四十二話
題名変えました。
アスクさんから頂いた案を少し弄らせて貰いました。ありがとうございます。
しばらくはカッコつけて、旧題をつけたままにします。
期末テストは色々な意味で終わりました。はい。終わりました。
でわでわ、物語スタート!
周りの温度が下がったような気がした。いや、気のせいではなく、事実下がったのだろう。
原因としては1つしか思い当たらないわけだが。まあ、先ほどの発言だろう。彼女の琴線にでも触れてしまったのか、ずっと冷めた目で睨むようにして見てくる。
「そう怖い顔するなって。別に脅そうって考えているわけでもないし」
ふぁ、と欠伸を漏らしながらそう言ってもミリオナはおろか、レナとミオまで警戒心が高まったままだ。
おそらく、下手に動くけばすぐにでも反応して攻撃してくるだろう。
でもなぁ……早いとこ聞くこと聞かないとメルが起きたら目によってすぐに出てきちゃうからな。あれぐらい視るなんて容易いことだろう。
「そういやさ、なんで最初に会った時にミリオナは警戒されたの?」
思い返してみるとふと疑問に思い、流れをぶった切って聞いてみた。もともと流れも何もないと思うけど。
「メルリーナ・イストワール、14歳、157cm、49kg。第2王女。彼女が持つスキルに真実の瞳があるよね? それで何か見えた……いや、視えたんじゃない?」
クスクスと笑いながら答えてくれるが、目は俺を捉えて離していない。
側からだとミリオナは余裕があるように見えるかもしれないが、そんなことはない。
俺からしたら小動物が震えているようにしか見えない。
彼女のステータスを視たのだが、メルと同じユニークスキル、真実の瞳を持っていた。このことからメルだけでなくレイナ、ミーニャとステータスを視たことだろう。そして当然俺のことも視たと思うのだが、ユニークスキルですら見破れないほどの隠蔽を使っている俺を警戒しないわけがない。
そのため、どこかで隙を見せたら終わりだと考えて余裕があるように振る舞っていると思うのだが、逆効果でしかない。
完全に割り切れていないため、普通の人や少し出来るぐらいの人なら騙せると思うが、勘のいい人やそれなりに人を見る目がある人には通じない。
ましてや俺相手に騙せるわけもない。
「すごいね、ミリオナは。ユニークが3つもあるだなんて」
「……っ!?」
それだけで動揺が顔に出ている。
いままで格下しか相手にしてこなかったのだろう。自身より上の相手と戦う技量がない。
「そう構えるな。俺はこの国を制圧しようとか考えてない。ってか興味ない」
「……それを信じろって?」
「確かに、こちらの手の内を明かさないでそちらばかりバラされていたら信じられないよな。……なら、どうしたら信じてもらえるかな?」
「それじゃ、いくつか質問するから答えて」
「まあ、それで納得するなら安いもんだね」
でも、意味ないと思う。
真実の瞳がどこまで範囲を及ぼすか分からないけれど、仮に質問に対する答えが本当か否か分かる。もしくはそれ以上に、本当の答えまで視ることができるとしても。
――思考や感情までコントロールできる相手には通じない。
それに、嘘をつかない。けれど、本当のことを言わないとしてもそれは通用するのかどうか。
後は考えの違い、とか。
元いた世界で言うと、どこからがイジメなのか、と似ている。
やってる人たちから見たら喜んでいるように見えるかもしれないが、やられている人からしてみれば苦痛でしかない。といったことがよくある。
結局のところ、どうでもいい。
「それじゃまず、どこから来た?」
「城……かな? 国の名前とか知らない」
レナとミオが俺の後ろに立っているのは、いまだに警戒しているからなのだろうか。
首にはまだ、奴隷の首輪がつけられているから、命令すれば……いや。止めといたほうがいいだろうな。
理由としては2つある。
まず、そんなことをしたらさらに警戒心を高めてモフモフする夢が遠のくことだ。
もう1つの理由としては、おそらくこの隷属の首輪を作ったのがミリオナだと思ったからだ。
ただの推測でしかないし、確証はないがたぶん当たっていると思う。だからもし奴隷としての力を無力化されていたならば、せっかくのチャンスを不意にしてしまう。
だけど、止めとく理由の一番はモフモフする夢が遠のくことだ。これだけは譲れない。むしろそれ以外に理由なんていない。
「次だ。何のためにこの国へ来た」
「…………ため」
「ん? なんだって?」
「モフモフ……するため。それ以外に目的なんてない」
なんか、こうやって真っ直ぐ聞かれると答えるのが恥ずかしくなってくる。
ミリオナは俺が言っていることが嘘じゃないと分かったけれど理解できないのか、言葉を失っている。そして唖然としたまま俺の顔を見てくるんだけれど……。そんなに変だったか? ただ愛でる為だけに来ただなんて。
次の質問がくるまでまだかかるだろうな。
レナとミオがホムンクルスだったということに少し思考をおくか。
まあ世界は広いのだし、異世界にも天才がいるのは分かっていたけれど……。まさかホムンクルス作っちゃうとは。
これまた確証はなく、なんとなくだけれど、作ったのはこの2人だけだと思う。
そして2人は同じ日に造られている。
出来ることを知っていたのか。はたまた何かしらの実験の拍子にたまたま出来たのか。おそらく後者でホムンクルスについてほぼ無知と言っていいだろうな。
――そろそろ壊れることに気づいていない。
「質問の続きだが……」
