第50話 ミスター・ナックルマン
バックル「クルミアームズ!ミスタ〜〜〜!ナックルマ〜〜〜〜〜ン!」
勇太「……行くぞ!!!」
仮面の戦士に変身した勇太。
拳を構え、そして……
暴走体「グァルゥァア!」
飛びかかってくる暴走体を……
勇太「ハァッ!」
カウンターブローを胴に当て、吹き飛ばす。
暴走体「グァッ!?」
吹き飛ばされた暴走体は、罅の入った腹をさすりながら、痛みに悶える。
暴走体「グウウウウッ!ァアアアアアアッ!」
霊夢「ダメージが……通ってる?」
勇太「よし……行ける!!!」
暴走体が大勢を立て直すと同時に、勇太もメカメカしい拳を構え。
勇太「ハァッ!」
暴走体「ガルァルァ!」
霊夢「援護するわ!」
再び、激突する。
慎が足元に転がってきたビーチボールを拾い上げると、活発そうな高校生っぽいショートヘアでビキニの少女が駆け寄ってくる。
その少女の顔を見て、慎は苦虫を潰したような顔をする。
見た感じ活発な少女「すいませーん、思いっきり蹴ったら飛んでっちゃって。」
慎「……そうか。それ。」
見た感じ活発な少女「ありがとうございます。」
慎がビーチボールを少女に投げ渡すと、少女は何かを思い出すように慎の顔を覗き込む。
見た感じ活発な少女「……慎?」
慎「……どうかしたか?」
見た感じ活発な少女「ああすみません、昔の親友に顔が似ていたもので。」
慎「……そうか。」
見た感じ活発な少女「私、今高2なんですけど、その親友とは小学4年の終わり頃に離れ離れになっちゃって。
それで、今度その親友がいるかも知れない学校に転校になったんです。
だから、その転校先の学校からそこそこ近いこの海で、もしかしたら会えるかなって、ほんのちょっとだけ期待してたんです。」
慎が促したわけでもなく、少女は勝手に語る。
慎「……。」
見た感じ活発な少女「まぁここ7年くらい会ってないんで、顔が変わっちゃってるかもですけど。」
慎「……お前、名前は?」
見た感じ活発な少女「長月明穂って言います。あなたは?」
慎は少し考えた後……
慎「……『木嶋』だ。」
偽名を名乗った。
明穂「へぇ〜、木嶋さん。あれ、海に1人で来たんですか?」
慎「……それは」
遠くにいる少女「おーい明穂ー!いつまでかかってんのー!」
慎が思いつきの嘘を考えていると、遠くから発言を遮るように声が聞こえる。
明穂「あっ御免なさい、もう行かないと!それじゃ、またどこかで!」
明穂と名乗った少女は、ビーチボールを抱えて砂浜へ戻っていった。
慎「……どうしてこんな所でアイツに会うんだ……二度と顔も見たくなかったってのによぉ……。」
慎「剛といい明穂といい……どうしてこう面倒な連中が集まるかねぇ……。」
慎の掌には、きつく握りしめ過ぎたせいで残った、自身の爪痕がくっきりと残っていた。
慎「小夜……まさかお前まで現れるとか言わないだろうな?」
慎「……まぁ、もしまた現れようとも、きっちり殺し直すだけだがな。」
暴走体「グラァアア!」
勇太「うおっ!?」
殴りかかる暴走体を、右に避ける。
本来勇太に当たるはずだった拳は勇太の背後にあった木に当たり、木は拳が当たった場所で折れ、後ろに倒れる。
勇太「危ねぇ……なっと!!!」
暴走体「ガルゥァア!」
勢い余って体勢を崩した暴走体の脇腹に、全力で勇太が拳を打ち込む。
バキッ!と言う音が響き、暴走体の脇腹の宝石のような鱗に罅が入る。
霊夢「物は試し、そこっ!」
拳を受け、仰け反っている暴走体の罅に、霊夢が霊力の弾幕を放つ。
暴走体「ガァアア!」
霊夢「効いた!」
弾幕は暴走体にダメージを与え、暴走体は痛みに悶える。
霊夢「勇太、あなたは何とか隙を見てあの鱗をぶっ壊しなさい。その隙間に私が打ち込む!」
