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7月31日 ドラゴンは今日もめんどくさい。

この洞窟の主である彼は入口に無表情で立っている少女を見つけた時、めんどくさいことになりそうだと小さくため息をついた。


この洞窟にドラゴンが住み着いたのは、今より500年前とも1000年前とも言われている。


正確な時期は分からないが、その周辺に息づく者達にとっては生まれた時から死ぬ時まで常に隣にある危険な存在として恐れられていた。


それほど危険な存在ならばさっさと討伐してしまえば良い、そう言って勢い勇んでドラゴンを殺しに行った者達はその鼻息のみで吹き飛ばされ、何もできず命からがら逃げ帰ってきた。


ドラゴンと自分たちその隔絶された力の差を見せつけられた者たちは、その存在の乱暴で横暴な振る舞いにひたすら耐え、機嫌を損なわないように対策をほどこした。


その対策とは、大量の貢ぎ物と生贄だった。


一方、困ったのはドラゴンだった、非常に強靭な肉体と巨大な体を持つドラゴンだったが、その主食は、大気中に含まれる魔力と言う物質だった。


つまり、大量の貢ぎ物と生贄など貰ってもその処理に困る、そんな迷惑この上ない物であった。


その上このドラゴン、もの凄い面倒臭がり屋で腰が低かった。近隣の者達に乱暴で横暴なドラゴンだと思われていると知ったら、彼は青い顔をして全力で否定したであろう。


そんな訳で、近隣住民の頼みの綱であった貢ぎ物は放置され野生動物に食べらる。涙を飲んで送り出した生贄も同じく動物達に食べられるか、運良く逃げ出したとしても深い森の中に迷い込みその命を落としていた。


生贄を助けて送り返せば今の様にならなかったのかも知れないが、彼にとっては動く事すら非常に面倒臭くましてや、よく知らない虫程度の生物|(ドラゴンの視点からはそう見える)の生死などにそれほど深い感心は無かった。


そんな事がどれほど続いたであろうか、ただ300歳を越える長老が生まれた時からドラゴンが居たというのだからそれ以上の年月であろう。


そんなある日。


正確に言うなら、いつもの様に、貢ぎ物と生贄が捧げられた日の夜。


一人の少女がドラゴンの住む洞窟の入口に無表情に立っていた。


その少女に対して最初にドラゴンが思った事は、死ぬのならここ以外のどこかで死んで欲しいな、だった。


なんでそんなことを思ったか?こんな例えをしよう、もし自分の部屋に動物の死体が転がったまま放置されていたなら、まともな精神の持ち主ならば嫌な気分になるだろう。ドラゴンに取って、少女がこの洞窟の中で息絶えると言う事はそれと同じ事だった。


そんなドラゴンの願いを知ってか知らずか少女は洞窟の前で立ち続けた。


夜も更けた暗い森の中、本来ならばうら若き少女が無防備に立っていればたちまち野生動物達の餌食となっただろう、彼女がそうならなかったのは単に立っていた場所のおかげだろう、いかに野生動物だろうといや、野生動物だからこそ、その本能がドラゴンの住む洞窟へ近づく事を忌諱したのであろう。


結果として、少女は何者にも襲われる事無く一夜を明かした。しかし、彼女は絶体絶命と言っても良い状況を生き抜いたと言うのにあいも変わらず無表情で立ち続けている。


そうして、昼が来ても彼女はそこから一歩も動く事はなかった。やがて夜が来て、再び朝。


最初の頃は、煙たがっていたドラゴンだったがだんだんと少女に興味が出てきた。


他の人間と言う生物は何かと細々と動くというのに、目の前の少女は洞窟の入口に来て以降微動だにしない。死んでいるかと思ったがそうでもない、いったい目の前の小さな生き物はなぜそんなことをしているのだろう?と


固まったままの少女と興味を膨らませるドラゴン。


そんな関係が三日ほど続いただろうか。


唐突に少女が倒れた。少女の体力の限界がとうとう来てしまったのだ。


まだ若い彼女が休息も、睡眠取らず、その上何も食べずにただ立っていたのだ、正直三日も続いた事が奇跡といっても良いだろう。


これに慌てたのはドラゴンである。


彼はこの三日間、一言も声を交わすこと無くただ立っているだけ、そしてそれを見つめるだけと言う互の関係だったにも関わらず、彼女にすっかり情を移してしまったのである。


ドラゴンは彼女の体調を魔法で調べ上げる。そして、彼女の命が危ういと素早く察知すると今度は、癒しの魔法を彼女に掛ける。


ドラコンにとってこれくらいは朝飯前の事だった。



少女は異物だった。獣人エルフのハーフ、集団生活に重きを置く獣人とエリート意識の強いエルフそんな種族の間に生まれた彼女が両種族に受けいれられるはずもなかった。


少女は禁忌を犯した者とその象徴として、両親共々住処を追われた。


行くあてもない放浪生活と行く先々で受けた冷たい仕打ちが。彼女の心を凍らせてゆく。


それでも家族三人で手を取り合ってなんとか生きてきた。


だが、それも終わりを告げる、エルフであった彼女の父が死んだのだ。魔物から彼女とその母親を守る為に戦いそして死んだ。勇敢な最後だったと記しておこう。


そして、それからの生活はさらに困難を極めた。女の二人旅だ生きるために必死だった。


そうして、ようやく、ようやく、とある獣人の村に迎え入れられた。なぜ迎え入れられたのかなど考える余裕もなかった、いや、それ以外の事でであってもだ彼女たちの精神はただ、目の前の食物を食べ生き残る事のみに全てを捧げられていた。


だからこそ気づかなかった、彼女達を迎え入れた村人達の歪んだ笑に。


そして、彼女たちが村の住人となって一週間後それは起こった。


少女の母親がドラゴンの生贄に選ばれたのだ。


村人達は彼女達を快く迎え入れたのではなかった、ただこの為だけに迎え入れた振りをしただけだったのだ。


連れ去られてゆく母親を追おうとするが男達に取り押さえられる、そうしてその中の一人が耳元で囁くのだ「次はお前だ」と。


彼女は絶望した、ただ一つのすがるべき希望だった母が死んだのだ、もう彼女に生きるべき意味など残っていなかった、母がいなければ自分はもう死んだも同然だ、うまくこの事態を切り抜けたとしても生き残る術を何も持たない小娘がそれからいくらばかり生き続けられるだろうか。


そう考えると、今捕らえられている檻の外で少女が逃げ出さないように監視している男達のなんと滑稽なことか。自分はすでにもうただしを待つだけの物だというのに、そうして、彼女は考える事をやめた、ただ言われた事だけに従う人形となった。


そうして、ただただ命を意味もなくつなぎ止められて半年ほどしただろうか、どこかの誰かに命じられた「お前は今からドラゴンへの生贄になってもらう。」


そうして彼女はドラゴンの餌となった。


だから、彼女は目覚めてすぐにドラゴンの姿を見つけるとこう聞いた。


「どうして私を食べないの?」


「そもそも、ドラゴンは人を食わないのだが?」


ため息混じりのその言葉はドラゴンの隣から聞こえた。


ドラゴンの隣には少年が立っていた。ドラゴンのウロコと同じ色の髪をしてドラゴンと同じ瞳の少年。


「だれ?」


少女の問いに少年は答える。


「僕はドラゴンさ、君をここまで運んでくるのがドラゴンの体では難しかったからね、人間の体を作って操っているのさ。」


言われて少女は周囲を見渡す、自分がいる場所が彼女が立っていた洞窟の入口ではなくかなり奥だと実感する。そもそもドラゴンの目の前なのだから最奥だとすぐに気がつく。


常人ならば恐怖のあまり気絶するだろう、だが彼女は恐怖しなかった。すでに恐怖という感情すらなかったのだから当然だ。故に、次に彼女から出た言葉はただの質問だった。


「私はどうなるの?」


「さぁ?、知らないな」


身も蓋もない答え。


「私は生きていても良いの」


唯一の拠り所だった母が死に、生きる意味を見いだせなかった少女のつぶやき、それにドラゴンが何を当たり前なことをと言うように返す。


「当たり前だろう、生きている物は生きている限り、生きている事自体に意味がある」


「そう。なら生きてみる。」


それっきり、二人の間に言葉が交わされる事は無かった。


ただ、ドラゴンは少女を受け入れ、少女は生きることを選択した。


それだけだ、だが、大きな変化でもあった。


こうして心を失った少女と面倒くさがりなドラゴンの共同生活が静かに始まった。

最初に話を書いている時に思った、なんとなく「巣ドラ」に話が似てるなぁっと

方向修正したらこんな話ができました。


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