表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

五百文字の小説

降るまで

作者: 銭屋龍一

 蔵船屋の源爺はきょうも浜に立つ。

 海猫どもがかしましく囀っては波間を掠めていく。空は鈍い灰色に煙っている。

 この地が鰊の大漁に沸いたのはいつ頃のことであったろうか。浜にはいくつもの酒場と遊郭が建ち並んでいた。だが今は見る影もない。

 学校帰りの子供たちが源爺の足元に次々と小石を投げた。本気で当てようという気はなさそうだった。からから、かちかちと乾いた音が響く。砂浜はなく、もともと小石を敷き詰めたような浜であった。源爺は振り向いても見ない。わぁーと歓声をあげ子供たちが走り去る。

 源爺の目が大きく開かれた。

「来る」


 しわがれた声が響いた。

 灰色の空が割れ、一条の光が沖から浜まで貫くように走った。

 源爺は満足そうに何度もうなずいた。

 沖から追われた鰊が浜に降注ぐ様がまるで源爺には見えているようであった。

 この日をどれだけ待ち侘びたことか。


 久方ぶりの鰊の到来で沸く浜に、横たわる源爺の遺体が発見されたのは、翌朝早くであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