第4話 衣と脅威
次の朝。
慣れない布団で、霊夢は目を覚ます。
「そっか、ここ『外』だった…。」
昨日のことを思い出す。突然紫に幻想郷を追い出され、外の世界で謎の仮面と出会う。
そして、魔理沙や早苗と出会い、今は現代側の人のお世話になっている。
「そういえば、今日は買い物だっけ。」
布団を出て、一階へ向かう。
「お、起きたか。おはよう霊夢。」
「おはようございます、霊夢さん。」
「おはよ、霊夢ちゃん!」
「おはよう。あれ、慎は?」
一階へ降りると、この家のほとんどの住人が集まっていた。魔理沙と早苗は、彩愛に台所の使い方を教わったようで、朝ごはんを作っていた。
「研究室じゃないかな。見にいってみる?」
「そうね。」
霊夢と彩愛は、昨日慎に教わった地下の研究室へ向かう。
階段横のドアを開け、さらに階段を降りる。
その先にある扉を、彩愛がノックする。
扉を開く。
「おはよう慎くん、朝ごはんがもうそろそろ出来るみたいだから、一緒に食べよう。」
「ん、分かった。今行く。そういうわけで疋田。この辺で終わらせてやる。」
『そう簡単には終わらないよ!』
慎は格闘ゲームに興じていた。
ボイスチャットから、通話相手の声が聞こえる。
「バーカ。そう焦るから、ほら。」
(◇)『虚空陣奥儀…』
(∵)『そこを左ィ!』
(◇)『悪滅!!!』
ASTRAL FINISH!
HAKUMEN WIN!
『ああっ!さっきのラウンドの雪風は見切れたのに!』
「そうやって焦るから判断が鈍くなる。じゃあ、切るぞ。」
『ああ、またね。』
「何してたの?」
『デジタルゲーム』という文明。当然霊夢は知らなかった。
「ゲーム、現代の娯楽だ。」
「今のって拓海くん?」
ああ。それより、朝飯だったな。行こう。」
3人は研究室を出て、食卓へ向かう。
食卓へ戻ると、魔理沙達が朝食の準備を終えていた。
「おっ、おはよう、慎。」
「おはようございます。朝ごはん、できてますよ。」
全員が着席し、朝食を済ませ、買い物に出る。
「そういえば、どんなお店に行くんですか?」
「『ジュネス』だ。大型商業施設といって、大抵の物なら何でも置いてある。今日買うのは日用品と衣類、それから食料品とかだから、そこで全て間に合う。」
「はぇー、便利な店があるんだな。」
「口で説明するより見たほうが早い。」
「そうか。どんなのか楽しみだぜ。」
歩くこと10数分。入口のすぐ上に大きく「JUNES」の文字がある大きな建物があった。
「どうしたの?早く入ろ?」
この巨大な建築物のみならず、信号機や自動車といった現代にしかない代物を立て続けに眺めさせられた霊夢は、無意識にそれらを注視していた。
彩愛に声をかけられ、自分がぼーっとしていたことに気がつく。
「ああごめん、すぐ行くわ。」
いっそこいしみたいに無意識になってみようかしら。
その後の展開が容易に想像できたため、却下された。
『ジュネスは毎日がお客様感謝デー!来て、見て、触れてください!
