第23話 理想と道しるべ
霊夢達が科学部の部室にいるころ。
慎side
高天原学園付属御神楽総合病院・病室
彩愛「はいこれ。」
慎「ご苦労。」
彩愛「それで、一体何なの?それ。」
俺は昨日、彩愛にある『頼み事』をした。
その『頼み事』とは、『俺の研究室のコンピューターに、アルファベット・数字・ひらがな・カタカナによる20桁のコードを打ち込んでもらう』というものだった。
そうすることで、コンピューターとリンクしている工房のマシンが勝手に稼働し、『あるもの』を生成する。
その『あるもの』を俺のところまで持ってきてもらう、そういう頼み事だ。
慎「ただの回復薬だ。」
彩愛「ホントに?」
慎「ああ。」
事実、嘘は言って無い。
この包装の中に入っている薬品は、『超回復薬』。効果は、服用者の怪我の回復速度を加速させる。
今の俺の怪我程度ならば、回復には3日もかからんだろう。
俺の主治医である平賀慶介の話では、全治3か月なんて気の遠くなるようなことをほざいていたからな。あのバケモノにきっちりお返しするためにも、出来るだけ早く治さなければならない。
まあ、こんだけ急速に治療を加速させる……細胞の分裂スピードをえげつないほど上げるには、相当のリスクがあるわけで。
九重のデータベースから勝手にデータだけ盗んで、これが初めての生成でもある。副作用は確実に出るだろうが、そんなものは後でどうにかすればいい。
だから、『全部』は教えない。色々と面倒なことが起きかねないからだ。
しかし、『回復薬』なんて見せたことも教えたことも、ましてや市販すらされていないのに、なぜ『回復薬』と言われて納得できるのだろう。
彩愛「乾介くんは、明日退院だっけ。」
乾介「はい。僕は軽傷で、今日は検査入院ですから。」
彩愛「そっか。」
慎「霊夢達はどうしてる?」
彩愛「今日は師走先生の所に行くって言ってた。」
乾介「昨日のことですね。」
彩愛「うん。」
確かあのバケモノは、『ココノエ』『ケンジ』『アカネ』を探していた。『ココノエ』は師走九重だとして、後の二人について、後はあの不知火とか言う化け物2号についても調べなくては。
寝ている場合ではない。一刻も早く動けるようにならねばな。
同日・深夜 病室
乾介「……あの、ありががとうございました、助けてくれて。」
慎「何のことだ?」
隣のベッドで寝ている寺島が話しかけてくる。
乾介「昨日のことです。先輩が来てくれなかったら、僕も、ティラノ君だって、今頃どうなっていたか……」
慎「感謝するならば、お前の母親にするんだな。お前の危機を俺に伝えたのは、彼女だからな。」
乾介「……先輩は、何で戦っているんですか?」
慎「何で、とは?」
乾介「文研部は、依頼の他にも、街に出没した暴走体の一部を倒してるんですよね。凄いことですけど、どうしてかな、って。」
慎「只の暇つぶしだ。」
乾介「……暇つぶし、ですか。」
乾介「じゃあ、依頼の方は?」
慎「それも、暇つぶしだ。」
乾介「……。」
慎「俺が正義のヒーローにでも見えてたのか?」
乾介「……はい。」
慎「俺は別に、『皆の為』とか、『世界平和』とか、そんなものはどうでもいい。『正義』も『悪』も、興味ない。」
慎「暇だから、その暇を潰す為に、暇つぶしを集めている。ただそれだけだ。」
乾介「……。」
乾介「じゃあ先輩は、どうしてそんなに強いんですか?」
慎「……俺は、強くない。寧ろ、弱い。」
乾介「え、でもこないだの空手部の先輩の時は……」
慎「『強さ』と『勝敗』は関係ない。」
乾介「……そうですか。」
慎「まぁ、『なぜ負けないか』と訊かれれば……」
慎「『生きる為に負けられない』と言ったところか。」
乾介「……生きる為、ですか。」
慎「今日はもう寝ろ、小学生。」
乾介「はい、おやすみなさい。」
慎「おう、お休み。」
同時刻。
ここは、『○○県警』。名前の通り、○○県の警察本部である。
