三十一話
あれだ
二、三話で終わらせて学園に行った勇者のことを書くとか言ったが、アレは嘘だ
ってか、いま書いているこれって回想なんだよね…それが終わってすらいないのに学園の方に飛んだらブッとんでるよね
ってことで、二章に学園に行った勇者は出て来ず、三章か……もしくは、四章か
そんなことはさておき、物語スタート!
体を揺さぶられている。
もっとこのまま寝ていたいが、起きるまで止められそうにないので、仕方なく目を開けると目の前すぐそこに、メルの顔があった。目は閉じており、唇をんっ、と突き出して今もなお近づいてきて――。
「んっ」
――そのまま俺とメルの唇がくっつく。
そしてメルは舌を出し、丁寧に俺の上唇と下唇をなぞるようにして舐める。
一通り舐め終えるとメルは一度離れ、ここでようやく目を開ける。当然、目を開けている俺と目が合うわけで……。
はじめは頬を朱に染めて恍惚とした表情を浮かべていたが、次第に俺が起きているのを脳が理解し始めたのか、先ほどとは違った意味で顔全体を真っ赤にし、そのまま俯いてしまう。
ここでようやく、現状を把握しようと周りを見回す。
受付があって、受付嬢がいて、武器を持った男や女がいて、首輪をつけた人や耳を生やした……獣人? などもいる。
俺は多数あるテーブルとイスの中の隅に座っており、メルは向かい合うようにして俺の膝に座っている。
「…………ああ、冒険者ギルドか」
そこでようやく、ここがどこなのかを理解した。
そのまま窓の外を見てみると、空はオレンジ色に染まり、日が沈みかけていた。……窓? この世界にガラスなんてあったのか。でも、いったいどうやって? 魔法があるから色々と応用は効くと思うけど、こういったのって固定概念があるから天才……以上の天才ぐらいにならないと考え付かないと思うし、なによ――。
「月様」
途中から思考が逸れて深く考え込んでいくところでタイミングよく名前を呼ばれ、思考の海に沈まなかった。
「あ、レイナたち。どこ行ってたん?」
「以来の達成と、ゴブリンの大群についての報告をしていました。それで……月様は何をしているのですか?」
はじめは柔らかく答えてくれていたと言うのに、最後の方も柔らかく聞いていると思うが、目が笑っていないため、妙な迫力がある。
「んー……おはようのキス?」
まだ寝ぼけた頭で素直に質問にそう答えると、レイナ、ミーニャの2人からものすごいプレッシャーがかかる。それを一番に向けられているメルは勝ち誇ったような顔をして挑発をしている。
「…………ロリコン」
沙織がボソッと何かを言うが、深く突っ込むと面倒なことになるので無視させてもらう。
「それで、これからどうしようか?」
「……まだ、月様の依頼達成報告が終わってないので、そちらを先に」
「あー、本人が行かなきゃいけないのね」
メルに退いてもらい、ゆっくりと立ち上がる。また、立ち眩みとか勘弁願いたい。
「はい、ギルドカード」
レイナに連れられて受付へと向かい、ギルドカードを手渡す。
こちらからは見えない位置で捜査をしているため、何をやっているのかは分からないけれど慣れた手つきで1分と経たない間に返される。
「こちら、依頼達成の銅貨5枚です」
「んー」
その後、木の皿に銅貨を5枚入れて目の前に置かれたので、それを手に取りレイナに手渡す。特に何も言わずに分かっています。とばかりに自然な動作で受け取り、それを小袋へとしまう。
用は終わった。と、離れるために背を向けると不快な視線を感じたため、振り返ると不思議そうな顔で首をかしげる受付嬢がいるだけ。気のせいだったかとまた背を向けるとさっきと同じように不快な視線を感じるが、いたちごっこになると思ったために無視して行くことにした。
「なあ、レイナ」
「はい」
同じ席に座り、机にだれた体勢のまま、俺の後ろで座らずに立っているレイナに話しかける。
「さっきお金を入れた小袋ってさ、普通の小袋じゃないよね?」
「はい。ちょっとしたアイテムボックスになっています。大きなものは入れることができませんが、財布の代わりに私は使っています。メルとグリスも持っていますよ」
そう言われて真正面に座っているメルに目を向けると、嬉しそうな顔をしながら袋を持ち上げる。仮にもお金が入っているんだから、人目に軽々晒すなよ……。
隣でミーにゃは羨ましそうにメルの持つ小袋を見ているし。
「それで月様。これからどうされますか?」
