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獣医禁書  作者: 深口侯人
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派遣社員獣医師

派遣で働くことにした僕は、とりあえず、有名な大手派遣会社に登録した。

無名の小さい会社に登録すると、酷い搾取を受ける事があるらしいから危険なのだ。

もっとも、有名大手でもそれなりに搾取は受けるのだが…、まぁ、働けるだけマシか。

登録手続きでは、基本情報や希望の職種と勤務地、持っている資格などに加え、過去の勤務経験を聞かれた。

仕事振り分けの際の参考にするらしいのだ。

そこで、動物病院での勤務経験ありと伝えたが、それを証明する「在職証明書」なる物を元勤務先に作ってもらって提出してほしいと言われた。

しかし、”汚物”と喧嘩別れした僕には当然、在職証明書は手に入らない。

したがって、職歴には注意書きで「証明書無し」と書かれる羽目になった。

ちょっぴり悲しかった…。

それでも、獣医師免許はさすがに効果があるようで、すぐに動物実験の仕事が紹介された。

仕事内容は世間一般のイメージ通りのものであまりやりたくない仕事だったが、背に腹は代えられない。

とりあえず、先方と顔合わせを行い、話がトントン拍子で進み、仮採用が決定した。


そして初出勤の日、妙な恐怖感を覚える…。

職場に行くのが怖い。

知らない他人と仕事するのが怖い。

前職場のような悪夢の再来をつい考えてしまうのだ。


(あれ…?これは…、トラウマ?僕はひょっとして対人恐怖症になっているのか?)


関係を絶った後の生活にも悪影響を及ぼすとは、“汚物”の行いはもはや傷害罪で訴えて良いレベルだとも思うが、僕も褒められた退職手段ではなかったので勘弁してやる事にする。

まぁ、悪夢が再来したとしても、今度は派遣社員としての就職なのだ。

どうしても無理なら契約を更新せず、すぐ辞めればいいだけの話だ。

湧きあがる不安を何とか押し殺しつつ、職場に歩を進める。

ところが、いざ職場についてみると、心配していたような事にはならなかった。

今度の職場は、みんな良い人ばかりだったのだ。

直属の上司は、仕事ができてユーモアもあり、部下が多少の失敗をしても何とかフォローしてくれようとする理想的な上司だった。

先輩たちも丁寧に仕事を教えてくれるし、時々冗談を言ってふざけ合ったりしているが、仕事の時はきっちり真面目にやる人ばかりだ。

たまに真面目で厳しすぎる人もいたけれど、説教の時は気を遣って傷つかないように優しく言ってくれているのがよく分かった。

そんな人たちで構成されている職場なため、全体の雰囲気が明るく和やかなのだ。

そんな恵まれた人間関係な上、仕事も17時で終わる事がほとんどで、残業した場合は残業代がつき、給料も毎月20万程度支給され、数か月勤め続ければ各種手当も付き始める。

前に比べれば天国のような職場環境だった。

僕が思い描いていた理想の職場だった。

あまりの快適さについつい契約更新し続け、あっという間に1年近く経ってしまった。

しかし、将来の事を考えるとどうしても不安にならざるを得ない。

正社員でない以上、「契約終了」と告げられたら退職金も無しにいきなり職を失う事になる。

また、ボーナスも昇給も無いので、長く勤めても経済的な余裕もできてこない。

そして、派遣社員から正社員への昇格は滅多にないのだ。

どこか別の所で正社員になるチャンスがあるなら、出来るだけ早く転職するに越した事はない。

というわけで、ちょうど公務員採用試験の時期になっていたので、次は公務員を目指してみる事にした…。


なお、ここに書いた給与や待遇等の内容は、各派遣会社によって多少の違いはあるようだが、最終的には、やはり正社員の待遇には遠く及ばないという結論に達する。

正社員の場合は、毎月の月給は安くても、それ以外の福利厚生にお金をかけられているケースが多いのだ。

今、派遣社員か正社員かという選択に直面している方は、将来の事も含めてよく考えてほしい。

また、その後、世間ではリーマンショック不況による派遣切りが問題となった事を皆さんも覚えておられるだろう。

派遣を続けていたら、僕も被害者の1人だったかもしれない…。


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