第38話 如月慎の一日
能力紹介
『再構築・機械転生』
効果・斬りつけた機械を別の機械に組み替える
使用者・師走 九重
道具・スパナ
彼女が子供のころから愛用していたスパナ。子供の頃の夢はバリバリの技術者だったが、研究や開発は自己満足のためにしか行いたくなかったため、適当に教師になった。
起動後は持ち手の半分の所で分割され、それぞれに刃が現れ双剣となる。
組み替え前と組み替え後の質量さえ同じであればどんなものでも作れるため、冬使っていた暖房を夏には冷房にする、なんて芸当も可能である。
『機械』であればどんな物でも組み替えられるため、彼女とこの能力の前には、どんな電子ロックも意味を為さない。
九重「まるで私が犯罪者の様な言い方だな。」
これは失礼。
これは、とある男の、とある『ただの休日』の話である。
AM・5:00 起床。
彼が朝早く起きる事には、特に意味は無い。
ただ、なんとなく早く起きてしまうだけである。
慎「……走るか。」
なんとなく起きてなんとなく暇になった慎は、なんとなく早朝のランニングに出かける。
慎「ふっ、はっ、ふっ、」
「おっす、おはよう!」
慎「アンタか。」
慎がこの時間にランニングしていると、十中八九この声の主、里中に出くわす。
里中「今日もいいランニング日和だね。」
慎「そうだな。雨も槍も降ってないからな。」
里中「ちゃんと水分摂ってる?まだ夏本番って訳じゃないけど、ぶっ倒れないようにしないとね。」
慎「その点は問題ない。」
里中「そっか。じゃあいいんだけど。」
慎「もうすぐ分岐点じゃないのか?」
里中「あっ、ホントだ。じゃあ如月君、またね~。」
そうして30分ほど走った後は。
AM・6:00 慎の部屋・演習場
慎「……452……453……454……」
シャワーで汗を流し、その後演習場で村正の素振りに入る。
妖夢「精が出ますね。」
慎「来たか。」
休日の朝は、こうして妖夢も素振りに参加する。
実験に使用していない時間帯は何時でも使っていいと、慎が許可を出したのだ。
妖夢「……356……357……358……」
慎「……1048……1049……1050……」
そして素振りが終わった後は。
AM・6:30
慎「スェアッ!!!」
妖夢「このっ!!!」
慎「そこだっ!!!」
妖夢「てぇい!!!」
打ち合いである。
妖夢「ハァ……ハァ……相変わらず容赦ないですね……」
慎「そうか?俺は体ほぐし程度にやっているつもりだが。」
妖夢「っていうか、あの妖怪を封印してからなんか急に強くなってると言うか……」
慎「ふーん。まぁどちらにせよ、俺が強くなっているのであれば問題は無い。」
妖夢「そんなに強いなら、現代ならもう負けなしなんじゃないんですか?」
慎「負けはしないだろうな。だが、一つ言っておく。『強い者が勝つ』んじゃない。『勝った者が結果的に強い』んだ。」
妖夢「は、はぁ……。」
慎「さて、飯にするか。」
妖夢「はい。」
AM・8:30 弥生家・リビング
彩愛「今日は慎くんは、こないだの依頼人の人の家に行くんだよね。」
妖夢「子守……でしたっけ。」
魔理沙「慎が子守とか想像できないぜ。」
霊夢「絶対ないわね。」
この日は、文研部にやってきた依頼の一つである『子守』の日であった。
実質万屋となっている文研部には、それはそれは多種多様な依頼が舞い込んでくるのだ。
慎「言ってろ。そろそろ出るか。」
早苗「あ、それ私も行っていいですか?」
慎「ついてくるのか?」
早苗「はい!ちっちゃい子は好きなので!」
慎「……分かった。」
魔理沙「早苗は慎以上にだいじょばない気がするぜ。」
慎「なに、看るきゃならないガキが一人増えるだけだ。」
早苗「私は子供扱いですか……。」
AM・10:00 原校一般生徒自宅
ピンポーン
ガチャ
慎「よう。」
早苗「こんにちは。」
女子「ようこそ如月君、今日もよろしくね。」
