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現想真魂録~幻想の勇者共が現代入り~  作者: 観測者S
第陸章 Operation: Capture the Mad Dog
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第42話 Tasting

あれはまるで地獄だった。

様々な人が死んだ。

私の大切な生徒も死んだ。

唯一の救いは、様々な人がお盆で帰省していたことだった。

おかげで、多くの人が逃げることができた。

今思えば、あの満月は不吉な物だった。

狼男が現れ、街は『喰い荒された』。

私の生徒はアレを『止める』と言っている。

ならば、私は手を貸そう。

人類の発展を担う研究者として。十二宗家として。教育者として。

若者が無理をしないように。無駄な犠牲を払わずすむように。

私の封神かみを以って。あの狂犬を止めよう。

とある日の夜



慎の研究室(自室)



慎「ふむ……」ポリポリ


慎「お、我ながらよく漬かってるな。」



この日、慎は自分で漬けたたくあんを齧りながら、盗み出してきたある研究資料を眺めていた。



術式解放オーバードライブシステムについて』

『第零式拘束機関について』



この資料は慎が以前、九重のデータから盗み出したもの。

意識が無いとはいえ、己の中に飼っている狂犬グリムの事を少しは知ろうと思い、今になって閲覧している。

魔力の扱いや得意な魔法などは既に実験によってある程度把握しているのだが、茜や九重から聞く限り相当暴れまわっていたらしく、どの程度か興味がわいたのだ。



慎「術式機構ユニットもノーリスクじゃない、いやこれは使い方次第か……」


慎「ただこの実験のおかげで超回復薬も精製された。悪いことばかりじゃなかったみたいだな。」



ガチャ



霊夢「何やってるの?」



慎が資料を読みふけっていると、部屋に霊夢が入ってきた。



慎「資料の閲覧だ。何か用か?」


霊夢「課題手伝ってほしいんだけど。」


慎「魔理沙や彩愛じゃ駄目なのか?」


霊夢「もう寝てた。」


慎「はぁ……そこに座れ。」



こうして慎が霊夢の課題を教え始める2年前、高天原ではある凄惨な事件が起こっていた。


決して消えない傷跡を深々と残した、地獄の様な事件が。








狂 犬 捕 獲 作 戦

Operation Mad Dog Capture








2019年 8月 15日 木曜日 夜




高天原商店街




お盆。

死者が現世に帰り、遺族と対話することができるとされている日。

近くに神社が無い高天原では、商店街でお盆祭りが行われていた。



少女「ほら慎くん、今度はこっち行こうよ!」


少年「彩愛落ち着け、走ると転ぶしはぐれる。」



はしゃぐ少年少女を横目に、祭りに訪れていた高校生2人組がいた。



男子「しかしよかったのか?こんな所に私と2人で。」


女子「お前だからだケンジ。さ、まずは焼きそばからだ。」



隣にいる女子に問いを投げかけるのは、眼鏡をかけたそれなりにガタイのいいショートヘアの男子。

高天原学園高等部1年、科学部所属、金剛寺健次郎。



健次郎「彼氏とかはいないのか?」



そして共にいるのは、出るとこ出てるいい体つきで金髪の女子高校生。短髪。

高天原学園高等部1年、軍式格闘部所属、行成茜。



茜「お前も人の事は言えないだろう。さ、行くぞ。」



傍から見ればカップルなのだが、当人たちにはそういった認識は無い。

あくまで幼馴染。そこからの発展を望んでいるかは別として。



少女「さあ行くぞ勇太!もう慎達は先に行ってるんだ!」


