第47話 MOTOR HEAD
固別スキル紹介
『暴呑暴喰』
能力・周囲の戦意を自身の魔力へと変換する。
保有者・グリム=F=ヴォークハイネ (グリム封印後)如月 慎
形状・特になし
固有スキルとは、異世界において、魔術師のみが持つ、独自の技能。
この場合のグリムは、どういった経緯があったかはこの世界では把握できないが、きっとその性能とスキル名に見合った戦いを行っていたのだろう。
戦意さえあれば、自身の魔力が上昇する。その上昇量が測定されている訳ではないため、一概に、とは言えないが、対人戦においては負け方が存在しないだろう。
そのうえで闘いを挑むというなら、命を投げ捨てる覚悟、または戦意無しで全力で戦える精神状況が必須となるだろう。
健次郎「行くぞ……狂犬!!!」
全身の血液が高速で循環し、体中が赤く染まる。
さらに異常に活性化した筋肉も相まって、見た目はさながら鬼の様である。
グリム「この戦意……成程、よほどの肉体強化でも施したのだろう。全く怯えが見えない。」
グリム「だがそれでいい!!!それでこそ、俺の飢えは満たされる!!!」
急激に変化した健次郎を察知し、グリムは極上の餌を見つけた眼で健次郎を捉える。
パチュリー「レディを放っておくなんて、雄としてどうかと思うけど!!!」
急激に変化した健次郎の肉体を出来るだけ安定させようと、パチュリーがグリムに弾幕を放つも、
グリム「いい加減、飽きたわ!!!」
それら全てを腕一振りで相殺されてしまう。
弾幕は全てグリムの腕に当たると同時に爆発を起こし、その爆煙でグリムの視界が曇る。
グリム「小細工しか出来ぬのなら……ぬ!?」
爆煙を腕で払うと。
健次郎「ウオオオオアアアアァァァッ!!!」
グリム「速い!?」
目の前に、高速で迫ってくる健次郎の姿が。
健次郎「フン!!!」
グリム「グゥッ!!!」
ほぼ音速と変わらない速さで打ち出される拳を、グリムは反射的に腕でガードする。
グリム(この人間を甘く見すぎたか?いや確かに、霧が晴れる直前まで戦意はまだ離れた場所にあった……)
健次郎「まだまだ行くぞ!!!」
グリム「調子に乗るな脆弱な人間風情が!!!」
グリムが思案していると、その隙を突くように健次郎が殴りかかる。
その体から目に見えるほどの大量の電流を発している健次郎は、その大量の電流によって発生する磁界を使って、自分の体を崩壊しないギリギリの速度で『振り回している』のだ。
グリムの拳と健次郎の拳が打ち合う。火花が散り、両者共にはじけ飛ぶ。
グリム(さっきの奴の動き方、到底人間の肉体構造で出せる動きではない……外的な力が働いているのか?)
グリム(ということは、先程奴の接近に気がつかなかったのも、俺が感知する前に移動していたから……この俺の反射速度を上回るとはな……)
グリム(魔力の存在しないこの世界で、そのような魔法を付与できるとするならば……そこにいる魔女のみ!!!)
グリム「お前を潰せば、あの男は止まるな!!!」
パチュリー「さぁ、どうでしょうね。」
グリム「ハアァァアアッ!!!」
パチュリーを倒せば健次郎も止まる、そう判断したグリムだが。
グリム「ん?何だ?」
パチュリー「……もともと磁力を操る能力だったものが、魔法とハイブリッドすることでここまで派手になるとはね。科学も捨てたものじゃないわね。」
自ら立てた仮説を検証しようとしたグリムだが、なぜだか前に進めない。
それどころか、若干後ろに引っ張られている。
健次郎「プラズマ収束!!!