慎が民家のチャイムを鳴らすと、この依頼の主、慎達と同級生の木戸脇木乃香が出迎える。
慎「いつも通り2時間でいいんだな。」
木乃香「ホント毎度毎度ごめんね。おばあちゃんを病院に連れて行ってあげないといけないから。」
早苗「任せてください!」
木乃香「あれ?今日は東風谷さんもいるんだ。」
慎「子供が好きなんだと。」
木乃香「そうなんだ。それじゃあ、よろしくね。」
早苗「はい!」
老婆「木乃香や……そろそろ行こうかぇ。」
木乃香「うん、行こう。それじゃあ二人とも、よろしく。」
慎「おう。報酬分の仕事はしといてやる。」
そして家に入っていく慎達と入れ替わるように、木乃香と老婆は病院に向けて出発する。
早苗「そういえば、木乃香さんのご両親は?」
慎「母親は外科医で病院に缶詰、父親は単身赴任だ。だというのに4年前に子供を産んでな。俺らが看るのはその幼児だ。」
早苗「へぇ~。」
慎「さてと……」
慎が今のドアを開けると。1人の幼児が、行儀よく座ってテレビを観ていた。
慎「よう大輝。元気か?」
幼児「ヽ(‘ ∇‘ )ノ」
早苗「大輝くんですか。こんにちは。」
幼児「∑(・o・;)」
木乃香の弟、木戸脇大輝。御年4歳。
慎「安心しろ。何かあったら俺が護る。」
大輝「ε-(´∀`*)」
早苗「……私、警戒されてます?」
慎「大輝は人見知りだからな。」
大輝「o(^◇^)o」
慎「よーしよし。行くぞ~?高い高ーい!」
大輝「O(≧▽≦)O」
早苗「表情豊かな子ですね。」
慎「だだあんま喋んねぇけどな。」
早苗「よし大輝君、今度はおねぇちゃんと遊びましょう!」
大輝「ε=(ノ^∇^)ノ」
早苗「まて~!」
慎「他人の家の中を走り回るなよ……」
AM・12:00 木戸脇亭
木乃香「ただいま~。」
慎「おう、帰ったか。」
大輝「ε=(ノ^∇^)ノ」
木乃香「おー大輝、ただいま。如月君たちも、お疲れさま。」
慎「それほどでも。ただ……」
早苗「これが、現代っ子の、パワー、恐るべし……。」
慎「一人振り回されまくって死にかけてるけどな。」
木乃香「あはは、東風谷さん、お疲れさま……」
早苗「あ、木乃香さん、お帰りなさ……い……ガクッ」
大輝「∑(・o・;)」
慎「安心しろ。生きてる。」
大輝「ε-(´∀`*)」
老婆「いつもすまないねぇ。」
慎「いえいえ。大事な同級生の頼みなんで。」
木乃香「よく言うよ。ま、その辺の保育施設よりよっぽど安いし、安心できるからいいんだけどね。」
慎「そういやあそこの保育園、土日はやってるけど別料金だったっけか。」
老婆「そんなことより、アンタ達もお昼一緒にどうかぇ?」
早苗「いいんですか?」
木乃香「そうだね。人数多い方が、なんか楽しいしね。」
慎「そうか。お前はどうしたい?」
早苗「私ですか?全然OKですよ!」
慎「そういうことらしい。てな訳で、ご馳走になろう。」
PM・13:30 ジュネス高天原店
早苗「ここってホントに何でも置いてるんですね~。」
木戸脇亭で昼食を摂った二人は、その後帰り道に買い物の為ジュネスに立ち寄った。
慎「まぁな。なんでも、今の社長は27にして、社長の座を実力でもぎ取ったらしいな。もとはバイトだとか。その頃から、品ぞろえが急に改善して、全国でえらいスピードで伸びていったんだよ。」
早苗「そうなんですか。」
慎「ま、手を出す幅がそこまで広くなかったせいか、最上や新島程は大きくならなかったがな。」
早苗「なんか勿体ない話ですね。」
慎「全てを望む、なんてのは空っぽの人間がすることだ。欲しいものが目に見えているヤツは、余計な物は欲しがらない。」
早苗「そういうものですか。」
慎「そういうものだ。」
早苗「あっ、これなんでしょう。」
早苗が、売り場にあった一つの絵本を指す。
慎「『ピンクのワニ』か。たしか、この絵本の原作者は自分が死んだ年ににこの話を書いた、とか言う噂があるな。」
早苗「懐かしいですね。年長さん位の頃、よく読んでもらっていました。」
