役立たずと捨てられた俺、戦闘を観察するだけで敵の動きを完全再現できると気づいてしまう
追放を言い渡されたのは、迷宮都市グランゼルの冒険者ギルド、その酒場のど真ん中だった。
「――神谷ユウキ、お前は今日でパーティーを抜けろ」
リーダーのガルドが、わざと周囲に聞こえる声でそう告げた瞬間、酒場のざわめきがぴたりと止まった。
俺は木椅子に座ったまま、静かに視線を上げる。
「理由を聞いてもいいか」
「理由も何もねぇだろ。お前、戦わねぇじゃねえか」
ガルドの隣で、盾役の大男が鼻を鳴らした。
「後ろでじっと見てるだけ。剣も振らねぇ、魔法も使えねぇ。お前のスキル、《観測》だっけ? そんなもん、戦場じゃ何の役にも立たねえんだよ」
周囲からくすくすと笑いが漏れる。
俺の固有スキル《観測》は、その名の通り“見る”ことに特化した能力だ。戦闘中に相手の動作、呼吸、重心移動、魔力の流れ、そのすべてを記録する。
だが、記録できるだけだ。
少なくとも、みんなはそう思っている。
「お前がいると経験値の配分ももったいねぇ。荷物持ちなら別の新人でもいいしな」
「……そうか」
短く返すと、ガルドは拍子抜けしたような顔をした。
「なんだ、もっと食い下がるかと思ったぜ」
「必要ない。荷物はまとめてある」
もともと、こうなる予感はしていた。
俺はこの世界に転生してきてからずっと、“前世の癖”で戦闘を観察していた。どの攻撃がどう機能しているか、どの立ち回りが無駄か、どこで魔力がぶれているか。検証癖は今世でも抜けないらしい。
だが、それを口にするたび、仲間は嫌な顔をした。
面白くないのだろう。自分たちの戦い方の欠点を指摘されるのは。
「最後に忠告だ、ユウキ」
ガルドが笑う。
「観察ごっこはガキの遊びだ。冒険者ってのは、前に出て殴って勝つもんなんだよ」
「そうかもしれないな」
俺は立ち上がり、置いていた荷袋を持った。
そのまま酒場の出口へ向かう。
背中に飛ぶ笑い声は、もう気にならなかった。
俺自身も、まだ自分のスキルの正体を掴みきれていなかったからだ。
《観測》が、記録するだけの能力なのか。
それとも、もっと別の何かなのか。
それを確かめるには――ひとりになるのが都合よかった。
◇
グランゼル近郊の第一迷宮層は、新人でも潜れる低難度区域だ。
石壁の通路を歩きながら、俺は頭の中でこれまでの戦闘を何度も再生していた。
ガルドの大振りの斬撃。盾役バルクの受け流し。後衛の魔術師が使っていた風刃の起動。すべて、細部まで思い出せる。
それが《観測》の力だった。
「記録はできる。問題は、その先だな」
そう呟いた直後、通路の奥からスライムが二体、ぬるりと現れた。
新人向けの魔物だが、油断すると酸液で装備を溶かされる。
俺は剣を抜いた。
安物の片手剣。決して良い武器じゃない。
一体目が飛びかかってくる。
俺はその軌道を見た瞬間、反射的に半歩だけ身を引いた。
避けた、というより――“知っていた”感覚に近かった。
「今のは……」
スライムの体が地面に落ちる、そのわずかな隙に、俺の腕が勝手に動いた。
斜め下から切り上げる。
まるで、誰かの動きをなぞるように。
剣先は柔らかい核を正確に裂き、一撃でスライムを消し飛ばした。
続く二体目が酸液を吐く。
俺は壁を蹴って横に跳び、着地と同時に踏み込み、下段から突き上げるように剣を突き出した。
核、貫通。
二体目も霧散した。
静寂。
俺はその場で固まった。
「……今の動き、俺のものじゃない」
剣術の心得はある。けれど、たった今の軌道は、普段の俺なら選ばない。
もっと合理的で、無駄のない動き。
頭の中で再生されていた、ガルドたちの動きとも違う。
いや、違わない。
正確には――似ているのに、少しずつ別物だった。
「観測した動作を……再現した?」
思考が熱を帯びる。
試す価値がある。
俺はさらに迷宮を進み、ゴブリン三体と遭遇した。
一体が棍棒を振り下ろし、一体が左から回り込み、一体が遅れて背後を狙う。
新人なら慌てる連携。
だが、俺の目には軌道が見えていた。
重心、足運び、肩の入り方。攻撃が来る前に、来る位置がわかる。
ならば。
前へ一歩。
棍棒の死角へ潜り込み、回り込んだ一体の喉に突き。返す刃で正面の腕を裂き、振り向きざまに背後の一体へ肘打ち。
その流れは、自分でも驚くほど滑らかだった。
まるで、何百回も練習した連携のように。
三体を倒し終えた俺は、ゆっくり息を吐く。
「記録だけじゃない……再現、か」
《観測》は“見る”だけのスキルじゃなかった。
見た動作を、自分の身体で再生できる。
ただし、丸ごとではない。筋力差や体格差のせいで、完全なコピーにはならない。
だが逆に言えば――自分の身体に合わせて無理なく出力される。
それは、模倣でありながら、実戦では極めて扱いやすい。
俺は笑いそうになった。
「なるほど。観察ごっこ、ね」
これが役に立たないなら、この世界の戦いはずいぶん雑だ。
そのときだった。
迷宮の奥から、爆ぜるような炎音が響いた。
続けて、誰かの声。
「ちょっ、うそでしょ!? なんでこんな浅い階層にいるのよっ!」
女の声だ。
俺は即座に走り出した。
◇
広間に飛び込むと、そこでは赤毛の少女が杖を構え、巨大な灰狼と対峙していた。
灰鋼ウルフ。
本来なら第三層あたりに出る魔物だ。硬い毛皮と異常な瞬発力を持つ厄介な相手。
少女は明るい赤のローブを翻し、火球を放つ。
「フレイムバレット!」
三発の火球が狼へ飛ぶが、灰鋼ウルフは床を蹴って回避する。速い。
着地と同時に少女へ飛びかかった。
「っ、この!」
少女は咄嗟に障壁を張る。だが、一撃でひびが入った。
魔力の質からして、かなり腕はいい。けれど経験が浅いのか、魔物の踏み込みに反応しきれていない。
俺は壁際に身を寄せ、そのまま戦況を見た。
「な、何見てるのよ!? 手伝って!」
「あと三秒」
「はぁ!?」
少女が怒鳴る。
だが必要だった。
狼の動きの癖を見る時間が。
一回目の跳躍は牽制。二回目で障壁を割る。三回目は右前脚からの薙ぎ払い。噛みつきはその直後。踏み込みの前、尾がわずかに左へ振れる。
見えた。
「下がれ!」
俺は前へ出た。
少女が目を丸くする。
灰鋼ウルフが俺へ狙いを変え、床を爆ぜさせる勢いで突進してくる。
速い。だが――遅い。
半歩だけ右へ。
爪が鼻先を掠める。
さらに一歩、懐へ。
さっき見たばかりの軌道をなぞるように、身体が勝手に最適な位置へ滑り込んだ。狼の前脚が伸び切る瞬間、首元の毛並みが開く。
そこへ、刺す。
浅い。硬い。
なら、二手目。
俺は柄頭で顎を打ち上げ、姿勢を崩した狼の喉下へ再び突きを入れた。
「ギャウッ!?」
狼が距離を取る。
少女が叫んだ。
「ちょっと待って、それ何!? めちゃくちゃ上手いんだけど!?」
「見ただけだ」
「意味わかんない!」
その間にも狼が低く唸る。
今ので警戒したな。正面からは来ない。
「炎、使えるか」
「使えるけど」
