第10話 交渉『成功』
能力紹介
『影踏み』
効果・自身を影と同化する。 使用者・不明
『村正』が記録している能力の一つ。過去に慎が観測たものと思われる。
オリジナルの使用者及び道具は不明。
翌日、放課後。
慎は、とあるビルの前に来ていた。
『新島ジェネレーション本社ビル』。要は新島グループ会長の城である。
何故慎がここにいるかというと。それは、昨日得た情報をより深く探るためである。
会長がわざわざ『蛇』に依頼した、『一ノ瀬宮の捕縛依頼』。その理由を突き止めるため。
彼は出勤中の重役から拝借したIDカードで、中に入った。
会長室の扉の前。
コンコンコン、と三回ノックする。
「入りたまえ。」
扉を開ける。
中には、スーツを着た男が、椅子に腰かけていた。
新島グループ会長、新島武久。
「……ここは貴様のような子供が来るような場所ではない。今すぐ帰りたまえ。」
「皐月家への依頼主はお前だな。」
「礼節も知らんガキに話すことなどない。」
「なぜ一ノ瀬を狙う?」
「……どこで知った?」
「客に茶の一杯も出せない社会人に話すことなどない。」
「ほう……。」
新島は内線で来客用の茶を用意するよう事務に伝え、ソファに腰掛ける。
その正面のソファに慎も座る。
「さて、君は何者なのかな。」
「俺は如月慎。その辺の高校生だ。」
新島の表情に、驚きの色が現れる。
「ほう、如月ねぇ。それって、あの如月?」
「どの如月?」
「ほら、7年前に夫婦そろって突然死んじゃったって言う。」
「多分、俺はその夫婦の息子だろうな。」
「それで、一人ぼっちの如月家の当主様が、こんな所に何の用かな。」
「人探しのヒントが欲しい。」
「ほう。」
「"最上悠理"について。」
「流石如月家だ。もうそこまで掴んでいるとはね。」
新島は感心するような表情でうなずく。
よくも高校生がここまで至った。
当然だが、見下していた。
「"そこまで"とは"どこ"まで?」
「誤魔化さなくてもいい。どうせ意味がないだろうし、答え合わせといこうか。」
「最上ホールディングスの社長の一人娘、最上悠理は、私達の手元に在る。」
「最初は社長にお願いがあってね。色々と交渉していたのだが」
「相手も機嫌が悪いのか、中々首を縦に振ってくれなくてね。」
「どうしたもんかと考え、娘を使うことにした。」
「それでもあの頑固おやじは交渉を飲まなかった。」
「交渉の重要なカードである彼女を簡単に殺す訳にもいかなくてね。それで、次の策を思いついた。」
「我々との交渉のメリットを彼女に理解してもらい、彼女自身に、あの頑固おやじに交渉を飲むよう説得してもらおうと思ったのだよ。」
「だが、彼女はそれを拒否した。『そのようなことをしてお父さまの会社を潰すようなら死んでやりますぅ』とね。」
「妻が既に死んでいる以上、彼女以外に手段が無くてね。それで、彼女に手伝ってもらうために、彼女のお友達に協力を頼もうと思ったんだ。」
「双方をそれぞれに対しての人質にしてしまえば、断られることは無いからね。」
粗方慎の想定通りの回答だった。
そして、ここで立ち回りを間違えると悠理の安否に影響する。
慎の戦いは、今始まった。
「ところで、君は蛇の出所について訊いてきたね。」
「そうだな。」
「蛇の存在には、どうやってたどり着いたのかな。」
「俺にとっちゃ、あんなもの隠密行動の中に入らん。」
「すると、彼らと接触し、生きて離脱できたと。」
「そうなるな。まあ、『俺が離脱した』というよりかは『蛇がくたばった』が正しいか。」
「……ほう。あの蛇を打ち倒したと。なるほどなるほど。」
新島は何か満足そうに笑っている。大体何考えてるか想像できたけど。
「唐突ですまないが、私を手伝ってくれる気はないかね?」
「要は依頼か。で、メリットと報酬は?」
「メリットは……そうだな。この依頼を達成すれば、我が新島グループへの就職を保障しよう。この就職難の時代だ。悪くないだろう。」
慎はこの瞬間、勝利を確信した。
後は、傲慢な天狗の鼻を折るだけ。
「……それで、内容は?」
「一ノ瀬宮を、指定の場所まで連れて来てくれ。来るときは『二人で』だ。」
「『二人で』ねぇ。一応訊くが、連れてくるにあたって『人型のもの』を使おうと思っているが、それは『一人』にカウントするか?」
「判断は任意に任せるが、そのようなこと、訊く必要があったかな?」
「三人目と間違われて契約破棄、なんてのは勿体ないからな。」