慎「そうか。俺ぁよく覚えてねぇ。」
早苗「確か、なんだか悲しいお話だった気がします。」
「あっ、如月先輩、東風谷先輩。」
慎「なんだ?」
慎が聞き覚えのある声に振り向くと、そこには乾介がいた。
乾介「奇遇ですね。こんな所で合うなんて。」
早苗「こんにちは。買い物ですか?」
乾介「買い物っていうか、その……ティラノ君の修復のためのパーツを探してたんですけど、なかなか見つからなくて……」
慎「……それな、階2つ上だぞ。」
乾介「そうなんですか?道理で見当たらない訳だ、ありがとうございます!」
そして階段の方へ走っていく。
早苗「意外とおっちょこちょいな所もあるんですね。」
慎「流石に階2つ間違えるのは酷いがな。」
早苗「焦ってるんでしょうか。」
慎「さぁな。」
PM・14:00 高天原商店街
買い物を終えた慎達は、弥生亭への帰路についていた。
早苗「気付けば、私達がここで出会ってからもう1ヵ月経つんですね。」
慎「不知火に関する情報と言えば、鎧と仮面とローブ位だがな。」
早苗「いつになったら幻想郷に帰れるんでしょう……。」
慎「知るか。まぁ手っ取り早いのはその『八雲紫』って妖怪をとっちめる事だろうな。」
早苗「それが出来れば苦労しませんよ……。」
慎「そんなに強いのか?」
早苗「強いのもそうなんですが、それ以前に神出鬼没で……」
ドオオオオオオォォォン。
突然、慎達の目の前に、土煙と共に巨大な『何か』が現れる。
慎「……こんな感じか?」
早苗「……ここまで派手で大きくはないですけどね。」
土煙が晴れると、そこには現れた『何か』、もとい暴走体が姿を現す。
暴走体「ウオオオオオオオオオオアアアアアアアアァ!!!」
慎「さしずめブラウン管テレビってところか。このご時世でまだ使ってるやつもいたんだな。」
早苗「言ってる場合ですか!行きますよ!」
慎「元所有者も現れないし、破壊していいだろ。」
慎「次元干渉虚数方陣展開。転移。来い、『村正』。起動。」
慎が掌に魔方陣を出現させ、そこに現れる村正の鞘を抜き捨て、腰低く構える。
早苗「行きます!!!」
それに合わせ、早苗も空中から霊力の弾幕を浴びせる。
暴走体「グアアアアァアアアア!!!」
早苗「硬い……最近こんなのばっかですね。」
慎「第666拘束機関解放……次元干渉虚数方陣展開……」
早苗「慎さん?今何を解放って……」
慎「魔力変換機構始動……封神昇華、『覇龍』!!!」
そう叫ぶと、今までは蒼い龍のオーラを纏っていたものが、今度は黒い紫の龍となって現れる。
さらに慎の腕にも赤い魔方陣が現れる。
早苗「これは……?」
慎「拘束機関に蓄積された魔力を活用しようとしたらこうなった。さて……」
慎「お前には実験台になってもらう。実戦でこれを撃つのは初めてだ。」
暴走体「ゴアアアアアアアアァ!!!」
慎「魔狼……龍覇・咆焔塵!」
そして慎が目の前を縦に切り払うと、それに追従して龍のオーラも紫と黒のブレスを吐き出す。
それは以前新島を潰したときとは段違いに威力を上げており、それに飲み込まれた暴走体も悲鳴を上げる暇もなく塵と化した。
暴走体「 」
早苗「なんだかこうもあっけないと、かわいそうになってきますね。」
慎「ふぅ……機関収束。大分扱いにも慣れてきたな。」
早苗「ところで、本当に持ち主を探さなくていいんですか?」
慎「塵も残ってないしな。そんな面倒なことはやってられない。帰るぞ。」
早苗「はい。」
PM・14:00 弥生亭
慎「帰ったぞ。」
早苗「ただいまー。」
彩愛「お帰り、慎くん、早苗ちゃん。」
見知らぬメイド「お帰りなさいませ、ご主人様。」
早苗「って、紅魔館のメイド!?」
慎「……メイドを雇った憶えは無いのだが?」
見知らぬメイド「本日より、この家にてお手伝いをさせていただきます、十六夜咲夜と申します。」
――『ただの休日』であることを、願っていた。