健次郎が己の両拳を打ちつける。すると、グリムの体は宙に浮き。
グリム「何っ!?」
そして、高速で後方へ引っ張られる。
グリム「小癪な……返り討ちにs」
茜「そうはいかない!!!」
空中で体勢を立て直し、健次郎に反撃しようとするグリム。
しかし、茜の声がグリムの台詞を遮る。
グリム「真下か!!!」
茜「行くぞ狂犬!!!」
グリムが真下に顔を向けた瞬間。その背中に茜が飛び乗り、背中に右手の篭手の掌を押し当てる。
茜「サーペンタインアサルト!!!」
そして肘の側にある噴射口から勢いよく炎を吹き出し、その勢いでグリムを地面に高速でたたきつける。
グリム「この程度……」
茜「まだまだ行くぞ!!!」
背中から手を離し、今度はがっしりと両腕でグリムの右腕をつかみ。
茜「フランブルエンゲージ!!!」
噴射工の勢いを利用して、腕を掴んだまま、グリムを地面にたたきつけるように地上で縦に3回転する。
3回転目が終わるタイミングで、掴まれたグリムの右腕はちぎれ、腕を残してグリムは宙に飛ぶ。
そして、再び宙に浮いたグリムの背中に、茜は今度は飛び乗り。
茜「ブラック……アウト!!!」
背中に打ち付けた掌から、超高圧力の炎を噴射する。
グリム「グオアアアアアアッ!!!」
半径3メートルほどのクレーターを作りながら、グリムは地面に叩き付けられる。
九重「重力だ!!!」
そして今度は、九重の言葉と同時にグリムの周りが黒く光る。
グリム「今度は何だ!?」
黒い光はグリムを包み込み、グリムごと消滅する。
そして健次郎の上空から何故かグリムが現れる。
九重「今だ、やれ!!!ケンジ!!!」
九重が創り替えたメカにより、グリムの周囲の重力を圧縮。
簡易的なワームホールを作り出し、健次郎の近くへとワープさせたのだ。
健次郎「マグネティックホイール!!!」
グリム「グウアアアウウウウウ!!!」
両腕に強力な磁場と電流を纏ったダブルラリアットが、グリムにクリーンヒットする。
ジャイロのように回転しながら、独楽のように連続であたる。
健次郎「テラ……ブレイク!!!」
そして、その高速の回転によるエネルギーを全て乗せた強烈なストレートが、グリムに当たり、吹き飛ばす。
グリム「グウウウウウウウ……やるではないか、人間よ。」
グリム「だが、所詮その程度の攻撃ではガハァッ!?!?!?」
吹き飛んだ後、自然に立ち上がったグリムだが、突然吐血しながら膝をつく。
グリム「この俺が……血を吐くだと!?」
健次郎「大量の電撃を浴びて、普通の生物の臓物が平気なわけがない。」
健次郎「お前の体を芯から焦がしてやった。」
グリム「何?だが、お前ら程の戦意があれば、喩え4人分であっても再生には十分……」
パチュリー「あなた、何寝言言ってるのかしら。私は最初から戦っているつもりはないわ。」
グリム「何!?」
パチュリー「いくら体をふっ飛ばしても再生する強靭な肉体。この世界での攻撃魔法の調整のためのサンドバックとしては丁度いい素材ではなくて?」
グリム「貴様……この俺様を何だと思っている!?」
茜「お前には隊長を殺した奴という恨みがある。だが、戦っている最中に気がついた。復讐した所で何も変わらない。」
茜「それなら私は、何のために戦うのか。この『超回復薬』のデータ採取だ。九重先生なら、きっと私のデータを元にもっといいものを完成させる。その手伝いだ。」
九重「お前との戦い方は、昼間の報道番組で予想していた。人ごみの集団がざわつき始め、取っ組み合いになったところでお前は出てきた。」
九重「人間の興奮がお前を強化するトリガーということは予想がついていた。だから、私は限界まで冷静に振舞った。なるほど、『戦意』か。それなら納得がいく。」
九重「だが残念だったな。今この場には、お前の望むだけの戦意は無いようだ。」
健次郎「プラズマ収束!!!」
九重が言い切ったタイミングで、健次郎は両腕を前に突き出す。
グリムは強力な磁力によって吸い寄せられ、健次郎ががっちりと掴む。
グリムは拘束から逃れようともがくが、体に帯電している強力な電気が生み出す磁力によって、全身が強力な磁石になっているため、うまく動かせない。
