった?」
彩愛とともに駆け付けた魔理沙が、きょろきょろと暴走態を探し。
「ああなったわ。」
霊夢が、黒いオーラを放つおもちゃを指さす。
「もとは大きかったけど、一発派手にかましたらああなったわ。」
「もう終わってんじゃねーかよ!私の出番は⁉」
「それにしても、すごい声だったね。」
「はい。鼓膜が破れると思いました……。」
女性陣がやいのやいのしているそばで、慎は先の男と子を探していた。
視界にとらえたその子は、怯えながらもこっちをじっと見ていた。
近づいて、声をかける。
「あのおもちゃ、お前のか?」
「慎?」
腰を落とし、目線を合わせる。
「うん……。」
「大事な物だったのか?」
「お父さんが、小さいころに買ってくれたんだ。でも、お母さんに、『小学生なんだから、そんなもの捨てなさい』って言われて……」
「そうか。」
「ねえ、なんでティラノ君は僕を襲ってきたの?僕たち、親友だったはずなのに……。」
「……その親友に、『捨てられた』『裏切られた』と、『ティラノ君』は思ったんじゃないか?」
「あっ……」
「お前は、本当に捨てるのか?」
「イヤだ、捨てたくない!僕の最初の友達なんだ!」
「……なら、話して来い。そうしないと、『ティラノ君』は止まらない。」
「でも……」
「大丈夫、できる。ここから逃げなかったお前ならな。」
「……うん、やってみる。」
親友、友達。
それらの単語から、慎は目の前の男の子に失望を抱いていた。
それは、慎だけが理解できる感情だった。
慎に付き添われ、男の子はさっきのおもちゃ……もとい、『ティラノ君』のもとへ向かう。
「とりあえず、このおもちゃは封印して……」
「邪魔だ東風谷。」
「ああちょっと押さないでください、今ちょうどまた暴走しないように封印を施そうと……」
「できるな。」
「うん。ティラノ君に触ればいいんだね。」
「ああ。」
「その子は?」
「この『ティラノ君』の持ち主だ。」
男の子が『ティラノ君』に触れる。すると、男の子の目の前に、さっきの暴走体の姿がぼんやり現れる。
「復活?全く手間増やしてくれちゃって……!」
「なんだって!?なら次は、完全回復した私のマスパで……」
その姿に、霊夢は札、魔理沙は八卦炉を構える。
「全員手を出すな。」
「何言ってんのよ、このままじゃあの子が……」
「……『対話』、だね。」
「ああ。」
「『対話』?」
「黙って見ていろ。」
男の子は、具現化したティラノ君に向けて、話し出した。
「ごめんね、勝手に捨てたりして。」
「……。」
「でもホントは、捨てたくなかったんだ。ティラノ君とずっと一緒にいたかったんだ!」
「……。」
「でも、だめなんだ。お母さんがだめっていうんだ。ごめん。」
「なら、俺が勝手にお前のそばにいてやるよ。」
「ティラノ…君?」
「お前からが無理なら、俺から一緒にいてやる。」
「で、でも、僕はティラノ君を捨てようとしたんだよ!?」
「じゃあ俺様がいなくなったら、お前は誰に泣きつくんだ?誰に愚痴を聞かせる?」
「それは……。」
「俺達、親友だろ。」
「ティラノ君……!」
「そういうこった。今度は俺様が、勝手にお前の部屋に住み着いてやる。覚悟しとけ。」
「うん…!ごめんなさい…!ありがとう…!」
ティラノ君はニタッと笑うと、その姿を消す。
いつの間にか『本体』からは、黒いオーラは消えていた。そして。
「よいしょっと。お、自分の意志で体を動かせるようになってやがる。」
「ティラノ君!?」
突然、おもちゃのティラノ君がひとりでに動き出し、喋りだす。
「『覚醒』したか。」
「えーと、何がどうなってるんだ?」
「『対話』によって、暴走体を鎮めた。その後、その道具に能力が宿り、能力として覚醒する事がある。」
「えーと、なんだかよく分かりませんが、解決したってことでいいんですかね?」
「まぁ、間違ってはいない。」
「じゃあ、慎の時も『暴走体』が出て『対話』したの?」
「必ずしも対話しなければ覚醒しないわけではない。現に俺の『村正』は、一度も暴走体になっていない。
覚醒において重要なのは、『絆を認識すること』だ。」
「ふーん。」
「あの、ありがとうございました!」
「悪かったな、旦那。迷惑掛けちまったみたいで。」
今まで話し合っていた一人と一頭、いや一体?は、慎達に向き直り、感謝を伝える。
「ホントだよ。折角の休みなのにな。」
『まあいいじゃないか。それに、たまには運動するのも悪くないだろう?』
「いやはや、本当にすまねえ。」
「慎くん、それぐらいにしてあげな。かわいそうだよ。」
「……お前、名前は?」
「えっと、高天原学園小等部三年の、寺島乾介です。」
「高等部二年の如月だ。」
「えっと、如月先輩……ですね。今日は、ありがとうございました。これから帰って、ティラノ君の事について、お母さんと話し合ってみたいと思います。
お礼はまた後ほど、学園で。それじゃあ、失礼します。」
「あばよ。またな。」
「おう。」
二人は帰っていた。
「現代の付喪神、あんなことになってるのね。」
「よし、ジュネスに戻るぞ。日用品が未会計だ。」
「そうなの?じゃあ戻ろっか。」
「でも、ここからだと、それなりに距離ありません?」
「お前ら飛べるんだろ?彩愛は俺が担ぐ。何も問題はない。」
「私、箒がないから、お前らに付いていける自信が……」
「そうか、がんばれ。行くぞ。」
慎が彩愛を横抱きにして跳躍する。
「わぁっ♪」
「それじゃ、お先に。」
「待ってください!折角なら競争です!」
軽やかに空へ舞い、慎を追いかける巫女二人。
「おいお前ら、少しは人の事を考えろーーーっ!!!」
昼飯時の青空に、一人の魔法使いの叫びがこだました。
どうも。観測者Sです。今回も読んでいただき、ありがとうございます。
今回は初戦闘でしたね。なんかガラの悪そうな連中とかいましたが、忘れました。
では、慎くんの使っていた能力について、説明を。
彼の能力は、『獄刃・村正』。効果は、『記憶を再現する』ことです。
簡単にいえば、コピー能力です。でも、何でもコピーできるわけではありません。コピーできるのは、前提として『実際に見たことがある能力』、それと『原理を知っている能力』もしくは『何をやっているか理解している能力』のどちらか。この最低二つの条件を満たしていないといけません。
こんな感じで、たまにここでは能力の紹介をやっていきたいと思います。
誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら、教えていただければ幸いです。
それでは、また次回で。