第45話 絶望は唐突に訪れる
グリムが特殊部隊と交戦していた頃。
不知火「……。」
ゲイザー「駄目だよ、介入しちゃ。」
不知火「……理解っている。」
ゲイザー「キミは今までかなり介入してきたけど、今ここでグリムを倒してしまったらキミ自身に影響が出る。」
不知火「……もとより私の存在は因果の輪廻から解脱しているのだがな。」
ゲイザー「それでもだよ。下手に動けば初号機に見つかる。」
ゲイザー「キミが観測られたら、もう勝ち目はなくなる。『キミ』が『1人』になるまで待つんだ。」
不知火「……それならば、既に手遅れとは思わんか?」
ゲイザー「幻想郷の事なら心配ないさ。あのスキマ妖怪が上手いこと存在を隠している。」
不知火「……だといいのだがな。」
翌日・科学部部室
九重「それで、昨日は封印して帰ってきたと。」
パチュリー「ええ。」
先日突如現れたグリムを再度確実に封印すべく、パチュリーたちは科学部部室に集まっていた。
健次郎「井上の容体は?」
パチュリー「意識不明だ、それも生きているのが不思議なくらいだと言われた。」
健次郎「そうか……。」
突如大量に病院に運び込まれた高天原学園の生徒。それらはすべて、グリムによる被害を受けた生徒だった。
そしてその全てが格闘技の部に所属していて、さらには他校の生徒、一般の人間も運び込まれており、当時病院は大混乱だった。
九重「しかし特殊部隊の人間でも手に負えないとなると……」
健次郎「そうだな。このままでは、この街は終わる。あ、そうだ。」
健次郎「ノーレッジさん、昨日言っていた『より強力な封印の方法』とやらは見つかったのか?」
パチュリー「昨日の戦いでアイツの魔力は測れたから、もう完成しているわ。」
九重「にわかには信じられんな……まさか魔法が実在していたとは。」
パチュリー「私達は幻想の存在。現代で否定された物や忘れ去られた物が行き着く最果ての楽園の住人。この現代の常識や物差しは通用しないわ。」
パチュリー「もっとも、あのグリムとか言う狼男は幻想郷にもいなかったから、幻想郷の考え方でもどうしようもないかもしれないけれど。」
健次郎「幻想郷?」
パチュリー「そういえば、まだ説明していなかったわね。本当はあまり広めないよう言われているのだけれど……」
少女説明中……
九重「ありえん、非科学的だ……しかし、実物がこうして目の前に在るとな……」
健次郎「神や妖怪が闊歩する世界……まるでお伽噺だな。」
パチュリー「いいのよそれで。所詮私達は、世界に存在を拒まれた存在。幻想郷が無かったら消滅していたでしょうね。」
パチュリー「そんな事より、今はあの狼男よ。」
九重「封印とやらはいつまで持つんだ?」
パチュリー「あの場所にどれ位の戦意を持った人が集まるかにもよるけど……早くて明日、いえもっと早いかも。予想つかないわ。」
パチュリー「まぁそんなに早くは集まらないでしょうし、1月もてばいい所かしら。」
健次郎「それまでに新しい封印の準備をしなければならないという事か。」
パチュリー「とはいっても、そこまで大掛かりな物は必要ないわ。」
パチュリー「物はもう運んであるから、後は諸々セッティングして発動するだけね。」
ガララララッ
扉が開き、松葉杖を突いた茜が入ってくる。
茜「こんにちわ。あ、昨日の。」
健次郎「茜?部活はどうしたんだ?」
茜「こんな足じゃ手伝いもスムーズに出来ないからな。早退してきた。どうせトレーニングしかしないし。」
茜「それより、昨日の事が気になって。」
九重「安心しろ。もう少しで解決する。」
茜「そうなんですか。折角もう少しで足が治るから、リベンジしてやろうと思ったのに。」
健次郎「リベンジってお前、能力もないのに。」