少年「待てよ文月、うわっすみません!」


男性「おう、気を付けろよボウズ。」





二人が出店をある程度うろついていた頃。




茜「ほひ、ふひはあっひは!」


健次郎「たこ焼きが熱いのはわかったから飲み込んでから喋ろ。」


茜「ごくん。ケンジ、次は射的だ!」


健次郎「分かった分かった。」


紫髪の少女「あの……」



二人に、紫の髪を持った女性が話しかけてきた。



茜「なんでしょう?」


紫髪の少女「これ、何処に行けば手に入るか分かる?」


茜「えっと……」



少女は一枚のメモを二人に見せる。

しかし全てが英語表記。勉強が得意ではない茜は、すぐに理解を諦める。



茜「……?」


健次郎「これは……本の名前か?」


紫髪の少女「そうよ。出来れば一度にまとめて手に入れたいのだけれど。」


茜「なぁケンジ、これ何なんだ?」


健次郎「本の名前のリストだ。あー、あっちに大きい本屋があるから、そこに行ってみるといい。」


健次郎「古本も新しい物も外国書籍もあるから、きっと見つかるだろう。それでもなければ取り寄せることもできる。」


紫髪の少女「そう。ありがとう。」



少女は礼を告げると、健次郎がさした方へ歩いて行った。



茜「なぁあのメモ、何語だったんだ?」


健次郎「英語だが?」


茜「嘘だ!あんな英語見たことない!」


健次郎「筆記体ぐらい読めるようになっておけ。」


茜「それくらい私にも……そ、そうだ!射的やろう射的!高天原の弾丸バレットの腕を見せてやる!」


健次郎「話をすり替えたな。それに格闘術をやっていても銃の腕前は関係ないだろうに。」


茜「いいんだよ細かいことは。ほら行くぞ!」



<ユーゴットメール



健次郎「メールか。九重先生から?なになに……」



Frоm:Ms,Kоkоnоe


Title:買ってこい


本文:研究だらけでかわいそうな私の為に、ぜひともマタタビチャップス1ダースとお好み焼きと綿菓子を買ってきてくれ。糖分は頭を働かせるのに必須だからな。



健次郎「全く。相変わらず人使いの荒い人だ。」


茜「おーい何やってる?」


健次郎「今行く。」







現代の若者が幻想の魔法使いと会っていたころ。

路地裏では、別世界からの招かれざる客が訪れていた。


何もない空中に突然ひびが入り、人間大の大きさになると、そこから2m程の背丈を持つ獣人が現れる。


異世界で狂犬シーザークと呼ばれる、規格外の強さと知性を持った魔獣。

グリム=(フェンリル)=ヴォークハイネ。



グリム「グウウ……ここは?」


グリム「まさか、魔導士マグと戦っているうちにこんな所に飛ばされるとはな。転移魔法の一種か?」


グリム「空気中に魔力が漂っていないのも気になるな。どのみち、光属性の魔法によって傷ついた体を癒すのが先か。」


グリム「おのれカルメ=ルーラめ……次合った時は必ず……」



大きな切り傷を負った右胸を押さえながら、体中傷だらけの狼男は、その場を離れた。




高天原・街中



紫髪の少女「魔力?この現代で?……まさかね。」


紫髪の少女「でももしかしたら……レミィに面白い土産話を持って帰ってあげられるかもね。」




九重の研究室



九重「さて、ケンジにもメールは出したし、実験の続きを……」


九重「全く。実験より彼女を取るとはな。研究者の風上にも置けん。」


九重「さて、どこまでやったか……ん?これは?」


九重「空間のひずみ?場所は……商店街付近の路地裏……ちょうどケンジ達の近くか。」


九重「流石にデートを邪魔するような無粋な真似はしない。調査は明日行うか。何もなければそれでよし。」




???



