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アーマード・オウガ  作者: ハル
弐:CRY THUNDER
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 何をするにも情報は重要である。その有無によっては自分の行動が()となるか否となるか、まるで変わってしまう。しかし、今分かっている情報は限りなく少ない。

 京一郎は黒い鬼をひとまず犯人と仮定して行動を開始することにした。

「とは言ったもののなぁ……」

 京一郎は(くだん)の黒鬼について何も知らない。

 園長に話を聞いておけばよかった。

 そう思うものの後の祭りである。今更戻って聞くのも情けない話だ。

「仕方ねぇか」

 そう(つぶや)いた彼はあまり治安のよくない裏路地へと足を向けた。



(いるわいるわ)

 薄暗い裏路地を歩く彼の視界には、一目見ただけで関わると危険だと分かる人間がごろごろしていた。

 地面にしゃがみこみ何やら袋のようなものを口に当てている者。

 複数名集まって“よろしくない”計画を練っている者達。

 小袋に入った小さな錠剤と金を交換している者達。

 気分の悪くなるようなイリーガルな空気。その中を京一郎は悠然(ゆうぜん)闊歩(かっぽ)していた。

 彼の格好は着崩したスーツ、と言うか、ちょっとしたホストのするような格好だった。スラックスに背広、カッターシャツを着ているが当然ネクタイなど締めておらず、胸元も開いている。

 そんな人間が竹刀袋を提げて歩いているのだ。悪目立ちする。ここの悪徳者(あくとくもの)達からしてみれば言わば異物だ。人間の体同様、侵入した異物は排除されるのが必定(ひつじょう)

「止まれ」

 京一郎の前に数人の男が立ち塞がった。ぱっと見て分かるほどに柄が悪い。

 半袖から伸びる腕にびっしりとタトゥーを刻んだ男が一歩前に出、言った。

「見ない顔だな。ここに何の用だ」

 その威圧感に全く怯むことなく京一郎も一歩前に進むと堂々と言い放った。

「この辺で一番情報通なヤツに会いてぇんだがよ」

「見逃してやるからさっさと消えろ。ここらは俺達のシマだ」

 取り付く島もなかった。しかし、京一郎はニヤニヤとした軽薄な笑みさえ浮かべ、余裕を見せる。

「そう言わねぇでよ、事情があるんだよ」

 と、言いながらタトゥー男の肩に手をかけた。

「触んじゃねぇっ!」

 タトゥー男はその手を乱暴に払いのけた。京一郎は払われた手を大げさに振って見せ、わざとらしく棒読みで言った。

「うわー。痛ぇ、これは折れたかもしれないぞー。慰謝料代わりに情報通のところに案内してもらわねば。そしたら治るかもしれないぞー」

 これには男たちも眉をひそめた。

「てめぇ……馬鹿にしてんのか……」

 場の殺気が一気に膨れ上がった。馬鹿にされていると分かった男達は一斉に戦闘態勢を整える。

 ある者はナイフを。ある者はメリケンサックを。ある者は鉄パイプを。

 各々が雑多な武装を開始した。

「クソが……、ナメやがって」

「ブッ殺す」

「今更ゴメンナサイとか通じねぇぞ、コラァッ!」

 物騒な言葉が次々と飛び交う中、京一郎は竹刀袋の紐を解くことなく(、、、、、、)持ち上げ、凶悪な笑みを浮かべた。

「後悔しろや、クソガキ共」

 暗い路地裏で、不良達(、、、)にとっての死闘が幕を上げた。



 それは果たして戦いと呼べるものだっただろうか。

 否。それは殲滅(せんめつ)と呼ぶべきだ。

 様々な武器で以って武装した、少なくとも幾つもの修羅場を潜ったであろう不良達を、京一郎は一方的に打ちのめしていた。


 地面に倒れた仲間を避けながら鉄パイプで殴りかかる。背後からの奇襲だ。避けられるなら避けてみろ。

 声で気付かれるのを警戒し、無言で殴りかかる。

 しかし。

 京一郎は見事に反応して見せた。

 振り返ると同時に、中程を持った竹刀袋を振りぬき鉄パイプを弾く。いや、それは“斬り払う”と言えるほどに見事な体捌(たいさば)きであった。

 払われたパイプは地面を叩きカンッ、と高い音を響かせた。京一郎はその一瞬の間に、振り抜いた状態から逆に腕を振り上げ逆手で棒を振るように相手の顎を打ち上げた。

(砕けたな)

 手先に伝わる感覚から相手のダメージを冷静に判断し、これ以上の追撃を止める。相手に気を使ったわけではない。無駄な時間、労力、隙を省いたのだ。

「クソがらああぁぁぁぁっ!」

 また一人、仲間が打ち倒されたのを見てナイフを持った男が突っ込んで来る。ダメージ覚悟で突っ込んでくる奴はカウンターで倒すのが難しい。そこで京一郎が取った手段は。

「おら、刺せよ」

 近くに倒れていた不良を一人、楯代わりに構えた。

「うわっ! 馬鹿っ……」

 それを見たナイフの男は仲間を刺してはかなわないと、急ブレーキを掛けた。そのせいで前のめりになって大きな隙を作る。

 京一郎に対して隙を作るのは正に自殺行為というべきものだった。

 即座に楯代わりの不良を放り出すと、コメカミに竹刀袋(の中身)の先端を叩きつける。その男はあっさりと昏倒して、面白いように地面へと沈んだ。

「おらおら! これで仕舞いか! テメェらみてぇなのは口先ばっかりか! ちったぁ根性見せてみろ!」

 竹刀袋を肩へと担ぎ、残った男達へと叫ぶ。しかし残ったのは最早数名。この惨状を目の当たりにして未だ闘志を燃やそうという強気な者などいなかった。最も、いたとしたらこんなところで(くすぶ)ってなどいないだろう。格闘技なり何なりで成功を収められるはずだ。

「もういい。俺達の負けだ。アンタの言うことに従う、だからもう、勘弁してくれ」

 彼らの中のリーダー格らしき男が歩み出て、言った。引き際を見極めるのもリーダーとして必要な資質だ。

「最初からそう言ってりゃいいんだよ。無駄な怪我しないで済んだのに」

 京一郎はあっけらかんと言い放った。不良達には彼の潜った修羅場がどれ程のものか、想像すらつかなかった。


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