十三話
今年も、もう終わっちゃうね
遅くなったのは…まあ、ダラダラしてたからだよ…
ってことで物語スタート!
「ねえ、何してくれちゃってんの?」
日が沈みかけ、空が赤く染まっている。
そこに一人の男と女が向かい合っていた。
女の背後には炎に包まれた村が見える。
「ふん。あんな奴らに情でも移ったのか」
「……イライラするね。元いた世界の人種差別を見ているようで」
「人種差別……? 言葉の意味は分からない。が、お前が私と対照的な意見を持っていることだけは理解した」
その男である天宮月と金髪を腰まで伸ばしたロングヘアーの女性が構える。
と言っても女性のほうが剣を鞘から抜き、切っ先を月に向けただけで月自身は自然体のままでいる。
「……構えないのか?」
「必要ないね」
「そうか。……私の名は」
「お前の名前なんてどうでもいいよ。お前の名前を一生覚えているとか死んだほうがマシだね」
「…………お前の名前は」
「それこそ教えるわけないじゃん。何言っているの?」
「…………」
「そんなことより早くかかって来たら? ……ってもう聞こえていないか」
月は指を鳴らし、氷漬けにされた女性を粉々に砕く。
「……逃げたのか」
粉々に砕けた氷の一つを蹴り飛ばす月。
すぐに興味を失くし、炎に包まれた村へと走って向かう。
「……まだ、無事でいてくれよ」
☆☆☆
時は遡ること二日前。
月がまだ、森にいたころのこと。
「…………また、散歩になった」
あの、ノタッチモンキーの集団に襲われてから再び歩くだけの作業に戻っていた。
「あのサル、もう一回出てこないかな……いや、一回ステータスでも確認するか? ……でも、立ち止まって確認したらメルに追いつかれるかもしれないし……歩きながらでも確認するか。あのサルの集団を倒してどれだけ上がったのか気になっていたし」
月は一度、大きな欠伸をしてからステータスを開いて見る。
本人は知らないが、とてつもなく危険だと言われて誰も近づかない森の中だというのに。
「…………俺はもう、自分のステータスについてなにもつっこまないぞ」
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天宮 月 LV52
HP 10400/10400
MP 測定不能
STR 2080
VIT 2080
DEX 1.080864e+19
AGI 1.01412e+33
INT 測定不能
SPI 測定不能
状態異常 睡眠不足(解除不可)
ポイント 10508250
スキル
全状態異常耐性 LV5
苦痛耐性 LV5
気配察知 LV5
気配遮断 LV5
空間把握 LV5
鑑定 LV5
隠蔽 LV5
偽造 LV5
魔力操作 LV4
魔力感知 LV4
空間魔法 LV5
料理 LV4
水魔法 LV5
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「魔力感知のスキルレベルが一つ上がっただけか。そしてステータスはついにeまで使うようになったとは……」
手で顔を覆いながらも足を止めない月。
油断してると思った何かが月を囲う。
「あのサルかな? 違うのだったらそれはそれでいいけど……数が少ないし違うかな? 何でもいいから早く出てこいよ。こっちは暇してたんだから」
足を止めて周りを見回す月。
言葉は違うが月の言っていることがなんとなくでも通じたのか気の影から姿を現す。
その姿は月が望んでいたノタッチモンキー……ではない。
月を囲んでいたのは人の形をしたスライムだった。
「…………はぁ」
目当ての魔物でもなく。強そうな魔物でもなく。
鑑定を使わず、ただのスライムだと思っている月はため息を吐いてうなだれる。
「こいつこそ序盤の敵じゃないか……しかも、数が6体とか少ないし……」
もはやテンプレとなってきた氷漬けからの粉砕でスライムを倒す。
「ステータス見ても変わらないよな……」
経験地を期待していない月はステータスを見ずに再び足を進める。
しかし、鑑定を使わない月は知らない。
名前はスライムだが、ステータスが明らかにおかしいことを。
実際、月に攻撃をしようと動こうとしていたが、月のステータスから見れば止まって見え、ただの一方的な攻撃だと思っている。
そしてこのスライムが1体だけウロウロしていたとしてもノタッチモンキーは恐れ、身を隠し、過ぎ去るのを見ていることしかできない。
もし、これが国にいた兵士だとしたら。何も出来ずスライムに取り込まれ、その栄養となっていただろう。
この森に住むスライムたちは戦闘に関する知恵だけは備わっており、2体が月に近づいて攻撃を。残りの4体は麻痺などの効果がある体の一部を月に飛ばそうとしていた。
……そんなことは関係なしで月に倒されたが。
「しかも、何も落とさないとか……今度出てきたら氷漬けにしてポケットにつっこんでやろうか……ん?」
愚痴を言いながらも歩みを進めていると、森の出口が見えることに気がつき、ダダ下がりだった気分が少しだけ上昇する月。
眠い目を擦りながらも森の出口へと少し早足になりながらも目指す。
「…………今度は山かよ」
森から出た月を迎えたのは見上げた先にぼんやりと頂上が見えるほど高い山だった。
その山は草木が一本も生えておらず、右を見ても左を見てもずっと続いている。
「…………土魔法をレベル最大まで取って、穴掘りながら直線で進むか」
そこからの月の行動は、まずステータスを開いて土魔法を取り、そしてその魔法を使って山に穴を掘りながら直線で進むはずだった。
だが、月はステータスを開いた時点で一度、行動が止まる。
「…………原因ってあのスライム6体だよな」
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天宮 月 LV87
HP 17400/17400
