学園生活のはじまり
ファンタジーが好きです。熱いバトルも好きです。
それ以上に、ぶっ飛んだギャグが好きです。
校則 挨拶は欠かさないこと
私立ファンタジア高校。ここは世界から隔離された、もう一つの世界。
剣や魔法の腕を磨くために、選ばれた勇者候補生達が集う学校。
トーマは、新入生としてその門をくぐった。
「おはよう、確か・・・新入生のトーマくんだね。君は学校創立から初めてのチキュウ人だよ。早くお友達が出来るといいね」
昇降口の前で、耳のとがった先生が名簿とトーマの顔を交互に見て、何枚かの書類と、ピカピカの未確認金属で出来た生徒手帳を渡してくれる。
「有難うございます」
トーマが頭を下げると、先生は驚いた顔をして、それから微笑んで頷いた。
「礼儀正しいね。でもそれはやらない方がいいよ。ここには頭のてっぺんを相手に向けるのは威嚇とみなす種族も通っているからね」
「え、それじゃどうしたら・・・」
先生は、ポケットからメモを取り出しペラペラと捲る。そしてあるページを広げた。
「無難な挨拶を練習してみようか」
トーマは即答で頷いた。
「まず、足を肩幅に開き」
「はい」
「両手で頭のてっぺんを押さえ」
「は、はい・・・」
「その姿勢で十メートル飛び上がる」
「出来るか!!」
トーマは、初日にして異文化の壁の厚さを体で感じた。
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校則 無闇な争いは避ける
「あ、似た種族はっけーん!!」
突然聞こえた声に振り返ったトーマの胸に、何かが高速タックルをかましてきた。
「ぶっふ!?」
軽く3メートルはぶっ飛ばされ、危うくモツが出そうになったが、何とか我慢して起き上がる。尻尾の生えた、同じ年頃の少年が、トーマにしっかりとしがみ付いていた。
「何だいきなりお前は・・・」
「ボクも新入生なんだ」
そいつの頭を掴み、無理やり引き離そうとしたトーマの手が止まる。
「エへへ、色んな見た目の中に同じような種族を見つけたから嬉しくなっちゃって」
知り合いなんてもの居ないに等しいこの学校に入学して、心細かったのだろう。そう思い、トーマはタックルの件を水に流してやることにした。
「俺はトーマ。お前は?」
「ボクはエッジさん。宜しくネ」
憎めない笑顔で、エッジが手を差し出す。トーマはその手を握り返した。
怒らないところを見ると、握手で正解らしい。
「宜しく。次から挨拶はもう少しお手柔らかに頼む」
「挨拶?」
トーマの言葉に、エッジは不思議そうな顔をした。
「さっきのタックル」
「あ~、アレは攻撃ダヨ」
「初対面で攻撃すんな!!」
トーマの拳が、エッジを吹っ飛ばした。
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校則 関係者以外の立入を禁ず
何とか和解を果たしたトーマ達が廊下を歩いていると、行く手で文字通り美女と野獣が話し合っていた。
「教頭、もう校庭に駐留スペースがありません。今年は大型での送迎が多すぎます」
美女が、誘導灯を握り締めて野獣に迫る。
「ううむ・・・仕方ない。山の学校側を空けて、そこに駐留して貰うか」
野獣はひとしきり唸ったあと、苦渋の決断を下した。
「リトアラ先生、大至急で山の清掃をお願いします」
「分かりました」
野獣に頷き返し、美女は口笛を吹いた。と、途端に風が巻き起こる。
バサッ、バサッという重い羽音と共に、窓の外に現れたのは・・・
「竜、だ・・・」
トーマは思わず、感激して呟いた。
美女はヒラリと竜に跨り、掛け声をかける。
竜は再び空へと舞い上がり、校庭を縦断してその奥に見える山の上へ。
そして、業火を吹いた。
「は・・・?」
あっという間に平らになった山の上、竜に跨った美女は拡声器で叫ぶ。
「保護者の皆さん、此方も駐竜スペースになりまーす!!」
何十頭もの竜が飛んで行く光景を、トーマは呆然と見送った。
そして悟る。此処では常識は通用しない。
異文化の壁は、果てしなく高い。
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校則 始業前に席に着く
「おはよう。あなた達が二番乗りよ」
窓際に立っていた少女は、教室に入って来たトーマ達を見て微笑んだ。
「私はユリン。多分あなた達のクラスメイト」
静かな声で名乗るユリン。
「俺はトーマ」
「ボクはエッジだよ、ヨロスク」
二人も順番に名乗り、空いている席に並んで座った。
「今年は20人が勇者学科に入ったらしいわよ」
「へぇ、今年は多いんダネ」
ユリンの言葉に、エッジが感心して頷く。20人で多いとは、凄まじい倍率だ。
トーマは自分の強運ぷりに改めて感動した。
「私ね、実技は得意だけど勉強の方が駄目なの。分からない事があったら教えてくれないかしら」
机の上に、トーマの見たことのない道具を並べながら、ユリンが首を傾げて問うてくる。
「ああ。俺は数学と物理なら得意だし、他もそこそこ出来ると思う。何が苦手なんだ?」
黒い表紙の分厚い本を抱え、ユリンは真顔で言った。
「黒魔術と呪い」
ちっとも教えられる気はしない。というか、学校で教わる教科な気がしない。
途方にくれたトーマの横で、エッジが手を上げた。
「それならボク得意!!」
トーマは、こいつだけは敵に回すまいと固く心に誓った。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました!