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アーマード・オウガ  作者: ハル
壱:ポジティブ・ヴァイブレーション
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十三(了)

 日曜日の午後。穏やかな日差しが窓から差し込み、その温もりだけで布団さえも必要ないような、気持ちのよい気候だ。

 今回の件で大いに負傷してしまった鳴海はアパートに(こも)り、回復に専念することとなってしまった。負傷だけではなく全身に武装したことも原因の一つだ。鎧鬼は腕やその他一部を武装するだけなら大したことは無いが、全身武装は著しく体力を消耗する。右腕の銃創(幸いに骨や神経に影響は無かった)と体力の消耗で大学も暫く休みだ。

 最も、大学に関しては安倍が裏から手を回してくれているはずだ。欠席による単位不足等には気兼ねする必要がなくなった。ゆっくりと休息を取れる。


「……と、まあそれが大よその概要です」

 とは言ったものの、報告を欠かす訳にはいかなかった。

 重症を負った鳴海はすぐに警察病院へ搬送され治療を受け、その後は入院の必要こそ無いものの安静にしなければならず、こうして狭苦しいアパートの一室に安倍を呼び出したと言うわけだ。

 一大学生の部屋に上がりこむ(見た目)幼子(おさなご)

 ……噂にならなければよいが。

「ふむ、ご苦労じゃったの。今回は本当にお前さんには無理をさせた。申し訳なかったの」

 体を動かせない鳴海に代わり報告書を作成していた安倍は少し困ったような笑顔を向けた。

「止めて下さいよ。無理をしたつもりは無いんですから。俺がやるべきことだったからやったまでですよ。それよりも申し訳ないのはこっちです。報告書の作成代わってもらっちゃって……」

 キーボードをカチャカチャといじっていたノートパソコンを閉じた安倍はフフッと笑う。

「少しは大人に頼らんか。お前さんは色々背負いすぎじゃ」

 いつものクマリュックにパソコンを仕舞い込み(意外と容量があるようだ)、代わりに別の紙束を取り出した。

「それよりもの、あ奴について少し調べたよ。……あまりよい環境になかったようじゃのう」

 あ奴、とは無論、高橋のことだ。

「幼い頃から両親の関係で苦労しとったようじゃの。随分と借金もあったようじゃ。親戚もおらんかったようじゃし、頼るものもおらんかったようじゃ。ま、グレるのも分からんでもない、かもしれんの」

「それでも……」

「んむ。身勝手に殺し、奪うのはまかり通ってはならん。……しかし、なんじゃの。社会の歪みが一匹の鬼を生み出し、社会を喰らっておったんじゃ。実に皮肉なこととは思わんか」

「はい……」

 暗い空気を払うように明るく「さて」、と言って安倍が立ち上がった。

「ワシは事後処理が色々残っとるでの。ここらでお(いとま)しとくわえ。ゆっくり養生(ようじょう)するんじゃぞ」

「ええ。お疲れ様です」

 「それじゃの」と言い残し安倍が出て行った。

 外からは管理人のおばちゃんの声が聞こえてきた。「あら、お譲ちゃんもういいの?」と言ってるようだ。

 安倍の声も聞こえる。「うん! お兄ちゃん元気になったの!」とか言って……、言って……。

「噂になるの確定だ……」

 苦笑交じりに身を起こした鳴海は枕元のスポーツドリンクに手を伸ばす。体力の低下と傷のせいで少し熱も出ている。汗で排出された水分を補給すると頭がすっ、と冷える。

 冷えた頭で考えてみる。

 因果応報(いんがおうほう)。社会自らが生み出した影が自らに害を()す。これはある意味で在るべき姿なのかもしれない。腐りきった世が自らの(がん)に食い荒らされているだけなのだから。

 ならば自分たちのやっていることの意味とは?

 戦うだけの価値があったのか?

 煩悶(はんもん)とした想いが胸中に渦巻く。

「やめよう……。熱が出るとどうも弱気になっちゃうよな……」

 難しいことは自分には分からない。学者ではないのだから。

 でも、これから助からなかった人たちが助かったかもしれない。それでいいじゃないか。

 そう思うと痛い思いをしたのも、戦いたくない相手と戦ったことも、報われた気がする。

 今はそれでいい。

 ならば今度は、幼子が自分の部屋に出入りしている言い訳に頭を悩ますことにしよう。

 最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

 初めて長編という形式で作成しました『アーマード・オウガ』でしたが如何だったでしょうか? 少しでも皆さんにドキドキやワクワクなど、お届けできましたら感無量であります。お暇の供にでもなりましたのなら大変に喜ばしい限りです。

 ストーリーのあるものを書くのはえらく難しいものですね。すごく頭を悩ませましたが、やはり面白いものであるということも分かりました。そういう意味で、私にも大変に収穫があるものとなりました。

 これにて一章が終了ですが、まだお話は続きます。一章のお話は元々下書きしていたものを改めて書き直したものですので、それなりの速度で更新しましたが、以降は非常にゆっくりとした更新になるかと予想されます。最後、完結するまで走り続けようと思っておりますので、どうか見捨てることなくお付き合いくださいますよう、よろしくお願い致します。

 駄文、長文、お付き合い下さり、ありがとうございます。以下に章タイトルの説明をしておきますので、ご興味のある方はどうぞ。では、今後ともよろしくお願いいたします。


『ポジティブ・ヴァイブレーション』。このタイトルはかつて存在しました月刊誌『コミックボンボン』に掲載されていました『サイボーグクロちゃん』のアニメ版EDテーマのタイトルです。ボブ・マーリーは関係ございません。二十代から三十代の方ならリアルタイムでご覧になっているかもしれません。私は少し前に再放送で拝見しましたが、切なげなメロディーと共にストーリーをなぞる様な歌詞の曲です。

 この話はサイボーグとなった黒猫、“クロちゃん”が“じーさん”や“ばーさん”、仲間達の為、その身をボロボロにしながら戦うお話です。

 つまり、その姿を本作の主人公に重ねたわけです。強力な力で体を傷つけながら戦う主人公。是非クロちゃんのように勇敢で頼りがいのある男になって欲しいです。どんな曲か気になる方は是非YouTube等で探してみて下さい。とても悲しい、いい曲です。

 こんな自己満足の駄文までお付き合い下さった皆様、申し訳なさで感謝の言葉もありません。また次の機会にお会いできること、楽しみにしております。

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