MP 測定不能
STR 3480
VIT 3480
DEX 3.71382e+29
AGI 1.141798e+48
INT 測定不能
SPI 測定不能
状態異常 睡眠不足(解除不可)
ポイント 10858250
スキル
全状態異常耐性 LV5
苦痛耐性 LV5
気配察知 LV5
気配遮断 LV5
空間把握 LV5
鑑定 LV5
隠蔽 LV5
偽造 LV5
魔力操作 LV4
魔力感知 LV4
空間魔法 LV5
料理 LV4
水魔法 LV5
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「あのスライム、こんなに経験地効率よかったのか……それと俺、いきなりステータスがこんなに上がったにもかかわらず、普通に行動できるって……」
一度固まったが、一通りステータスを確認した月は土魔法をレベル最大まで取り、土はイベントリとなった右ポケットに入れながら直線に穴を掘って進んでいく。
メルがすぐに追いついてこられないように、山を掘ってからしばらくは土をイベントリにはいれず、入り口を再び塞ぐ周到ぶりだ。
「早かったな……」
それから一時間も経たないうちに反対側へと抜け出る。
月は知らないが、この世界には人間、エルフ、ドワーフ、その他の亜人、魔族の国がそれぞれある。
そして掘ってきたこの山は『死の山脈』と呼ばれていて、人間、エルフ、ドワーフ、その他の亜人の国々と魔族の国を隔てる境界線の役割を果たしている。
つまり月は意図せずに魔族の国へと足を踏み入れていた。
そして当然そのことを知らない月は夜、寝てないこともあり限界まできていた睡魔に負け、周りに何もないと見回して判断し、念のためにと水魔法を使って氷の壁で自身を囲い、眠りにつく。
☆☆☆
「……こんだけたくさんお花を摘んで帰ったらお母さん、笑ってくれるかな?」
紫色をした髪の少女が一人。花畑で花を摘んでいた。
手にはたくさんの赤、黄色、青など色とりどりの花が。
「あれ? どこに行けば村に帰れるんだっけ?」
花を摘み終え、立ち上がった少女は周りを見回し、首をかしげる。
帰り道を忘れてしまったようだ。
周りはどこを見ても木。道が整備されているわけでもなく、標をつけなければどこから来たか分からないだろう。
「確かこっち、だったかな?」
そう言って少女は村と反対の方向へと足を向ける。
「村と反対でも山に着くし……そしたら来た道戻れば大丈夫だもんね」
本当は怖いのか声が震えており、気を紛らすために声を出しているようだ。
そして声を震えさせながらも歌いながら歩き続け、森の出口が見えてきた。
「……っあ! …………え?」
森の出口が見えたことで安堵し、走り出そうとした瞬間。
少女の天地がひっくり返る。
「…………え?」
少女は訳が分からず周りに花を散らばらせ、仰向けに倒れたまま呆然としている。
そしてその少女を取り囲む影。
「ウソ……どうしてここに……」
少女を取り囲んでいたのは人型のスライムだった。
このスライムは本来、魔族側の領地にはいない魔物だった。少女はそのいないはずの魔物が何故ここにいるのか分からず、困惑している。
そして少女はスライムの1体が飛ばした体の一部に触れ、麻痺して転んだのだ。
「ぃ……いや! …………こないで!」
少女は叫ぶ。が、その願い敵わず、人型のスライムは少女を体に取り込み、栄養の一部とする為近づいてゆく。
「…………誰か……助けて」
目から涙を流し、頬を伝って地面に落ちる。
だが、人型のスライムは止まらず、少女に体の一部を伸ばす。
少女は目を瞑り、その人型のスライムから視界をシャットアウトし、徐々に近づいてくる死の恐怖に怯える。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……え?」
「大丈夫か?」
何も起きなかったため、恐る恐る目を開けた彼女の視界に入ってきたのは黒髪を鼻先まで伸ばし、どことなく疲れた雰囲気を出している少年だった。
「…………っきゃ!」
そして周りにはまだ、人型のスライムがいて悲鳴を上げる。
「ああ、こいつらはもう動かないよ。……怖いなら壊しておこうか」
そういって少年が指を鳴らすと、人型のスライムが粉々に砕け散る。
「また何も落ちなかった……。ん、これでもう大丈夫だけど……動けないのか?」
「……ぅ、うん」
「……俺の想像でどうにかなるか? 壊す前にスライムを鑑定していれば何か説明があったはずなんだが……ま、いっか。ちょっと我慢してくれ」
「う、うん」
少年は少女の手を優しく握り、目を閉じる。
「……ぁ、温かい」
少女は少年の手から感じる温もりに目を細める。
「……これで、大丈夫かな?」
「…………ぁ」
「大丈夫みたいだね」
「あ、ありがとう」
少年が手を離すと、少女は小さく声を漏らして手を少年へと伸ばす。
少女の小さく漏らした声は少年に届かず、無事に体が動くのを確認できたとだけ考え、深く伸ばされた手の意味を考えていない。
しゃがんでいた少年は立ち上がり、少女に手を伸ばす。
伸ばされた手を取り、少女は危なげなく立ち上がる。
「…………あ」
「おっと。まだ、休んでいたほうがいいか。……ほら、乗って」
「……うん」
危なげなく立ち上がることは出来たが、まだ若干の痺れが残っていたのか、少女は少年に向かって倒れる。
きちんと受け止めた少年は少女に背を向け、しゃがみこむ。
提案を素直に受け入れ、大人しく少女は少年に背負われる。
少年の背中に顔を当てている少女の顔は赤くなっていた。当然、後ろが見えない少年にそのことは知る由もない。
「行き先はこっちでいいのかな?」
「うん」
「それじゃ行こうか」
少女は少年に背負われ、今度こそ村へと帰路につく。
それではみなさん、良いお年を!
また、来年もよろしく!
ってことでまた次回〜