三
情報に長けた男は自らを情報屋と呼んだ。京一郎にとっては相手の肩書きがなんであろうと構いはしなかったが、情報屋と言うからにはそれなりにいい“商品”を扱っているのだろうと推測できた。
「ずいぶん暴れたみてぇだな、アンちゃん?」
「覗き見か? 今しがたやりあってきたばっかりだってのによくご存知だ」
趣味の悪い野郎だ。そう悪態をつく京一郎に情報屋は事も無げに言った。
「ここいらの頭張ってる奴がワザワザ案内してんだ。力尽く、だろう? アンタはここらじゃ見かけんな。コネも効きはせんだろう」
「……驚いたな。情報屋ってのは探偵の別名か」
「くくっ。与えられた情報からある程度推測をつけられんと、自分の身は守れねぇ。……それで? 俺に聞きたいことがあるんだろう」
「ああ。何でもここいらで黒鬼が出る、なんて噂があるらしいじゃねえか」
「……妙なことを知りたがるな」
「こっちにも事情ってモンがあってな」
「まぁ、なんだ。都市伝説みたいなもんだがな。最近ここいらで派手に稼いでたプッシャー共が噂してたことだがな……」
そう前置きをして情報屋は語りだした。
*
「……ふーむ。伝聞ばっかりだな」
「仕方あるまいよ。実際姿を見てたら、この世にはいないかもしれんだろう?」
「それもそうだ」
「まぁ、まとめるとだ。薬の大元が突然姿を消す前に、ごく一部の部下にそんなことを話したことがあるようだな。元は黒い……何か、を身につけた化け物だったって聞いてるがな。丁度鬼が連続殺人を起こしてるって噂が重なって混ざっちまったんだろうな」
少し思案した京一郎だが、高い金を積むのを覚悟で聞いてみることにする。
「その鬼に会えはしないか?」
「無茶言うな。噂にしか過ぎないものに会わせられるか」
やはりか。
京一郎は頭を掻くと竹刀袋を肩に担ぐ。
「邪魔したな。こいつで足りるか?」
彼は懐から紙幣を数枚取り出すと情報屋に渡す。
「毎度。今後ともご贔屓に……」
背を向け歩き出そうとした京一郎だったが、足を止め顔だけ振り返った。
「なぁ、ちっと前に子供が殺された話だがよ。なんか知らねぇか」
紙幣を数え、ふむ、と唸った情報屋はそれらを懐に仕舞いながら言った。
「チップ代わりだ。生憎とその事件についてはマスコミが知ってる程度のことしか知らんが、近頃子供の臓器を売りさばくブローカーが目立って来てる。つっても関係があるかは知らんがな」
「……胸糞悪ぃが情報には感謝する」
「今度こそじゃあな」と言って京一郎は情報屋を後にした。
*
裏路地を歩き回りながら京一郎は思案に暮れる。
(どうするかな……。鬼は見つかりそうもないし、ブローカーとかって方を突いてみるか? 案外犯人かもしれないし)
京一郎は退魔士ではあるが、妖が関わる事件の裏に犯罪組織が絡んだりすることは珍しいことではない。それ故に0課然り、警察との連携が重要になるがそれは海外でも同じことだ。彼も日本、または海外の妖絡みの事件で警察、あるいは治安を維持する機能を持った組織と連携した経験がある。
つまり、彼は妖に限らず人間に対しても充分な戦力を持っているということだ。それは先ほどの戦闘でもハッキリしているだろう。彼にとって一犯罪組織を襲撃することは難しいことではないのだ。
とは言ったものの、襲撃したことに対する社会的リスクの程が想定できない。下手に抗争でも起きてしまったら事だ。
どうするべきか。考えあぐねているところへ声をかける者が現れた。
「もし」
「あぁん?」
場所があまりよくない場所だけについチンピラのような対応になってしまう。
「おっとと、怖い顔は止めましょうよ」
「何だテメェは。何の用だ」
小柄な、中年程の男を見下ろすように威圧した。
「ひひっ。旦那がお探しのモンについてちょいと情報を持ってやして。旦那、黒鬼をお探しなんでしょう?」
そう言って男は平身低頭、笑みを浮かべた。