エヴリデイ・ヤングライフ・ジュ・ネ・ス♪』
「エヴリデイ・ヤングライフ・ジュ・ネ・ス♪」
店内放送のテーマソングを歌う彩愛。
「この声は何?」
「店内放送だ。簡単に言うと、人の声を録音、つまり記録し、そいつを店の中に流している。」
「声を記録?なんだか外の技術もすごい物ばかりだぜ。」
「一々感動されては買い物が進まん。ほら行くぞ。まずは日用品だ。それは俺が買ってくるから、彩愛は三人を連れて、服と下着を買ってこい。」
慎は彩愛に財布を手渡す。
「分かった。でもあれ?慎くんのお金は?」
「ここにある。」
慎が懐から別の財布を見せる。
「そっか。それじゃあ大丈夫だね。よし、じゃあ私達はお洋服買ってこよう!」
「買い物が終わったら合流する。」
「オッケー、それじゃ、行こうぜ。」
「はい、行きましょう!」
「それじゃ、またあとで。」
そういうと慎はすぐに女性陣に背を向け、去ってしまう。
「私達も行こうか。」
彩愛を先頭に、洋服売り場に向かう。
途中目に入る値札を見て、こちらの物価を考える。
「上着一枚6500……単位が分からないと、よく分からないわね。」
「幻想郷では何を使ってるの?」
「そうね、人里で使われているのは銭ね。」
「そうなんだ。こっちでは、円を使ってるんだよ。」
「え、円ですって!?」
上着一枚が、六千五百円。幻想郷でのその値段は、現代における6500万円に相当する。
いくらなんでも高すぎる。それとも、外では爆発的なインフレでも起きたのか。
現代に驚き疲れた霊夢には、あまりにも衝撃が大きすぎて。意識を飛ばしかけた。
早苗「霊夢さん、幻想郷での一銭は、こっちでの約70円位ですよ。」
なんだ。それだと、えーと、大体……百銭位か。
無事霊夢は情報を処理し終えた。
「私も、お茶一杯百三十円ってのを見たときは、何がどうなっているか理解できなかったぜ。」
「よし、お洋服売り場に到着っと。えーと、店員さん店員さん……あ、見つけた。すいませーん!」
一方そのころ。
霊夢たちと離れた慎は、新しく必要になる日用品を買っていた。
本来なら彩愛が心配だから同行したかったが、流石に下着売り場まで一緒にいると発生する面倒ごとのほうが嫌だった。
それに、下着を買っている間ただ何もしないで待機というのも、彼の性には合わない。効率の事も考え、別行動にして正解だったと結論付ける。
そんなことを考えながら買い物をしていると、彼にとって聞きなれた少女の声が聞こえてくる。
「よう、慎じゃないか。奇遇だな、こんな所で会えるなんて。これはいいことがありそうだ。」
「俺はせっかくの休日にお前と会うなんて、嫌な予感しかしない。」
「まあそう言うな友よ。」
「貴様と友になった覚えはない。」
容姿は黒髪のロング、そしてメガネ。よくアニメなんかで見る『文学少女』。
名を文月栞里。慎のクラスメイトであり、かれが部長を務める『文化研究部』の副部長である。
実際に文学少女であるが、たまに官能ものを読んでたりする。好みのジャンルなどは無く、ラブコメ、ラノベ、BL等何でも読む。たまに発言が本の内容に酷似したものになり、それ故学校の連中からは『腐月』なんて呼ばれてたりするのは別の話。
「何を言っている。私とお前と彩愛と勇太は、いくつもの依頼を共に解決してきた、言わば盟友、親友じゃないか!」
「それはお前の基準だ。俺の中では仕事仲間と友は違う。」
「それはそうと、今日は彩愛はいないのか?」
「洋服売り場だ。わかったらすぐ行けいま行けとっとと立ち去れ。」
黒髪ショート。特筆する特徴もない俺をよくもまぁ見つけたものだ、と慎は心の中で毒づく。
地毛が茶髪でポニーテールを結っている彩愛が一緒にいるならともかく。
用事のない接触は面倒だ。特にこの女は輪をかけて面倒だ。
不運を呼び込んだ巫女二人と魔女を少しだけ恨んだ。
そんなことを考えていると、何やら店の外が騒がしい。
まるで『逃げるように』いろんな人間が走り回っている。
慎と栞里には、心当たりがあった。
反射で。直感的に。行動を開始する。
「文月、この辺りを索敵しろ。」
「わかってる。」
栞里は懐から、とても高校生にははまらなさそうな、まるで小学生の用の眼鏡を取り出し、今掛けていた眼鏡をケースにしまう。
そして、先ほどの『小さい眼鏡』をそれっぽく構え、声を発する。
「【映せ】、『トラスト・スクリーン』!」
するとその『小さい眼鏡』はほんのり青白く光り、大きさを変え、栞里の頭にピッタリのサイズとなる。
その眼鏡を装着し、辺りを見回す。
「いた!店の右手に、暴れてるヤツがいる!多分『暴走体』だ!」
「よし、無線をオンにする。装着しろ。」
二人は小型の無線機を取り出して、自分の左耳に取り付ける。
「彩愛には?」
「『動くな』っつっとけ。『暴走体』の進路は?」
「このまま西に移動してる。たぶん、ずっと追いかけられてる男の子が『持ち主』だ。でも、もうそろそろ男の子のスタミナ切れそう!」
「了解。行ってくる。」
「気を付けて!」
慎は買い物かごを文月に任せ、店から飛び出す。
霊夢、魔理沙、早苗の三人は、彩愛の案内で洋服と下着を買い終えたところだった。
「何か悪いわね。こんなに買ってもらっちゃって。」
未だに現代での金銭感覚が体に馴染まず、大富豪になったような気分の霊夢。しかし、大金を使わせたことに対する罪悪感も少しはあった。
「いいっていいって。それに多分慎くんだったら、『この分はこの先の働きで返してもらう』とか言うだろうし、気にしなくていいよ。」
「ありがとうございます。大切に使いますね。」
「どういたしまして。あれ、電話だ。誰からだろう?栞里ちゃん?ちょっとごめんね。」
彩愛は鞄から昨日慎が使っていたものと似たような板を取り出し、耳にあてがって何かしゃべっている。いや、動きを見る限り『話して』いる。
便利なものだと、霊夢は感心する。
「もしもし、栞里ちゃん?どうしたの?
