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神话が史実の世界に召喚されたので、 神域を渡り歩いて神々の問題を解決することになった  作者: いちごオレ
北欧神域 世界樹統治圏《ユグドラ・アース》前編

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4/5

暮らしとドワーフ

「起きろ、人間」


「……いや起きてるし。

 てか名前あるからな。傑。いい加減それで呼べ」


俺を見下ろしていたのは、

昨日からこの作業場を仕切っているドワーフだった。


背は低い。

横に広い。

髭はやたら長い。


いかにも“現場”って感じの存在感。


「ブロルだ。ここをまとめてる」


「……雑じゃない?

 俺の世界だと、その言い方する人ほど現場丸投げしてる」


ブロルは眉一つ動かさない。


「丸投げはしない。投げる相手がいない」


「理由が最悪すぎるだろ!」


横から、腕が異様に長いドワーフがぬっと顔を出した。

腕というか、もはや“凶器”。


「グリム。力仕事と戦闘」


「説明短っ。

 でもその腕で“戦闘”って言われたら納得しかねえな」


「力があればだいたい解決する」


「その理屈で今まで何個問題増やしてきたんだよ」


「覚えていない」


「絶対増えてるだろ!」



作業場は朝から騒がしかった。


石を削る音。

金属を打つ音。

怒鳴り声と、笑い声と、ため息。


全部が同時進行。


「なあ、ここ毎日こんな感じなのか?」


「これでも落ち着いている方だ」


「異世界基準の“落ち着いてる”、

 信用できなくなってきたんだけど」


ブロルは無言で工具を指差す。


「人間、今日はここだ」


「説明は?」


「後で」


「後でっていつだよ」


「必要になったら」


「必要になってからじゃ遅いんだよ!」


聞く耳は持たれなかった。


「今日から弟子だ」


「待て待て待て。

 弟子ってそんなノリで決めるもんじゃないだろ」


「人手が足りない」


「理由それだけ!?」


「それで十分だ」


「世界観がシビアすぎる!」


グリムが頷く。


「弟子は便利だ」


「言い方考えろ!」



休憩時間。


俺は地面に座り込む。

ドワーフたちは酒を飲んだり、工具を整えたり、普通に雑談している。


……生活感が強すぎる。


「なあブロル」


「なんだ」


「弟子って給料あるのか?」


「ある」


「お、意外とちゃんとしてるじゃん」


「経験だ」


「通貨単位それかよ!」


「役に立つ」


「ブラック職場の常套句だろそれ!」


俺はチムを見る。


「なぁチム。

 俺って神を説得に来たんだよな?」


チムはうなづく。


「今さ、

 ただドワーフのブラックな職場で

 働いてるだけな気がするんだけど」


チムは少しも迷わず言った。


「順調だね」


「お前今すぐ辞書で“順調”の意味引いてこい」



俺は頭を抱えたまま、チムに詰め寄る。


「そもそもさ、

 なんで北欧だけ説得すりゃダメなんだよ」


「北欧が中立なら、それでよくね?」


チムは少し考えてから、いつもの調子で言った。


「じゃあ、バカな傑にも分かるように言うね」


「誰がバカだ、毛全部剃るぞ」


ブロルとグリムが同時にこちらを見る。


「毛とは何だ」


「人間の文化だ」


「文化で済ませるな!」



「アストラル界ではね、

 神域ごとに“人間界をどうするか”を決める仕組みがある」


「いきなり規模でかい話すんな」


「一つの神域が勝手に決めると、

 他の神域が納得しない」


「神でも結局そこなんだな……」


「むしろ神だから必要」


「めんどくせえ……」


チムは続ける。


「世界はね、

 君たちの世界でいう“サイクリック宇宙論”に近い」


「……サイクリック……何?」


「簡単に言うと、

 世界は“始まって、続いて、終わって”、

 また始めるかどうかを決める」


「その“決める”が怖すぎるだろ!」


「今がその時期」


「終わらせるか、続けるか?」


「そう」


「今まで決めてなかったの?」


「前回は先延ばしにした」


「世界の運命、

 保留ボタンで止めてたのかよ……」


「でも今回は先延ばししにくい。期限が近いから」


「その言い方、追試の締切みたいに言うな!」



「だから投票がある」


チムは淡々と説明する。


「まず各神域で話し合う。

 滅ぼすか、続けるか」


「中立は?」


「決めない」


「一番楽な立場だな」


「でも期限が来る」


「現実的すぎる……」


「今の状況は?」


「滅ぼし四、中立三、救済一」


「数字の並びが嫌すぎる」


「北欧は中立が多い」


「一番先延ばしに慣れてそうな連中じゃん」


「だから人類へのヘイトはあまりない感じだね」


「それは、まぁ悪くないってことか」


「だから頑張れば救済側に持っていける可能性もあると思うんだ」


「なるほどなー」



作業が再開される。


ドワーフたちは相変わらず黙々と働いている。

世界樹の根元で、ただ“暮らし”を続けている。


「なあチム」


「なに?」


「これさ……

 異世界初心者向け難易度じゃないよな」


「うん。中盤」


「最初から詰ませに来てるだろ!」


神はいない。

英雄もいない。


いるのは――

人手不足で弟子を量産するドワーフと、

流れで働かされている人間と、

全部分かってる顔で説明する謎生物。


そして、

「終わらせるかどうか」を決める時期が、

確実に近づいていた。

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