九重「それはお前もだろうケンジ。昨日の戦いでお前の腕輪も壊れたらしいじゃないか。」
健次郎「壊れたんじゃない。起動しなくなっただけだ。」
九重「それを壊れたというんだろう。」
健次郎「うぐ……」
パチュリー「ねぇ、能力って何?」
茜「能力を知らないのか?」
九重「能力というのは……」
教師説明中……
パチュリー「道具に能力が宿る、ね。」
九重「悔しいことに、科学的な原理は何一つ分かっていないがな。」
パチュリー「あらそうなの。」
健次郎「魔法とやらで再起動できるようにならないか?」
パチュリー「原理が分かっていないならどうしようもないわ。」
健次郎「そんな……。」
茜「大丈夫だ。そのうちノリと気合で復活する。」
健次郎「それが出来たらどんなにいいか……」
パチュリー「その腕輪、そんなに大切な物なの?」
茜「なにしろ中一の頃から使ってるからな。それ。片方30キロづつあってよくそれで生活できるもんだ。」
健次郎「最近は外している。不意にぶつけた生徒が怪我をしたのでな。」
九重「私も半年前に額を切ったな。」
健次郎「先生……」
九重「ま、昔の事を一々穿り返すほど、私の器は小さくないがな。」
健次郎「ホッ……。」
茜「結局、昨日のあの暴走体もどきはどうなったんだ?」
健次郎「今はひと段落ついて、次の策を練っているところだ。」
茜「そうか。世間も物騒になったなぁ……」ピッ
茜は何げなく部室に備え付けのテレビを付ける。
九重「そんなものは昔からそうだ。」
テレビに映っている報道番組では、ちょうど昨日起こったグリムの事件、もとい『高天原集団暴行殺人事件』について大きく取り上げられていた。
多くの野次馬が集まる中、警察や鑑識が現場を調査し、カメラの前でアナウンサーがマイクを携え、心のこもっていない追悼の意を述べる。
パチュリー「人間はどこも変わらないわね。非日常を刺激として常に欲している。あの野次馬がいい例だわ。」
茜「あの辺りは丁度ウチの部のランニングのルートだな。確か今ランニング中だけど、もしかしたら映るかも。」
事件現場
ニュースキャスター「警察等への聞き込みによりますと、昨日まさにこの辺りで、暴走体が出現していたようです。」
ニュースキャスター「そのとき、現地の人は皆避難しており、特殊部隊の方々は全滅。事件の顛末を見た方はいないという事です。」
ニュースキャスター「以前警察は暴走体の捜索を行っており……」
野次馬A「おいおい、大丈夫なのかよ……特殊部隊でも歯が立たなかったんだろ?」
野次馬B「こんなのがこの街にいるなら、やはり主人に言って引っ越すザマスね。」
非日常をその目にしようと、集まる野次馬の中に一人、黒いスーツに黒いハットといった、少し違和感を覚える服装で、蛇のように鋭い目つきで佇む男性が一人。
ハットを被った男(どういうことだ?狂犬を魔法で封印できる存在なんて今まで現れなかったはずだ……)
ハットを被った男(それとも今回まで現れなかっただけで、可能性はあったのか?)
ハットを被った男(まぁそんなことは今はどうでもいい。このまま機械式の封印が使われないとなると、こちらとしても都合が悪い。復活する日が調整できないからな。)
ハットを被った男(魔法は使う存在によって法則や魔力の質が異なる。あの狂犬を封じるための魔法なら、俺が解析するには時間がかかる。最悪2年で終わらない可能性もあるからな。)
ハットを被った男(一度内側から破ってもらい、そしてもう一遍封印されてもらうか。その方が手間がかからねぇ。)
ハットを被った男(狂犬はどうやら自分の固有スキルの戦意の対象を自分に限定されていると思っているようだが、これまでの観測結果で、対象を問わないことは分かっている。)
ハットを被った男(なら餌を与えてやることは簡単だ。うまく暴れろよ?)