……うん、……うん、……『動くな』って?
……うん、……うん、わかった。それじゃあ、後でね。」
通話を切る彩愛。
その表情は、緊迫したものに変わっていた。
「ごめんね、急に電話がかかってきちゃって。」
瞬時に友達に向けるような柔和な表情に切り替え、3人の方へ向きなおる。
「今のは何をしてたんだ?」
「これは『携帯電話』っていってね、あれ、『スマホ』の方がいいかな。まあいいや。それで、これは遠く離れた人とお話しするための機械なんだけど……」
「なにか、あったんですか?」
「実は私達の友達からで、慎くんからの伝言で、『動くな』って言われて……」
「何か事件でも起きたの?」
「えっとね、『暴走体』が出たって……」
「暴走体?」
「うん。」
「その『暴走体』ってのは何なのよ?」
「こういうのは本当は慎くんの方が得意なんだけど、説明するね。『暴走体』っていうのは~」
彩愛の説明をまとめるとこうなる。
この世界では、長年使い続けてきた物や愛着を持っていた物が、その持ち主に『捨てられる』と、たまに形態を変化させるなどして、その元の持ち主に襲い掛かったり、辺りを怒りに任せて破壊し尽くそうと暴走する事がある。この『暴走している物』を『暴走体』と呼ぶ。
要するに、現代版付喪神である。
そして、その『暴走体』を慎一人で止めにいった、というのである。
「おい、そんな奴相手に慎一人で大丈夫なのかよ!?」
「話を聞く限りだと、それって怪物じゃないですか!いくら慎さんがあんなに強くても、流石に生身は危険すぎます!」
「まぁ、一宿一飯の恩義ってヤツ?」
「でも、慎くんは『動くな』って……」
「うーん……なあ、その『電話ってやつ』の相手って、私達の事知ってるのか?」
「知らないと、思うけど……」
「なら簡単だ。こうすればいい。その電話の相手は、『彩愛に』伝言を伝えた。つまり、『私達』には伝えなかった。知らないから、伝えようがなかった。
私たちは『動くな』と言われていない。だから動いていい。
後は、『何も知らない私達』が『勝手に彩愛を連れ回せ』ばいい。」
「そんな、強引な……でも、ありがとう。」
「まぁそれはそれでいいとして。魔理沙、アンタ箒は?」
「呼べば飛んで来るぜ。」
「でもそれって、確実に家の壁ぶち抜きません?」
「あ」
「じゃあ私と早苗で慎とその『暴走体』ってのを探して向かうから、魔理沙達は後から来て。」
「うん、分かったよ。」
「あーもー煩わしい、私が行くまで出番残しとけよ!」
「よし、行くわよ早苗!」
「はい、霊夢さん!」
霊夢と早苗は、今いる場所から一番近い出口から外に出て、低空飛行で、慎たちを探し始めた。
宙を舞う人間を見ても、驚かれはせど不思議がられはしない。それがこの世界の在り方であった。
どうも、観測者Sです。今回も読んでいただき、ありがとうございます。
今回初めて『視点の変更』をやってみましたが、いかがでしたでしょうか。
では今回の内容に関して。今回、なんか特殊能力っぽいのとか、『暴走体』とか、いろいろ新しい言葉が出てきました。大方予想がつくと思いますが、次回では慎くんも能力っぽいの使っちゃいます。
これらの『能力(正式名称不明)』だとかが、この物語における現代サイドの重要なポイントになってきます。
円から銭への換算については、幻想郷における円の価値がよく分からなかったため、現代とは違い1円=10000銭位にしときました。また単位も分からなかったため、そのまま「銭」にしました。違っていたらごめんなさい。
それと、冒頭で慎くんがチャットしながらやっていたあのゲーム。分かる人は分かると思います。そうです。あの『モーリー・トー・シュミッツ』が原作の某格ゲーです。結構名前とかあの作品から引っ張って来てるものが多いです。問題ない……はずですよね?
誤字脱字、日本語の間違い等ありましたら、教えていただければ幸いです。
それでは、また次回で。