表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣医禁書  作者: 深口侯人
40/50

歯車

その後は、意外にもチクられる事も無く、いつも通りの適度に怒鳴られる日々が続く。

不思議なもので、あれだけ精神的苦痛を与えてきた“汚物”の怒鳴り声も、辞めると決めたらさして苦痛を感じず、さらっと聞き流せるようになった。

嫌がらせも嫌味も、もはや僕の心を蝕む事は無い。

「どうせ今月までの辛抱だ。」と思えば、大抵の事は許せるのだ。

逆に、この先、僕が起こす出来事を思えば申し訳ないくらいの気持ちにもなる。

自分に害を及ぼす人間に対して、こんな気持ちになれたのは初めてな気がする。

これが「悟りの境地」というやつだろうか…。

死が目前に迫った時はもっと寛大になれそうだ。

意味が違うが、「死ねば仏」というのもまんざら嘘ではないのかもしれない。

頭痛や吐き気やめまいも一時に比べると随分和らいでいる。

ゴールが見えてきた事で心にゆとりができ、体も警告の発信を緩めてきているのだ。

今なら履歴書に、「周囲に気を配れる」とか「面倒見が良い」と胸を張って書けそうだ。

たまに、『この状態だったらもう少し残ってみてもいいかな。』と思う事もあるけれど、《心という器はひとたびひびが入れば二度とは…、二度とは……。》

居残る事を想像すると、たちまち頭痛や吐き気がぶり返してくる。

つまり、多少回復したようには見えていても、僕の心はすでにこの病院での勤務をこれ以上受け付けない状態となっているのだ。

今月末が限界ということが改めて認識できた。


ところで、限界といえば最近、視界に突然キラキラと黄色く光る三角形が多数現れ、数分間はまともに物が見れず、それが消えた後は耐えがたい頭痛に襲われるという症状に悩まされ始めた。

この頭痛というのが、今までに経験した事が無い激しさで、本当に頭が割れそうなほど痛い。

『僕の体はすでに《GENKAI TOPPA》していて危ない状態なのでは?』と不安になり、ネットで調べてみる。

すると、どうやら「閃輝暗点」という聞き慣れない症状らしい。

よく読んでみると、極度のストレスから解放された時に起こりやすい症状のようなのだ。

なるほど、まさに今の僕の状態だ。

そして、むしろ頭痛が起こらない方が危険度が高いらしい。

さらに、若ければそのまま治まっていく事が多いようで、頻度が少なくなっていけば心配は無いそうだ。

頭痛がやたらと激しいのが気になるが、今のところは安心という事か?

良かった良かった、せっかく“地獄”から這い出ることができるのに、天国に直行しては堪らない。

もっとも、もし今死んだら、天国行きを取り止めてでも”汚物”を呪い殺すけどね…、フフフフフ…。

まぁ、それはともかく、無事に最終日を迎えられそうなので一安心。

《あとは勇気だけだ!!》


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