「なるほど。まあ、"確実に成功する未来"が賭かっている。確認はじっくりしないとな。」
そんなものはどうでもよかった。
ただ、"契約を結んだこと"という事実。
欲しかったのは、それだけ。
「わかった。なら、明日より行動を開始しよう。こういうのはちゃっちゃと済ますに限る。」
「実行の期限については、近日中であれば日付は問わない。それと、くれぐれも他言無用で頼むよ。」
そういうと、新島は立ち上がり、握手を求めてくる。
慎も立ち上がり、握手に応じる。手の平に紙の感触を感じる。
その紙を受け取り、慎は無言で部屋を出た。
大きな成果を携え。
慎は文研部の部室へ向かった。
時は少しさかのぼり。
放課後になり、霊夢達は昨日慎に教わった部屋に向かった。
文研部の活動は基本、学校がある日に部室に集まる程度である。
「こんにちは。あれ、今日は如月先輩、いらっしゃらないんですか?」
「ああ、今日は遅れてくると聞いている。理由は恐らく、昨日見つけたであろう手掛かりの追及とかだろう。」
「そうね。それで、私達から慎に、報告を頼まれてることがあるんだけど。」
「ほう。では、早速お願いしよう。」
「分かったわ。」
「蛇が動くとはね……女子高校生一人拉致るのにそんな連中引っ張り出すとは。」
報告の共有ののち。
天音が呆れたように言い捨てる。
「その悠理って子、空手部らしいじゃん。一回返り討ちにでもあったんじゃね?」
「それで、どうするんだ?やっぱそのニイジマって所に突っ込むのか?」
「その必要はないと思う。多分、今慎くんが向かってると思うから。」
「よく分かりますね。」
「まあ、結構長いこと一緒に暮らしてるからね。」
「とりあえず、今は慎からの報告を待つってことで。」
会議が終わり、しばらく雑談を繰り広げる最、扉が開く。
「よう。」
慎が来た。つまりは、"本題"を始められる、ということ。
「話は霊夢達から聞いている。それで、新島の所へ行ってきたのか?」
「ああ。まあビンゴだったよ。」
栞里に返答しつつ、チョークで黒板に書きだす慎。
彼の説明を交えながら、最上と一ノ瀬の関係、そして彼女の誘拐の事実。
最上との契約について、すべてを詳らかに。
「それで、宮ちゃんは連れていくの?」
「ああ。最上を救出するには、多分それしかない。」
「それって危険じゃないのか?」
「そうはいうが、まあ契約してしまったものは仕方がない。」
「二人で行くのか?」
「いや?相手は表も裏も大企業だ。流石に誰かを護りながら大人数相手に救出劇なんて無理だ。いつも通り全員……
いや、寺島以外全員で出向く。」
「でもそれって、契約違反になるんじゃ……」
「そこは問題ない。もとより守るつもりもないからな。」
「?」
乾介の疑問に、慎が答える。
純粋な乾介には、その真意は伝わらない。
「そういえば、天音って戦えるの?」
「まあ私は教師だが、能力は持っている。戦えるぞ。」
「むしろこの部で能力持ってないのって、私と勇太くんだけなんだよね。」
「……。」
申し訳なさそうに佇む彩愛と勇太。
勇太はさらに、悔しげな顔で拳を握りしめる。
「悠理さんの救出にはいつ向かうんですか?」
「次の休日。明日、一ノ瀬にも声をかける。」
「この事全部説明するのか?」
「かいつまんでざっくりとな。」
「よし、各自準備を怠らないように。」
「あの……」
「どうした?」
「僕は、戦わせてもらえないんですか?」
「お前は戦い方を知らない。」
「でも、僕だって今はもうティラノ君が……」
「『力がある』ことと『力を扱える』ことは全く別のことだ。浮かれるな。」
「……分かりました。」
「よし、今日は解散だ。」
パンと手を叩き、解散の号令を出す栞里。
それぞれが手荷物を整理し、帰宅していく。
戦いの準備。
それだけは、幻想も現代も変わらない。
平和な解決は望まれないのか。
慎が望んでいないだけなのか。
霊夢は、それがほんの少しだけ気になった。
どうも、観測者Sです。今回も読んでいただき、ありがとうございます。
今回から、能力の紹介は前書きでやることにしました。
それと、投稿のペースについて。
今までは一日一話のペースで投稿していました。こんなに飛ばした結果、詰まりました。
これからは、不定期に投稿していこうとおもいます。
さて今回。作戦会議でした。それと、『如月』の名字が意味深に出てきました。
慎くん、何者なんでしょうか。書いてて怖いです。まあ全部しってますけど。
それでは、次回もお楽しみに。




