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獣医禁書  作者: 深口侯人
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マイナスばかりの往診

また、臨床獣医師の診療の場は病院内だけに留まらない。

多くの動物病院は、病院に患畜を連れて来られないオーナーのために往診も行う。

もちろん我が病院でも行っており、緊急でない限りは昼の休診時間に行くことになる…、お昼休みは当然の如くお休みしている院長以外の獣医師が、だ。

元々、昼の休診時間も手術や掃除などの雑用三昧でどうせ働かされているので、往診に行くこと自体はさほど苦痛ではない。

苦痛なのは病院の往診車があるにもかかわらず、自分の車で往診させられる事なのだ。

往診車は毎回、「院長や家族が他で使う用事がある」とのことで往診に使えないのだが、毎度毎度そんな都合良く用事があるわけはなく、本当のところは「自分の車を他人に運転させたくない」だの、「動物を乗せて汚したくない」だのが本音だろう。

ちなみにこの“往診車”、普通のワゴンタイプの軽自動車で専門的な設備は一切積んでいない。

どう考えても、「往診車」ってことにして病院の経費で自家用車を買ったとしか思えないのだ。

まぁそれはともかく、素直に納得はできないが、病院の絶対権者が「使えない」と言っている以上、往診車は使えない。

仕方がないので、自分の車に往診用バッグを積んで往診に行く。

しかし、病気や怪我の程度が軽く、行った先での処置だけで済む場合は良いのだが、重症患畜は検査などのために病院に連れて帰らなくてはならない。

さらに、大抵の重症患畜は立ち上がる力が弱っていて糞尿垂れ流しの状態で放置されていることが多いので、そういう患畜を車に乗せると鼻を突く刺激臭が車内に充満し、匂いが染み付いてしまうため、乗せるのは躊躇してしまう。

だが、患畜の命を救うためと我慢し、車に乗せて病院に連れ帰って検査や治療をしていると、2階で休んでいた院長が様子見で下りてきて軽快に喋る。


院長「うわっ!!臭っせえなぁ、コイツ!!先生の車、匂い染み込んでんじゃない?お気の毒に~。うちの車じゃなくてホント良かった~(笑)。検査と治療はこれでいいから後は頑張ってね~。おぉ~、クサッ!!」


そして、鼻をつまんでコミカルな(つもりだがこちらとしては異常にイラつく)動きで先輩獣医やベテラン看護師の笑いを取って(といっても、表面上合わせているだけで心の中では貶されているとも知らないで)2階の自宅に帰っていく。

もはや、つっこみどころが満載過ぎてつっこむ気も失せるが、一つだけ言わせてもらおう。

死ねばいいのに!!


ところで、往診の場合は通常の治療費に加えて「往診代」という特別料金を徴収することになるのは想像に難くないだろうが、これは誰の懐に入るのか?

当然、病院…というか院長の懐に“100%”入っていく。

つまり、「往診手当」みたいなものは無いのだ。

しかも、この糞尿臭にまみれた我が愛車は、駐車場料金まで取られている始末。

勤務中は病院が近くに借りている従業員用駐車場に停めているのだが、この守銭奴院長が無料で停めさせてくれるわけがない。

どうせ経費で安上がりにしているくせに「通常料金よりも安くしてありますから。」と恩着せがましい事を言って駐車場代を徴収し、渋ると「だったら自分で借りればいいんじゃない?どうせうちより高いけど。」と足元を見る発言をしてくるらしい。

ちなみに、通勤用のガソリン代も支給されていることは支給されているのだが、“安くしてある”駐車場料金よりもさらに安いので交通費のトータルではやっぱりマイナスになるのだ。

何故、お金を取られてまで通勤に使っている自分の車をマイナス要素ばかりの往診に使わされなければならないのか?

院長曰く、「往診は、限られた道具で診察や治療をする勉強になるから行かせてやってる。お前の勉強のために行かせてやるんだから、お前の車で行くのは当たり前。」

大抵の人間は経営に携わると金に汚くなるようだが、コイツは元々そうだったとしか思えないくらいの守銭奴っぷりである。


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