ドン
ハットを被った男は野次馬Bに野次馬Aの方向からぶつかり、そして気配を消して去っていく。
野次馬B「ちょっと、アナタ!!!」
野次馬A「?何だよ?」
野次馬B「ワタクシの大事なお財布、スったザマスね!!!」
野次馬A「はぁ?何言ってんだババア?」
野次馬B「ババアとは何ザマスか!!!さっさとお財布返すザマス!!!」
野次馬A「んなもん知るかよババア!!!」
野次馬B「とぼけるのもいい加減にするザマス!!!さっきワタクシのすぐ隣にいたのはアナタザマス!!!」
野次馬A「だから知らねぇって言ってんだろババア!!!しつけぇんだよ!!!」
野次馬C「なんだなんだ?」
野次馬D「お兄さん、泥棒はよくないな。早く返しなさい。」
野次馬E「でもこの人盗って無いっていってるよ!?そこのおばさんの勘違いなんじゃないの!?」
野次馬B「そんなことないザマス!!!さっさとワタクシの大切なオサイフを返すザマス!!!」
野次馬's「「「そうだそうだー!!!」」」
野次馬A「てめぇこそ変な言いがかりつけてんじゃねぇぞクソババア!!!」
野次馬's「「「そうだそうだー!!!」」」
野次馬B「ムッキー!!!返すと言ったら返すザマス!!!」
野次馬A「盗ってねぇったら盗ってねぇんだよ!!!」
野次馬B「こうなったら……意地でも奪い返すザマス!!!」
野次馬A「上等だコラァ!!!」
ハットを被った男「簡単だよなぁ、人間って。こりゃ争いも無くならないワケだ。」
男の手には、煌びやかな宝石で彩られた、財布が握られていた。
それを懐へしまい込み、男は姿を消した。
グリム(臭う……臭うぞ……)
グリム(強く確かな、『餌』の匂いが……!!!)
科学部部室
健次郎「はぁ……俺のエレクトロ・スライダーが……」
九重「残念だったな。」
パチュリー「意思のこもった道具……興味深いわね。私に研究させてくれないかしら?」
パチュリー「もしかしたら、もう一度使えるようになるかもしれないわ。」
健次郎「本当か!?」
九重「私も手伝っていいだろうか。一度魔法をこの目で見てみたいと思っていたんだ。」
ある程度平和な話をしていると、報道番組を見ていた茜が映像の異変に気付く。
茜「……乱闘か?」
健次郎「どうかしたか?」
茜「ほら、画面のここ。なんだか様子がおかしくないか?」
九重「どれどれ……これは……取っ組み合ってるのか?」
よくよく見ていると、金持ちそうな女性と頭の悪そうな男性を中心に、乱闘が起きていた。
健次郎「まさか……ノーレッジ!!!」
パチュリー「乱闘だとしたら、確かに戦意は発生するでしょうね。でもアイツの言っていた通りだとしたら、その戦意がアイツに向いていない限りは……」
パチュリー「いや、感情の中身は測れても、その対象まで知るとなると、そうとう高度な魔法が必要……」
パチュリー「あの再生速度が体質によるものなら、身体強化を行えば、行った傍から体を元に戻していくから、継続して大量の魔力を消費し続ける……」
パチュリー「そんな燃費の悪い魔法を、あれだけ知能の高い魔獣が使うわけがない……なら!!!」
そこで、ハッとパチュリーの表情が焦ったものに変わる。
パチュリー「計算が狂ったわ!!!」
健次郎「やはりか……!!!」
茜「どうかしたのか!?」
健次郎「ノーレッジ、封印はあとどのくらいで解ける!?」
パチュリー「どれくらいの戦意に対してどれくらいの魔力を得ているかにもよるけれど、最悪日付が変わるころよ!!!」
パチュリー「!!!アイツの魔力がもう漏れ始めてる……時間が無いわね、方法を変えるしか……でもアレを封印する?どうやって?」
九重「お前の用意した封印魔法とやらは間に合うのか!?」
パチュリー「無理よ。条件の一つに満月であることが必要なのだけれど、とても待っていられないわ。」
パチュリー「元々あの封印で1月は持つ計算だったから。でももうそんなに待っている余裕はないわ。」
健次郎「他の封印魔法は無いのか!?」
パチュリー「本格的に封印をしようとすると、それだけ複雑な陣が必要なの。でも今それを用意している時間は……」
九重「……私が手伝おう。」
パチュリー「でも、あなたには魔法の知識は……」
九重「相手が魔法一辺倒なら、科学で対抗できるかもしれない。」