グリム「こんな、戦士として屈辱的なことがあってたまるか!!!」
健次郎「本当の戦士は、相手を殺すことなどしない!!!」
グリム「何を言っている!!!残りの余生に『負け』の烙印を押されずに逝かせてやることこそ、戦士としての情けではないか!!!」
健次郎「何を言っている!!!戦士としての情けとは、『負けを認め、また、負けを認めさせてやること』だ!!!負けを認めることで、初めて強くなれる!!!互いに高みを目指せるようにすること、それが戦士としての情け、礼儀だ!!!」
グリム「戦いに礼儀など無い!!!勝った者が生き残り、負けた者が死ぬ!!!ただそれのみだ!!!」
健次郎「ならば、今負けるお前はここで消滅してもらう!!!第零式拘束機関、作動!!!」
健次郎の術式機構、『力学的無双演舞』の表面に幾つもの魔方陣が浮かび上がる。
魔方陣の中心から無数の鎖が現れ、その鎖はグリムの体を包むように巻かれていく。
グリム「なんだ、これは!?」
健次郎「貴様を敗者の世界に引きずり込む棺だ!!!」
鎖は完全にグリムを包み込み、そしてグリムの足元に巻かれた所から徐々に黄色く光り、そしてグリムごと消滅していく。
ものの数秒で、グリムは完全にこの次元から消え去った。
九重「……奴は完全に11次元に飛ばされたようだな。」
パチュリー「そうね。あれだけ膨大だった魔力が、いまは微塵も感じないわ。」
茜「そうですか、やっと終わった……」
茜は、力が抜けたようにそのまま地面にぺたっと座り込む。
九重「どうした?腰でも抜けたか?」
茜「はは、そうみたいですね。あれだけ大技を連発しても倒れない相手は模擬戦でもいなかったもので。」
九重「ほれ。」
九重は茜に手を貸す。
茜「ありがとうございます。」
茜はその手を引っ張り、立ち上がろうとするが。
茜「あれ、立てない……」
九重「しょうがないな。」
九重は両手で茜を引っ張るが。
引っ張っている間は茜が立っているように見えるも、すぐに体が落ちてしまう。
茜「いてっ。」
九重「どうした?もう赤ん坊じゃないぞ。」
茜「いや、その……両足に力が入らなくて。」
九重「本当か?どこを怪我した?」
パチュリー「あなたはなにか不調は無い?」
健次郎「……。」
どさっ。
術式開放を始めて行った健次郎に、なにか不具合が無いか聞いた瞬間。
健次郎は膝もつかずに倒れた。
パチュリー「ねぇ、大丈夫?ねぇ!九重、大変!健次郎が!」
九重「何!?ケンジ、おいしっかりしろケンジ!!!
茜「ケンジ!!!
その後。さまざまな検査により、以下のことが発覚。
まずは、超回復薬の副作用。
細胞の再生速度を著しく上昇させ、回復を促すものであったが、その再生スピードに他の生きている組織がついていけず、体のバランスが崩れた。
その結果、神経による情報伝達が途切れ、超回復薬を使用した茜の下半身は二度と動かないものとなってしまった。
健次郎はさらにその薬を経口投与した。超回復薬は即効性が高く、体の全身まで回っていたため、全身の組織に多大な付加をかけ続けていた。
その付加の上で動けるようにと脳が筋肉の動きを補おうとしたとき、脳は「筋肉はまだ再生できる」と判断した。そしてその指示のとおりに細胞を増やした。これが、健次郎の体が筋肉隆々の鬼の体になってしまった原因である。
しかも自身の術式機構のせいで全身に強力な電流が通い続けていた。
結果、今の体を維持するため、実は医療免許を持っていた九重が健次郎の体を手術。今の肉体を維持する手術を見事成功させたが、骨格や内臓の構造まで変わっているため、整形手術によってもとの体に戻ることはできず。
パチュリーは自身に仕掛けていた時限式の転移魔法で、健次郎たちが病院に送られたタイミングで強制送還。本来は何があっても絶対に帰ってこられるようにと備えていたものだが、それが今回はパチュリーにとって心残りを作る結果となってしまった。
戦闘直後だったため、紅魔館についてすぐに体力切れ。実力的には幻想郷の実力者と同じかそれ以上の存在と戦ったのである。しばらく寝込んだという。
さまざまな爪跡を残したグリムとの戦い。
結果は科学部の勝利。
しかし。
この状況を『勝った』と笑っていえるのだろうか。