勇太「わ、分かった!」
吹き飛んだ暴走体はすぐさま体勢を立て直す。
その間に、勇太は変身した時と同じようにカッティングブレードを半回転させるように倒す。
バックル「クルミスカッシュ!」
暴走体「グルウウゥァアアアアッッッ!!!」
バックルから音声が鳴り、勇太が装備しているグローブが球状の茶色いオーラを纏うと同時に、暴走体も頭で霊夢に突進してくる。
霊夢「飛べないなら、私には当たらないわ!」
それを霊夢は上空へ飛ぶ事で回避する。
攻撃を外した暴走体はそのまま進路を変え、勇太に突進する。
暴走体「グゥウウウウウウウ!!!」
暴走体の頭が勇太の頭に迫った時。
勇太「……そこだっ!!!」
オーラを纏った勇太の右拳が、暴走体の頭に激突。
そのまま、暴走体の頭の宝石は砕け散り、暴走体は大きく吹き飛ぶ。
霊夢「霊符『夢想封印』!」
霊夢の必殺技ともいうべき、全力の霊撃が、暴走体の砕けた頭にヒット。
暴走体は更に吹き飛び、大木にもたれる形になる。
霊夢「勇太!」
勇太「分かった!」
勇太はカッティングブレードを2回倒し、
バックル「クルミオーレ!」
勇太「ハァアアアアッ!!!」
先程より一回り大きなオーラを拳に纏わせ、暴走体目指して駆ける。
勇太「ブレイブゥゥウウ!!!」
そして、十分な助走をつけた勇太は高く飛び上がり……
勇太「インッ!!!」
大きく拳を振りかぶって……
勇太「ッパクトォォオオッ!!!」
着地と同時に踏み込み、暴走体の胸に拳をめり込ませる。
暴走体「ガァッ 」
暴走体の背後にあった大木は根元から折れ、暴走体と共にはるか後方へ吹き飛ぶ。
そして。
暴走体「ガ ァ ッ 」
微かな断末魔を上げた直後、爆発四散。
爆音が響き、衝撃波が辺りの葉を揺らす。
霊夢「ふぅ、やっと終わったわね。」
霊夢はふわりと地上に降り立つ。
勇太「ハァ……ハァ……勝っ……た……。」
勇太の変身が解けベルトが消え去り、錠前が嵌ったままバックルが勇太の腰から落ちる。
そして、そのまま力なく倒れる。
霊夢「ちょっと!?大丈夫!?」
「成程。此れが初陣か。」
勇太に駆け寄った霊夢の耳に聞こえたのは、意外な声。
霊夢「不知火!?どうしてここに!?」
木の陰から姿を現したのは、仮面を被り、全身に白い鎧を纏った謎の存在。
名前以外一切不明、唯一の幻想郷帰還への手がかり。
不知火「……能力に慣れていなければ、こうなる可能性は十分に在った。観測た所、己の思い付く限りの大技を放ったのだろう。」
霊夢「大丈夫なの?」
不知火「……暫く時間を置けば目を醒ますはずだ。早く海岸に連れて帰る事だな。」
霊夢「……アンタどこまで知ってんのよ?」
不知火「……能力とは、使用者に呼応して性能が左右される。今は只未熟だったが故、扱う感覚が馴染んでいなかったのだろう。其の様な状態で全力で行使すれば、意識を失うのも頷ける。」
霊夢「そうじゃ無くて。何で私達が海岸に来てる事を知ってんのよ?」
不知火「……さぁな。」
霊夢「さぁなって……。」
霊夢(不知火が現れるなんて滅多にないわ。今この場で問いただすべきね。)
霊夢「それはそうと、アンタ、幻想郷への帰り方、知ってんでしょ。教えなさい。」
霊夢は普段弾幕を放っている右掌を向け、半ば脅す様に問いかける。
不知火「……諦めろ。私は負けない。」
霊夢「やってみればわかる事よ!喰らいなさい!」
警告を挑発と取った霊夢は、不知火に向け弾幕を放つ。
しかし、弾幕が不知火に向けて放たれると同時に、不知火は一枚のカードを取り出す。
そのカードは、霊夢が今まで散々見て、使ってきたカード。
幻想の世界での決闘に使われし、『スペルカード』。
霊夢(現代でわざわざスペカ?いいわ、返り討ちよ!)