ハットを被った男「さて、『今回も』この時期が来たか。」


ハットを被った男「こんな事繰り返して何が面白いんだか。初めの頃はいい娯楽だと思ってたんだがなぁ。」


ハットを被った男「いい加減何億回も観測ていると流石に飽きた。いい加減何か面白いことでも起きねぇかなぁ。」






深夜



この世界に来たばかりのグリムは、この世界を知る為、様々な所を歩いていた。

一般人の恐怖の視線を鬱陶しく思ったグリムは、大した戦意を持たない一般人を離れ、路地裏を移動していた。



路地裏・少し広い場所



グリムが彷徨い歩いていると、4人の不良の溜まり場にたどり着いた。



不良A「あ?何だてめぇ?」


不良B「こんな所に何しに来たんだよ?」



部外者を訝しみ、排除すべくグリムを出来のいいコスプレか何かだと判断した不良達が話しかける。



グリム「この辺りの人間は日が沈んでも家に帰らないのだな。」



自分のいた世界の人間と文化が違う。そう結論付けたグリムは、ただただ考察結果をなんとなく口に出す。



不良C「あ?てめぇ何言ってんだ?」


不良D「俺達がそんないい子に見えるかよ!」


グリム「自ら『いい』子『ではない』と公言する……お前たちに誇りは無いのか?」



そして自分のいた世界の人間と照らし合わせ、疑問に思ったことを素直に口に出す。



不良A「誇りが無いだぁ?てめぇ舐めんてんのか?」


不良B「だったら思い知らせてやるよ……裏ルートで取り寄せた、『コイツ』を使ってなぁ!!!」



だがそれは、沸点のよく分からない若者を怒らせるには十分すぎる一言だった。

不良たちは一斉に懐に手を突っ込み、大きめのUSBメモリの様な物を取り出す。

そのメモリについているスイッチを押すと、それぞれのメモリが音声を発し。



不良Aのメモリ『(コックローチ)!』


不良Bのメモリ『(アノマロカリス)!』


不良Cのメモリ『(マグマ)!』


不良Dのメモリ『(オールド)!』



その端子の部分を己の体に刺すことで、メモリは不良達の体に入り込み、

不良たちの肉体を、怪人へと変貌させる。


不良Aはゴキブリ、Bはアノマロカリス、Cは溶岩の流れる岩石、Dは老人を模した怪人に、それぞれ変身した。



不良たちはグリムに殴りかかるが、グリムの体に当たるも大した効き目は認められず。

その後もアノマロカリスの歯をアサルトライフルのごとく撃ち出したり、マグマの塊を投げつけたりしてみるが、決定打にはならず。

ほんの2,3分で、グリムの暴力的な制圧によって勝負はほぼ決まっていた。



不良A「   」グッタリ


不良B「   」グッタリ


グリム「フン!!!」


不良C「グアアァアアッ!!!ガクッ。」


不良D「この……こうなったら!!!」



絶体絶命になった不良Dは一度メモリを体から排出し、端子とは逆の部分に銀色のアダプターを装着する。



不良Dのメモリ『(オールド)DOWNLOADアップ COMPLETEグレード!』



メモリの性能を通常の3倍以上に増幅するそのアダプターを使って、再び怪人に変身する不良D。



不良D「じじいを通り越して死体になれ!!!」



対象の時間を加速させ、アダプターの力も合わさり150歳老けさせる赤い波動をグリムに向かって撃ち出すが。



グリム「グロウラー!!!」


不良D「なっ!?老化の攻撃が効かねぇ!?」



グリムの作り出す黒いオーラに、全てかき消される。



グリム「フン!!!」



そしてグリムからすれば20パーセントも力を出していないアッパーで、変身した不良Dは鉄筋コンクリートの壁にめり込む。


不良D「うわあああッ!!!」


不良D「待ってくれ、悪かった、今すぐ消えるから、命だけは……!!!」


グリム「感謝するぞ。お前たちの戦意のおかげで、傷が大分癒えた。」



気が付けば、この世界に来た時についていたグリムの傷が、ほぼ完璧治っていた。



不良D「ああ……あああ……」


グリム「己が力で滅べ。ファランクス!!!」



グリムが『グロウラーフィールド』で作り出したオーラに吸収したエネルギーを、相手に打ち返す。

それが、グリムの魔法『ファランクスキャノン』。



不良D「アアアアアああああぁぁぁaa…… … … ・ ・   」



4人のモブは、みるみる内に老けていき、おじいさんになり、骨と皮だけになり、骸骨になり……


そして、風に吹かれ、骨は粉となって、消えていった。



グリム「なるほど。この世界には俺の餌がごまんとある、というわけだ。」



見ず知らずの存在に襲い掛かるという、この世界の偏った風潮を知り、興味を抱いたグリム。



グリム「フフフフフ、フハハハハハ……」


グリム「面白い。戦いにはすぐに飽きそうだが……強者を待つまでの暇つぶしにはちょうどいい。」



本人にはその気は全くなく、単純に戦いを楽しむつもりなのだが。

それが、戦場を地獄より酷い場所に変える狂気だという事に、未だこの世界の誰もが気がついてはいなかった。



グリム「ここは……最高の餌場ではないか!!!」


グリム「ハハハ……ハハハハハハハハハハ!!!」

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