「月のことだからもう、宿に戻って休むんじゃない?」
「そうだな。寝ているだけだったのに体調を崩しているし」
……俺、体を動かしていないから体力は無かったけど、病気にかかったことってそんなに無いんだよね。子供の頃は酷かったけれど、今は普通……だと思うけど。
体調よりも記憶の方が今は問題だ。
こうやって落ち着いている時でも記憶の整理がつかない。そろそろくる予兆なのかもしれないな。体調に関しても恐らくそれが原因だろう。
「いや、まだ寝ない」
俺が寝ないと答えるだけでそれほどまでに驚くような事なのだろうか。
「国持ちでもいいけれど……メル、レイナ。金って結構ある?」
「はい。何か、買われるのですが?」
「んー、奴隷を少なくとも2、3人は欲しいかな? と思って」
そう言うと、勇者たちから侮蔑のこもった目を向けられる。
「お前らが思ってるようなことに使うんじゃないよ……いや、違わないか。少し、欲求を満たすために役立ってもらう」
そう、欲しいのは獣人。
モフモフしてモフモフしてモフモフするために。
あとは、道案内……かな? 心を開いてくれなかったら教えてくれなさそうな気がするけれど。
それとちょっとした訓練のため、かな。
「取り敢えずレイナ。連れてって?」
体を起こさないままお願いしてみるが、顔を俯かせて何か悩んでいるようだった。見上げるようにしても、前髪によって表情が隠れて見えない。それと、耳をよくすまさないと聞こえないが、ブツブツと何かを呟いている。
直接見てはいないが、メルとミーニャからも殺気のようなものがヒシヒシと伝わってくる。
「そう……ですね」
しばらくして考えがまとまったのか、呟く声が聞こえなくなる。
そして俯かせていた顔を上げ――。
「行きましょうか」
微笑みながら答えるレイナだったが、とてつもない悪寒が全身を駆け巡った。それと同時に胸の奥に熱いものが込み上げてくるような興奮が俺を襲う。それは一瞬であったが、いまでもドキドキが治らない。
先ほど感じた悪寒はメルたちも感じたらしく、俺に向けていた殺気は消え、大人しくなっている。
「あ、お前らも一緒に来いよ。社会見学とゆーか、見聞を広げるのは大事だからな。後はそれを見て何を感じるか、だ」
俺は立ち上がり、レイナに背負ってもらう。
……なんとなくだが、昼間に背負ってもらったよりも何か違うような感じがするが、感覚なものだから気のせいだと思う。
「それじゃレイナ。お願い」
「はい」
肩に顎を乗せる。このままだと、また寝てしまいそう…………ふぁ。
歩くたびに伝わる微妙な振動がこれまた俺を眠りへと誘う。
「なあレイナ。何か怒ってる?」
今度は首筋を舐めたりするようなことはせず、柔らかくスベスベな肌に頬ずりをする。
「怒ってなどいませんよ」
前を向いたまま、そう答える。
やっぱり、奴隷を買うっていったからかな? でも、そしたらもっと病んでくれたほうが俺的には良かったんだけど……。ステータスを隠蔽、偽造していたら、その分効果が弱まるとか? いや、考えといてアレだがそれはないな。やっぱり、レイナたちの自制心が強いのだろう。
「レイナ。今日の夜、2人きりになろうか?」
「……………………」
レイナの髪をいじりながらそう尋ねてみると、何も言い返してこなかった。
こういったときの沈黙は大体が肯定である。否定するなら何かしらあるはずだし。
「…………ここです」
「ほう」
なんだか立派な建物に連れてこられた。木ではなく、石で造られている。入り口には2人、見た目強そうな男と見た目弱そうな男が立っている。弱そうな男は……燕尾服、であってるかな。きちんとした服をしているが、強そうな男の方は動きやすい軽装だ。
「お前ら。用がないな――」
「ゼノ」
そのままボーッと突っ立っていると、見た目強そうな方の男が指の関節をポキポキと鳴らしながら近づいてくる。だが、話している途中で弱そうな方がそれを止める。
「レイナ様。お久しぶりでございます」
強そうな男に元の位置へと戻るように言い、今度は弱そうな男が前に出てきてレイナに頭を下げる。
「先ほどは失礼いたしました。なにぶん、まだ入ったばかりの新人でして。グリス様とメル様もお久しぶりでございます」
「ああ」
そして今度は俺たちの後ろにいるグリスとメルに。
……見た目弱そうと言ったが、さっきの男よりもこっちのがヤバイ。
強そうな男を真正面から突っ込んでいく筋肉バカと置くならば、弱そうな男の方はどんな卑怯なことでもあの手この手を使って殺すといった暗殺。裏稼業だと思う。