不知火「真符『夢想―絶世』」
不知火の周囲を囲う様に、空中に停滞する無数の黒い弾幕が生成される。
不知火の弾幕は霊夢の弾幕をすべて相殺し、そして―
霊夢「!?」
霊夢の弾幕と全く同じ軌道を描き、霊夢目掛けて飛んでいく。
勘で危機を察知した霊夢は、そのまま横に飛び、弾幕を回避する。
霊夢「鸚鵡返しなんてやってくれるじゃない。それならこっちも本気で……」
霊夢が切り返しに弾幕を放とうとした瞬間。
不知火「―疾」
霊夢「……えっ?」
一瞬にして、不知火は霊夢の背後に移動。
ドン
霊夢「この……感じ……あの時……の……。」
そのまま、手刀で霊夢の意識を刈り取る。
そして左腰の刀に手を掛ける。
不知火「……手間のかかる。起憶、『八雲 紫』」
刀は仄かに黒く発行する。
空中に空間の裂け目……『スキマ』を生成させ、そこに不知火は霊夢と勇太、別のスキマに錠前とバックルを放り込む。
不知火「……今は、まだだ。」
慎「特に成果はなし……所詮は根も葉もない噂か。」
ドサッドサッ
慎「……何だ?」
慎の背後に、何かが落ちる音が。
振り返ると、そこには。
慎「……手間のかかる。何故ここで寝る。」
意識を失った勇太と霊夢。
慎「調査も丁度終わった。タイミングもいいし、このまま引きずっていくか。」
慎は2人の足首を掴む。
慎「……流石に霊夢を引きずったら彩愛辺りがうるさそうだからな。」
そのまま慎は2人の足首を放し、霊夢をお姫様抱っこして、彩愛達のいる海岸へと戻って行った。
海岸 というか砂浜
魔理沙「はぁ、はぁ、流石に疲れた、ちょっと休憩だ。」
砂浜で遊んで疲れ果てた連中が休憩しに一部引き上げていた。
乾介「四谷さいだぁ飲みます?」
乾介はクーラーボックスからペットボトルを取り出し、魔理沙に手渡す。
魔理沙「サンキュー、貰うぜ。おお、キンッキンに冷えてやがる。」
天音「クーラーボックスを持ってきたからな。」
早苗「私達ももらっていいですか?」
乾介「はい、どうぞ。」
早苗「ありがとうございます。」
彩愛「ありがとー♪」
ティラノ君「身体中に砂が入り込んでやがる。」
乾介「はは、ティラノ君もお疲れ。」
休んでいる魔理沙達とは裏腹に、互いに木刀を携えて打ちあう人物が2人。
剛「とぉぉぉおおおりゃぁぁあああ!!!」
妖夢「たぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」
栞里「よし!行け!そこだ!」
早苗「あそこは模擬戦始めちゃいましたね……。」
彩愛「すっごーい。2人とも速いねー。」
昨夜「……おや、あれは……」
慎「よう。」
各々が休んでいる所に、霊夢をお姫様抱っこした慎が現れる。
彩愛「お姫様抱っこ……。」
慎「咲夜。」
咲夜「何でしょう。」
慎「あの森の中に斎藤が転がっている。拾ってこい。」
咲夜「仰せのままに。」
咲夜の姿がその場から消え失せる。
乾介「消えた……?」
彩愛「霊夢ちゃん、大丈夫なの?」
慎「知るか。医学的には問題なさそうだがな。」
咲夜「拾ってまいりました。」
勇太の足首を掴んだ咲夜が現れる。
慎「よし。後は適当に転がしときゃ、その内目が覚めんだろ。」
数時間後
霊夢「……あれ?ここは?」
気を失っていた霊夢が、目を覚ます。
勇太「お、起きたか。」
霊夢「あんた、気が付いたのね。」
勇太「ああ、ちょっと前にな。」
ちらっと霊夢が見渡すと、先程木刀で打ち合っていた2人が汗だくになって倒れ伏していた。
妖夢「ぜぇ……なかなか……やりますねぇ……」
剛「はぁ……妖夢殿こそ……決着はまたいずれ……」
霊夢「……何でこの2人は燃え尽きてんの?」
魔理沙「数分前までずーっと打ち合ってたからな。どうだ?調子は?」
霊夢「何ともないわ。それで、不知火に会ったわ。」
魔理沙「不知火に!?」
慎「気が付いたか。」
霊夢「ええ。」
魔理沙「慎、霊夢が不知火に会ったって!」
慎「そうか。まぁその辺の話は後にするとして、さっさと着替えろ。帰るぞ。」
彩愛「そうだね。もう日も暮れるし。」
霊夢「そうね……。」
海の向こうの水平線には、赤く染まる空と、大きな太陽。
美しい夕焼けが、新たな展開を予感させていた。
霊夢「現代にも、いや現代だからこそ、こんなに幻想的な光景を見られるのかもね。」
慎「……そうかもな。」