「次、俺の左を狙って飛ぶ。着地位置に火を置いてくれ」
「……分かった!」
少女は戸惑いながらも杖を構えた。
狼の尾が揺れる。
来る。
俺はわざと右へ重心を寄せ、隙を見せた。狼は誘われるように左へ回り込み、背後を取ろうと飛ぶ。
「そこ!」
少女の火炎陣が床に走った。
着地した狼の足元で炎が爆ぜる。
「ギャアアッ!」
バランスを崩した一瞬を逃さず、俺は踏み込み、斜め上へ切り上げた。
顎下から脳天へ抜ける軌道。
狼はそのまま崩れ落ち、粒子となって消えた。
静まり返る広間。
少女はぽかんと口を開けたあと、勢いよくこちらへ詰め寄ってきた。
「ちょっと! 何今の!? あんた何者!?」
「冒険者だ。一応」
「一応って何! あんな動きする人が“一応”で済むわけないでしょ!」
近くで見ると、年齢は俺と同じくらいか少し下。琥珀色の目がくるくる動く、表情のわかりやすいタイプだ。
「私はアリサ。アリサ・フェルノア。王都の魔術学院から実地研修で来てるの」
「ユウキだ」
「ユウキね。で、そのスキルは?」
「《観測》」
「観測? 見るだけのやつ?」
「たぶん、見るだけじゃない」
そう答えると、アリサはじっと俺を見た。
「……さっき、“あと三秒”って言ったよね」
「ああ」
「敵の動きを読んだの?」
「読んだ。正確には、観察して、再現した」
「再現」
「相手の動きを見て、自分の身体でなぞる感じだ。ただ、完全に同じじゃない。俺の身体に合わせた出力になる」
アリサは数秒黙ったあと、にやっと笑った。
「それ、めちゃくちゃ強くない?」
「今のところはそう見える」
「今のところって……」
呆れたように肩をすくめたあと、彼女はふと真顔になった。
「でも、困ったな」
「何がだ」
「灰鋼ウルフがいるってことは、この先にもっと厄介なのがいるかもしれない。浅層の調査依頼だったのに、完全に情報がズレてる」
それは俺も同感だった。
第一層に灰鋼ウルフが紛れ込むのは異常だ。
「ギルドに報告するか」
「その前に出口まで戻りたいけど……」
アリサが言いかけた、そのとき。
地面が揺れた。
広間奥の壁が砕け、黒い巨体が姿を現す。
甲殻に覆われた四足獣――黒殻ベヒモス。
こんなもの、新人向け迷宮にいるはずがない。
「うそでしょ……」
アリサの顔が青ざめる。
ベヒモスは低く唸り、重い前脚で床を砕いた。防御力、重量、突進力、どれも規格外。並の冒険者ならパーティーでも撤退案件だ。
「逃げるぞ」
「無理! 出口まで追いつかれる!」
確かにそうだ。
通路に入れば逆に轢き潰される。
なら、ここで倒すしかない。
だが一つ問題がある。
俺はこいつの動きをまだ見ていない。
再現する材料が足りない。
「アリサ、時間を稼げるか」
「何秒!?」
「できれば十秒」
「無茶言わないで!」
そう叫びながらも、アリサは前へ出た。
ローブの裾が翻る。杖先に複数の火輪が浮かんだ。
「でもやるしかないんでしょ! ファイアランス!」
炎の槍が三本、一直線に飛ぶ。
だが、ベヒモスは正面からそれを受け、ほとんど怯まない。硬い。
続けて突進。
アリサは転がって回避するが、衝撃波だけで壁に叩きつけられた。
「っ、ぅ……!」
まずい。
俺はベヒモスの前へ出る。
右前脚が沈む。次に来るのは――薙ぎ払い。
見たまま避ける。左。
次いで頭突き。低い。バックステップ。
さらに踏み込み、噛み砕き。顎が閉じるより先に剣を差し込んで軌道を逸らす。
重い。腕が痺れる。