九重「それに、私の大事な生徒が傷つけられたんだ。教師として黙っていられない。」
パチュリー「……わかったわ。ねぇ、健次郎さん。あなたの腕輪も貸してちょうだい。」
健次郎「分かった。」
パチュリー「元の様にとはいかないでしょうけど、戦えるようにはしてあげる。」
茜「じゃあ、これも……」
茜は鞄から篭手を取り出し、パチュリーに差し出す。
パチュリー「これは?」
茜「私のはまだ能力に覚醒してないけど……」
茜「私だって力になりたいし、何より負けっぱなしは嫌なんだ!!!」
パチュリー「あなた……。」
九重「しかしお前、その足でどうやって……」
茜「そこを先生、薬か何かで何とかなりませんかね?」
健次郎「茜……」
茜「私は、お前と戦場に立ちたいんだ!!!」
テレビ『おいアンタ達、何やってんだ!?』
そして、さらに映像は変化する。
茜「隊長?」
テレビ『とりあえず、落ち着いて話し合おう、な?』
テレビ『うっせぇ!!!ガキぁすっこんでろ!!!』
テレビ『そうザマス!!!これは私達の問題ザマス!!!』
テレビ『いっつ!!!』
テレビ『隊長!?お前……隊長になんてことを!!!』
テレビ『おい待て!!!』
テレビ『なんだお前やんのかオラァ!!!』
仲裁に入ったはずのランニング中の軍式格闘部までもが、乱闘に巻き込まれてしまう。
九重「……どうやら軍式格闘部が野次馬と鉢合わせたようだな。」
健次郎「そんな、これ以上戦意が増えたら……!!!」
パチュリー「アイツの魔力が割合的に、つまり加速度的に増えていくのだとしたら……!!!」
茜「やめろ、やめてくれ……どうしてみんな隊長の静止を聞かないんだ!!!」
その時。
まるで『おまたせ』とでも言わんばかりのタイミングで、異変は起こる。
テレビ『なんだ!?体が重いぞ!?』
テレビ『一体何が!?』
テレビ『フン……中々厄介な封印だったが……誰かが餌をくれたおかげで復活できたな。』
映像に映っているのは、コンクリートの中から這い上がり、体をポキポキと鳴らして悠然と立ち上がるグリム。
テレビ『ば、化け物だぁ~~~~!!!』
テレビ『隊長!!!』
テレビ『よし、まずは住人の避難だ!!!アルファは暴走体のけん制、ベータは住民の避難誘導、ガンマは遊撃!!!』
テレビ『了解!!!』
テレビ『た、たった今、現場に暴走体がsy』
テレビ『やかましい。フン!!!』
テレビ『 』
グリムの一撃で、ニュースキャスターは上半身と下半身に分かれる。
テレビ『突撃―――!!!』
テレビ『さぁ、食事の時間だ!!!』
テレビ『うわあああああああ!!!』
軍式格闘部の一部がグリムに特攻するも、全て一撃でただの肉塊へと変えられていく。
茜「そんな……稲盛が……山田が……朽木が……」
九重「惨い……ここまでとはな。」
健次郎「ッ!!!」
パチュリー「何処へ行くの?」
映像を見て堪えられなくなった健次郎は戦場へ向かおうとするが、パチュリーに呼び止められる。
健次郎「今すぐ止めないと!!!」
パチュリー「武器もない状態でただの人間が何をしに行くの!?」
健次郎「それは……でも……!!!」
パチュリー「あなた死にたいの!?」
健次郎「でも……だからって……!!!」
パチュリー「だからって命を投げ出していい理由にはならない。あなたの身を案ずる人の気持ちを考える事ね。」
健次郎「クッ……!!!」
そして。
茜「大前田……浮竹……」
テレビ『ぐああああああァツ!!!』
悪夢は。
茜「副隊長!!!」
テレビ『こんな、ところで死ねるかァッ!!!』
しっかりと。
茜「隊長……無理だ……逃げてくれ……」
テレビ『オラァッ!!!』
最後まで。
茜「隊長!!!山本先生!!!」
テレビ『あああああああ!!!』
テレビ『ザ―――――』
映っていた。
茜「隊長ーーーーー!!!」
九重「山本先生……」
健次郎「クソッ!!!」
パチュリー「……。」
悪夢を見た後で、少女は。
茜「なぁ……パチュリーと言ったか……」
パチュリー「何かしら?」
その固い意志のこもった瞳で。
茜「私に……戦う力をくれ……」
茜「私は、仲間の……隊長の敵をとる!!!」
パチュリー「……本当は、復讐心の下で魔法を使うのは危険なのだけれど……」
紅魔の魔女に、望む。
茜「頼む!!!」
パチュリー「……今回だけよ。」
戦う力を。