今更ではあるが、○○県とは伏字でも手抜きでもなんでもなく、『○○県』という名の立派な一つの県である。
もう一度記そう。決して手抜きではない。
さて、この○○県警には、数年前から、他の警察には無い部署が存在する。
それが、『能力犯罪対策課』である。
実は、暴走体という存在が発生する地域はかなり限られていて、他の地域にはあまり出没しない。あまり、というか全く。
暴走体が他の地域に存在しないという事は、当然能力が使える能力者もいない訳で。
その能力者による犯罪を捜査し、逮捕するための特別組織。それが、『能力犯罪対策課』通称『DK』である。
しかしこの能力犯罪対策課、今現在今にも匙を投げだしたい事件があった。
それが、ここ最近の連続殺人。
これまで11人の被害者がいるものの、犯人につながる証拠やら手掛かりやらを何一つ掴めていない。
分かっていることは以下の通り。
・被害者の死因は全て撲殺
・被害者の遺体は、骨折している部位の骨が全て砕かれ、かつそれぞれの骨全てに均等に力が加わっている
・よって普通の人間の技能や力では不可能
・そして他に事件に関与している人間がおらず、監視カメラもなぜか事件直前に壊れている
・さらに窃盗や置手紙等もなし
つまり、犯人についてはさっぱりなのだ。
実際はグリムという人間でも暴走体でもなさそうな存在が犯人なのだが、そんなことは知る由もない。
そんな完全手詰まりのDKに、警視庁から派遣された人間が2人。いや、3人。
水色の髪の女性「荒垣さん、里中さん、これ、資料や。」
大柄なコートの男「おう。」
茶髪ショートの女性「ありがとー。」
完全にやる気と活力を失った周囲に反して、捜査を進めるその3人。
水色の髪の女性「しっかし11人かぁ。それを証拠を残さんようやるって、もう人間業じゃないなぁ。」
見た目は女性。しかしその実はロボット。
8年程前まで世界トップシェアだった、『桐条グループ』。その桐条グループが、さらにその10数年前に作り出した、言わばアンドロイド。
水色の髪の、まるで機械とは思えないほど人間臭い女性。その名を、ラビリスという。
茶髪ショートの女性「しかも物も取らずにただ殺す、ってのがよく分かんないよねー。愉快犯にしては手が込んでるし。」
田舎町出身。好物:肉。趣味:カンフー映画。
肉好きではあるが、なんとカンフーの自主トレも行っているため、スタイルはかなりいい(なお胸囲は標準)。
高卒で採用試験に合格し、今年で警察9年目。その名は、里中千枝。
大柄なコートの男「そうだな。これがもし警察相手にケンカを売って来てるとしたら、相手は相当大きな組織かもしれないな。」
一見かなり怖そうに見えるが、それは元々目つきが悪いだけで。
本当は不器用なだけで、凄く優しくて、面倒見がいい。時々厳しい。そして彼の作る料理は絶品。まさにオカン。
なぜか彼の周りには動物が集まる。そんな彼の名は、荒垣真次郎。
里中「そうですよねー。監視カメラも犯行直前に壊してる辺り、やっぱ集団ですよねー。」
ラビリス「でもこの辺りに犯罪組織ってありましたっけ?」
荒垣「事前の情報には無かったな。」
里中「ここ最近になってそういう組織が誕生したにしても、初動の捜査で可能性は否定されてますしね。」
ラビリス「まぁ、どのみち0からやな。次の被害者が出る前に、早いとこ手ぇ打たんと。」
Prrrrrrr
モブ刑事「荒垣警部、お電話が……」
荒垣「お、そうか。悪ぃ、ちっと外す。」
里中「はいはーい。」
荒垣「手掛かりが増えたぞ。」
ラビリス「さっきの電話?」
荒垣「ああ。さっきの電話、知り合いで、この街で医者をやってるんだがな。」
荒垣「その医者の担当している怪我人の怪我の状態が、以前捜査の協力のために渡された資料と類似する部分があるらしい。」
里中「『砕かれた全ての骨に均等に力が入っていた』ってヤツっすね。」
荒垣「ああ。だから明日、その怪我人に話を聞きに行く。」
里中「了解ッ!」
ラビリス「了解や。」