今だって油断なく俺と、後ろにいるミーニャや勇者たちを見ているし、袖の中に暗器を持っている。袖だけではなく、靴の中やズボンの裾などと色んなところに。
「本日はどの様なご用件で?」
「何人か欲しいと」
「畏まりました」
男は一礼して、建物のドアを開ける。
真っ先に入っていこうとするレイナの肩を叩き、止める。
「響たち、先に入ってくれない? あ、別に罠があるか先に行って確認しろとかじゃなくてさ。この人とちょっと話すことがあるんだよね」
先に入れ。と言うと皆が皆、怪訝そうな表情で見てきたために理由を説明する。
まだあまり、納得がいっていない様だったが、グリスを先頭にして何も言わずに入っていく。
「ねえ、お兄さん」
「はい。何でございましょうか」
「立ち方、ものすごく自然だね」
「…………」
それだけで意味が通じたのか、何も言い返してこない。
「まあ、別に悪いことじゃないと思うよ? そっちの強そうなお兄さんは冷やかしとかの牽制に。弱そうなお兄さんは裏の人たちに対する牽制になるからね」
言いたいことを言えたので、レイナに付き合ってくれてありがと。と声をかけて建物に入ってもらう。
「――――……」
建物に入る際、聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で何かを言っていたが、扉が閉まる音と被って耳に届かなかった。
「……おお」
中を見回してみると、綺麗だった。よくある話だと、薄汚い牢屋に鎖で繋がれていたり、そもそも建物が石ではなく木で出来ていたり。
「いらっしゃいませ。お久しぶりでございます、レイナ様。……と、背負われているそちらの方は初めましてでございます」
周りを見回していると、声をかけられたので視線を前に戻す。すると燕尾服を着た、いかにも出来ますよって感じの綺麗に整えた髭を生やした爺さんが立っていた。
「お連れの方はすでに先へと進んでおりますので、すぐにご案内します」
そう言って奥に見える扉へと歩いていく。
この扉のすぐ向こう側に奴隷たちがいるのか。なんだかドキドキしてきた。シュレディンガーの猫のように、開けてみないと分からないドキドキ感。楽しいって意味でのドキドキは久しぶり……じゃないな。この世界に飛ばされた時にも感じたし。
元いた世界でもドキドキはいつも感じていたが、楽しいとはまた違う意味なのでノーカンだ。
「……ほー」
爺さんに続いてレイナに背負われながら入っていくと、思わず声がでた。
この建物の造りからして奴隷たちが入れられている部屋も綺麗だろうとは思っていたけれど、まさか――。
「二段ベッドがあったなんて……」
何故だか俺は鉄格子の向こう側にある二段ベッドに注目し、本来の目的である奴隷を見ていない。
俺の中ではどうやら、異世界=二段ベッドがない。で固められていたらしい。
「確かに、二段ベッドがあるなんて思わなかったわ」
俺の呟きは沙織に聞こえていたらしく、同じ様に少し驚いている。
「ここは人族の奴隷がいる階です。上の階に他種族の奴隷がいます」
「へー。……それにしても、建物の大きさと中の広さがあってない気がするんだけど、気のせい?」
「いえ、気のせいではないです。迷宮で出てきたSSランクの魔道具です」
そんな魔道具があるのか。この世界の仕組みはよく分からん。……分からない、じゃなくて分かろうとしない。が正しいか。
それよりも迷宮と聞いて勇者たちが騒いでいる。が、すぐにグリスに怒られて静かになる。だけどどこか浮ついた感じに見えるのは気のせいではないだろう。
このままでいたら、近いうちにこの街に来る前に成り行きで助けた冒険者のように、危険な目にあうだろう。
そういった未来を防ぐためにもやはり、奴隷が使える。
俺は6月1日から中間テストが始まるわけですけれども
恐らく、その一週間前からもしかしたら勉強……と言うなのゲームをしていると思うので、更新は遅れると思います
ゲームせずに書けよ。と思う方もいるかもしれませんが、頭の中が小説の内容で埋まってしまうため、テストの結果が悲惨→からの補修とかになったら更に書く時間が減るので、理解してほしいです……でも、こんな駄文待っててくれるもの好きの皆さん
もしかしたら、書いちゃってるかもしれません
確率は低いと思いますけれど、期待を胸に、まだかなー?まだかなー?と、待っててください
ってことでまた次回〜