「ん、なに?」
「……ユエはこれが何か分かるか?」
そう言ってミリオナが見せてきたのは――。
☆☆☆
「ここ……は?」
「ん、んぅ……?」
レイナとミーニャが目を覚ます。
目を擦りながら緩慢な動作で上体を起こすミーニャに、すぐさま眠気を飛ばし、油断なく現状を把握しようと周りを見回しながら上体を起こすレイナとでは積んできた経験が違うのは、見る人が見れば分かるほどだ。
「……布団が4つ?」
「月さんの……ですかね? ……月さんのです」
ミーニャが誰も寝ていない布団に顔を近づけ、匂いを嗅ぎ、誰が寝ていたのかを特定する。
「だいぶ温もりが無いですが、少しだけ暖かいです」
「1時間くらいでしょう。ですが、相手が月様では1時間は致命的です。どこにいるのか……。メル、そろそろ起きなさい」
「…………」
相手が月様であれば、どうしようもありませんね。と呟きながら、レイナはまだ寝ているメルに声をかけながら揺すり、起こそうとする。が、目を覚ます素振りを見せない。
「……月様に置いていかれますよ?」
「置いて……かれる……?」
少し考えたレイナはメルの耳元に口を寄せ、あまり使いたくない方法を使う。
――月に置いていかれる。
これはメルの中でトラウマとなっており、そのことにレイナは気がついていた。そのため、そのことに触れるとすぐにスイッチが入ってしまい、手がつけられなくなる。
だからレイナはあまり使いたくない方法なのだが、今回の場合は自然と目が覚めたとしても月がいないことにすぐ気がつき、置いていかれたと理解するまでにそう時間はかからない。早いか遅いかの違いだけであったため、踏み切った。
「月、様……どこ?」
目を覚ました時点でメルの焦点はあっておらず、手を伸ばして何かを掴むような仕草をしている。
「…………」
「「…………?」」
その様子を見ていたレイナとではミーニャだが、メルの動きが止まったので顔を見合わせて首をかしげる。
「……ふ、ふふっ。いけないんだぁ~、約束破ったらぁ~」
なんの脈絡もなしに笑い始めたメルは、軟体動物のような柔らかい動きで上体を起こすが、いまの状態と合わさって恐怖しか生み出さない。
「め、メル。月様がどこに行ったか分かりますか……?」
レイナですらいまのメルにはあまり関わりたくないと思っているほど。ミーニャはレイナの背に怯えるように隠れている。
「ふふっ、愚問だよレイナ。私が月様のことを視られないとでも思ってるのかな?」
立ち上がったメルの姿勢はいつもと程遠いものだった。
肩に力は入っておらず、腕をだらんとぶら下げており、猫背で重心はやや前に傾き、少しうつむき気味な頭により、前髪で表情が隠れて下から覗き込まない限り見えない状態でいる。
「2人とも、コッチだよ」
右に左にと重心を傾けながら歩く姿はゾンビのよう。
襖に近づいていき、それを開ける。
メルが選んだ襖は月が選んだものと同じであった。
その後、(ゆえ)月と同じ回数襖を開けると四隅に例の物が置かれている部屋へとたどり着く。
「コレを同時に4つ壊すの」
レイナたちがちゃんとついてきていることを確認したメルはファイアーボールを4つ飛ばし、同時に壊す。
「月様! あれ? …………月、様?」
月と同じようにおっさんに案内された部屋へと戻るが、メルたちはそこで見た光景が信じられなかった。
「やはり、真実の瞳で視ることによって簡単だったか。ねぇ、ユエ」
「…………」
ミリオナの膝には月が収まるように座っており、何も言わずに目を閉じ、黙って頭を撫でられている。
「月様に何をしたの? 答えによっては許さないよ? ってか、もう許す気なんてないし」
「何をした、とは心外だな。何もしていないよ」
メルに睨まれて冷や汗が頰を流れるのを感じながらもミリオナは月の頭を撫でる手を止めないまま答える。
「月様」
「……俺はミリオナにつくよ」
レイナの呼びかけに前髪を弄りながら答える。
何かに気づいたレイナだったが、それをメルに伝えるようとしたが既に遅く、手に剣を持ち、ミリオナへと飛び掛っていた。
「月様っ!?」
「ダメだよ、ミリオナを傷つけたら」
メルの攻撃を受け止めたのは月だった。
ミリオナを守るように前に立ち、氷で作った剣でメルの剣を受け止めている。
そして驚き固まったところで剣を弾き、メルの腹を蹴り飛ばす。
「ぅ、ぐっ!」
「大丈夫?」
飛ばされたメルが壁にぶつかるところを間にミーニャが入り、受け止めることによって阻止する。
「辛いと思うけれど、頑張ってね」
ミリオナが懐から5センチほどの大きさをしたクリスタルを3つ取り出し、それをメルたちに向けて投げる。
当然、それを避けようとするが足が動かない。
「ゆ、月様?」
「ど、どうして……」
「…………」
月によって足場を凍らされたことに気づいたメルとミーニャは絶望の淵に立たれたような顔をしていたが、レイナだけが優しく、慈愛に満ちた目で月を見ていた。
そして3人はミリオナが投げたクリスタルに当たり――姿が消えた。
「……気にくわない」
邪魔者だと言うメルたちを消したというのに、忌々しげに消えた場所をずっと睨むようにして見るミリオナ。
だが、すぐに頭を振って切り替え、月を近くに呼ぶ。
「もう、ユエは妾のもの。妾しか考えられないようにしてあげるから」
月の頰に手を添えたミリオナは、そのまま自身の唇を月の唇に押し付ける。
ついでに今日、少し編集して主人育成日記を載せようと思います。
ってことでまた次回〜