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獣医禁書  作者: 深口侯人
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ぎゅうぎゅうの口の感の狂った短気のデブ

ここまでで分かるとおり、「短気で」「ケチで」「嫌味で」「器が小さく」「わがままで」「神経質で」「金に汚く」「精神が未熟で」「すぐに怒り」「自己中心的で」「細かい事をやたらと気にして」「自己顕示欲が強くて」「気が短く」「他人に厳しいくせに自分に甘く」「虚栄心の塊で」「カッとなりやすく」「子供っぽく」「器が小さい」という人間失格な性格のくせに外面は良く、自分は人格者で皆に慕われる良い院長だと勘違いしているこの《ぎゅうぎゅうの口の感の狂った短気のデブ》はこの後、さらなる小物っぷりを披露してくれる。


獣医療の世界では、従事者が患畜に咬まれたりひっかかれたりという事故が多発する。

こちらは治療しているつもりだが、動物にとっては自分が弱っている時に見知らぬ奴が近づいたり、痛い事をしたりしてくるので、威嚇したり反撃したりするのは当たり前だ。

したがって、診療に臨む際は攻撃を食らったりしないように十分注意するが、どうしても不意の一撃を食らう事があるのだ。

大抵は唸ったり牙をむいたりと予備動作があるのだが、たまに何の前触れもなく攻撃してくる奴がいるのが厄介だ。

僕もそれで手を咬まれて出血した事があるが、その時、院長は笑いながら「トロいやっちゃのー(笑)。早よ消毒して診察に戻りーな(笑)。」と言って、病院の消毒薬と絆創膏を無料で振舞ってくれた。

さらに、抗生剤までタダでくれるというのだ。

しかも人用の抗生剤を。(獣医療では人用の薬を動物に応用したりもするので備蓄がある。)

そこまでされると逆に何か要求されそうで怖いが、断っても面倒な事になりそうなので素直に受け取っておく。

そしてその後は、労災とか傷病欠とかの話は皆無で普通に働かされた。

今考えると、普通はまず人の病院に行かせてほしい考えるところだが、「獣医師が減ると自分の診療が増えて疲れる」と瞬時に判断した院長は、薬や絆創膏を出す事で病院に行く必要が無い状況を作り出し、僕の意識がその方向に向かうのを阻止したのだろう。

この恐ろしいまでの瞬間計算力と悪行センスは時代劇の悪代官さながらだ。

時代劇ならここらで誰かが助けに来てくれそうだが、現実では都合良く水戸黄門や暴れん坊将軍みたいなヒーローが現れたりはしないので地獄の統治は永遠に続く。

ともかく、この件は一般の人から見るとおかしい点があるかもしれないが、怒鳴られなかっただけでも儲けものだ。


また、患畜に直接接する看護師も当然咬まれたりする危険が高いわけで、僕の診療中に動物を抑えてもらっていた新人看護師が咬まれた事もあった。

そんな時には当然院長登場。

もちろん、キレている。


院長「お前、ちゃんと見てやってたのか!?ちゃんとした持ち方させてたら咬まれるわけないだろが!!お前の注意が足りんのだ!!このバカが!!」

(ちゃんと見てたに決まってんだろ…。注意したところで避けられる速さじゃねえよ…。)


相変わらず無理難題を吹っ掛けてくる院長は放っておくとして、この時は負傷者が女性ということもあって人間の病院で診てもらうことになった…、“診察終了後”に!!

診察時間中は応急手当だけ施されて仕事を続けさせられたのである…。

(恐らく経費で)治療費を出したことは称賛に値するが、出血するほどの傷を負った女性を平然と働かせ続ける神経は、一体どうやったら培うことができるのか?

この冷徹で図太い精神は、戦時中なら重宝される場面もあったかもしれないが、残念ながら今の世の中では「人として最低」という称号を手に入れる時にしか使えないだろう…。


以上のような、男なら負傷しても問題無いし、女性が負傷しても診察終了までは応急手当で済ますという院長の人でなしっぷりには呆れて物も言えない。

しかし、院長の小物っぷりを何よりも如実に語る話はこの後の院長自身が負傷した事例だ。

院長は基本的に、常連さんの大人しい動物しか扱わない。

したがって、怪我をすることはまず無いのだが、相手は動物、何が起こるか分からない。

ある日の診療中。


「スパーン!!!」


病院内にいい音が響いた。

診察室から手を押さえつつ院長登場。

もちろん、キレている。


院長「何でちゃんと抑えとかないんだ!!このバカが!!」


一緒に出てきた中堅看護師を怒鳴っている。

そして僕と先輩を見つけると言う。


院長「オレ、ちょっとこの怪我じゃ診察ができんから病院で診てもらってくるわ。後は任せる。」


そして診察時間中に診療を待っている3~4人のオーナーを残して病院を出て行く。

今一つ状況が理解できないが、オーナーを待たせるわけにもいかないので、残った従業員で何とか病院を回す。

一段落した後、中堅看護師に当時の状況を聞いてみると、まず、ワクチンを打つために患畜を保定するよう命じられ、院長の言う通りに優しく“緩めに”保定した。

次に、院長がワクチンを注射すると犬が暴れて院長の手に噛み付いた。

ビックリした院長は何故か反射的に中堅看護師の頭を叩き、そのまま診察室を出て行ったという。

そして、人の病院へ…。

戻ってきた院長はあざができただけの手に湿布を貼って、痛そうに擦りながらオーナーと話をするだけで、その日はもう診療することは無かった…。


女を叩く!!

あざごときで仕事を休んで通院!!

その後の仕事放棄!!

他人に厳しく自分に甘い!!


つくづくどうしようもない奴だと感じるのは僕だけだろうか?

そもそも、ちゃんとした持ち方をさせて、注意して見てやっていたら咬まれるわけ無いのではなかったか?

患畜が普段は大人しいからといって油断し、緩めの保定を自分で指示しておいて咬まれたら中堅看護師のせいにするとは…。

ここまで小物だと、呆れるどころか笑いが込み上げてくる。

というか、ここは笑い所なので是非笑ってください。

僕も笑うしかなかったです…、自分の人を見る目の無さを…。


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