だが、見えてきた。
こいつは単純だ。重量級らしく、初動に癖がある。攻撃前に、必ず片側へ体重を預ける。
なら、読める。
「ユウキ!」
アリサが立ち上がる。
「どう!?」
「外殻の継ぎ目、首の付け根と前脚の内側。そこだけ柔らかい」
「狙える?」
「お前の魔法と合わせれば」
ベヒモスが再び突進姿勢を取る。
今度は止める。
「アリサ、火炎を一点集中。俺が道を作る」
「いや、道を作るって何!?」
「いいから!」
俺は駆けた。
ベヒモスも走る。真正面から激突コース。
普通なら自殺行為だ。
だが、観測した。
右前脚が踏み込む瞬間、わずかに身体が沈む。重さゆえの僅かなタメ。そのタイミングだけ、軌道修正ができない。
そこへ、滑り込む。
「――っ!」
地面すれすれまで身を落とし、右前脚の内側へ潜る。毛皮と甲殻の境目に剣を突き立て、自分の身体を支点に強引に軌道をずらした。
ベヒモスの巨体がわずかに傾ぐ。
「今だ、アリサ!」
「燃え尽きなさい! クリムゾン・ブレイズ!」
圧縮された紅蓮の炎が、俺の開いた傷口へ一直線に撃ち込まれた。
轟音。
ベヒモスが絶叫する。
だが、まだ倒れない。内側を焼かれながらも、暴れるように身体を振った。
俺は弾き飛ばされ、床を転がる。
「くっ……!」
肺から息が抜ける。
立て。まだ終わってない。
ベヒモスは炎をまとったままこちらを睨み、最後の突進を構えた。
直線。怒りで雑になっている。
なら、今度は――再現だけで足りる。
これまで見た動きが、頭の中で重なる。
ガルドの踏み込み。バルクの受け流し。灰鋼ウルフの回り込み。ベヒモス自身の突進癖。
それらが一本の線になる。
「ユウキ、避けて!」
「いや」
俺は剣を正眼に構えた。
「これで終わる」
ベヒモスが突っ込む。
床を揺らし、空気を裂き、圧倒的な質量が迫る。
俺はその正面で、静かに息を吸った。
右へ半歩。
左足を軸に身体を捻り、受け流しの角度を作る。
重さを真正面から受けるんじゃない。流す。
剣は補助。主役は重心移動。
「――そこだ」
ベヒモスの角が俺の肩先を掠める。その勢いをわずかに逸らし、首の付け根が露出した刹那、俺は身体を滑り込ませた。
刺突。
狙うのは、さっき炎が通った傷口の中心。
剣先が柔らかい内部へ沈む。
同時に、アリサが叫んだ。
「爆ぜろっ!!」
傷口の内側に残っていた炎が、一気に膨張した。
黒殻ベヒモスの巨体が震え、次の瞬間、内側から弾けるように崩壊する。
爆散した粒子が広間いっぱいに舞い、やがて光となって消えた。
あとに残ったのは、耳鳴りのような静寂だけだった。
◇
「勝っ……た?」
アリサが呆然と呟く。
俺もすぐには答えられなかった。
手が震えている。怖かったのだと、今さら気づく。
だが、それ以上に。
「見えたな」
「え?」
「《観測》の使い方が」
再現できるのは、単なる剣技だけじゃない。
敵の攻撃の癖、仲間の魔法の到達、間合いの管理、重心の流れ。それら全部を“戦い方”として再生できる。
つまりこのスキルは、個別技の模倣じゃない。
戦闘そのものの再現だ。
アリサが近づいてきて、俺の顔を覗き込む。
「ねえ。本当に何者なの、あんた」
「追放された役立たずだ」
「それ絶対、追放した側が節穴でしょ」
即答だった。
思わず笑う。
「かもしれないな」
「かもしれないじゃないわよ。だってさっきの、普通じゃないもん。相手の動きを読んで、私の魔法まで使いどころを合わせて、最後なんて……何あれ。初見の相手にやる動きじゃない」
「見ればわかる」
「そんなわけあるか!」
アリサは勢いよく突っ込んできたが、すぐにため息を吐いた。
「でも、ありがと。助かった」
「ああ」
「お礼にご飯くらい奢る。……って言いたいところだけど、まずはギルドに報告ね。これ、絶対ただの迷宮異常じゃないし」
俺も頷く。
黒殻ベヒモスが浅層に出た理由は不明だ。放置はできない。
俺たちは広間を出て、地上へ戻った。
◇
ギルドへ戻ると、騒ぎはすぐ広がった。
浅層異常、灰鋼ウルフ、黒殻ベヒモス討伐。
受付嬢が青ざめ、ベテラン冒険者たちがざわつく。
そして、そのざわめきの中心にいたのは――ガルドたちだった。
「は? 黒殻ベヒモスだと?」
ガルドがこちらを見て眉をひそめる。
「おいおい、冗談だろ。そんなの新人が倒せるわけねぇ」
俺は何も言わない。
代わりにアリサが一歩前へ出た。
「冗談じゃないわよ。私とユウキで倒したの。証拠なら魔力記録も残ってる」
「ユウキ……?」
ガルドが俺を見て、目を見開いた。
「お前が?」
「そうだ」
「馬鹿言うな! お前は後ろで見てるだけの――」
「見てるだけで十分だった」
酒場が静まり返る。
ガルドの顔が赤くなる。
「ふざけるなよ!」
「ふざけてない。お前は前に出て殴るのが冒険者だと言った。でも、戦いはそれだけじゃない」
俺ははっきりと言った。
「相手を見ること。仲間を見ること。流れを読むこと。理解した上で動くこと。それも戦いだ」
ガルドは言い返せなかった。
受付嬢が、恐る恐る口を開く。
「ユウキさん……その、討伐報酬の件ですが……」
「ああ、別に急がなくていい」
「いえ、そういうわけには。あと、浅層異常への対応で、ギルドとして正式に協力依頼を――」
「受けるわ」
横からアリサが即答した。
「私はアリサ・フェルノア。実地研修中の魔術師。で、こっちのユウキは私の臨時パートナー。問題ないでしょ?」
俺は横を見る。
「勝手に決めるな」
「だって、もう組んだほうが早いじゃない」
アリサはにっと笑った。
「観察する人と、火力を出す人。相性よさそうだし」
「……否定はしない」
「よし決まり!」
勝手なやつだ。
だが、不思議と悪い気はしなかった。
ガルドたちは面白くなさそうに歯を食いしばっていたが、もう俺にとってはどうでもいい。
追い出されたことすら、今は悪くない出来事に思える。
ひとりになったから、見えた。
自分の力が。
戦い方が。
そしてたぶん、これから進む道が。
アリサが俺の袖を引く。
「ほら、行くわよ」
「どこへ」
「ご飯。奢るって言ったでしょ。そのあと作戦会議」
「もう依頼を受けるつもりか」
「当然。浅層にベヒモスが出るなんて、絶対おかしいもの。面白くなってきたじゃない」
面白い、か。
たしかにそうだ。
観測できる対象が増えるのは、俺にとっても歓迎すべきことだった。
俺はギルドの扉を開きながら、小さく息を吐く。
戦闘を観察し、理解し、再現する。
それが俺の戦い方だ。
奪うんじゃない。真似するだけでもない。
見て、学んで、勝つ。
役立たずと捨てられたはずのその力は、どうやら俺が思っていたよりずっと深い場所まで届くらしい。
「ユウキ?」
「いや。行こう、アリサ」
振り返ると、彼女は満足そうに笑った。
ギルドの外は、夕焼けだった。
迷宮都市グランゼルの空を赤く染めるその色を見上げながら、俺は静かに思う。
――観察は、まだ始まったばかりだ。




