アストラル界
チムがふと思い出したみたいに、軽い調子で言った。
「……あ、そうだ。ちゃんと説明しとこ」
「まだ説明あんの!?」
俺は即座にキレた。
「もう十分だろ!!
神がどうとか派閥がどうとか祝福がどうとか!!
これ以上聞いたら俺の脳、処理落ちする!!」
「もうしてるよ」
「フォローになってねえ!!」
チムはふわっと宙に浮いたまま、気にせず続ける。
「まず前提ね。
この世界――アストラル界は、“神話が終わったあとの世界”」
「……終わった?」
「うん」
「いや待て待て待て。
神話って、ほら、昔話だろ?
終わるとかそういう概念あんの?」
「あるよ」
即答だった。
「君たちの世界で語られてる通りの“役目”は、
だいたい全部果たされてる」
「役目……?」
「世界を作る。
秩序を与える。
人を生み出す。
災厄を与える。
試練を越えさせる」
チムは指を折りながら言う。
「そういう“仕事”」
「……神、ブラック企業じゃん」
「否定できない」
チムは小さく頷いた。
「でね、役目が終わった神はどうなると思う?」
「……消える?」
「生きてるよ」
「じゃあ普通に引退?」
「近い」
チムは少し言葉を選んで続けた。
「神は死んでない。
ただ、“世界に直接触れなくなった”」
「……意味わからん」
「神話の時代、神は世界そのものに干渉してた。
雷を落とす、海を割る、運命を決める」
「今は?」
「今は、強すぎる」
嫌な予感がした。
「……強すぎる?」
「神が本気を出すとね」
チムは空を見上げる。
「神域だけじゃなくて、
このアストラル界ごと壊れる」
「……」
「だから世界の側が制限をかけた。
これを“干渉制限”って呼んでる」
「神なのに、勝手に縛られてんの?」
「神だから、だよ」
俺は頭を抱えた。
「じゃあ何だよ。
神って今、めちゃくちゃ強いのに、
全力出せない置物みたいなもんじゃん」
「置物は言いすぎ」
「言いすぎじゃねえだろ!!」
チムは少し真面目な顔になる。
「ただし、例外がある」
「はい来た例外」
「制限付き解放」
「もう名前からして嫌な予感しかしない」
「自分の神域の中だけ。
世界全体に影響を出さない範囲で、
一時的に神話時代に近い力を使える」
「近いってどれくらいだよ」
「……正直」
チムは視線を逸らした。
「僕もちゃんとは見たことない」
「不安要素しかねえ!!」
「使った神は、
そのあと長いこと動けなくなるし」
「代償重すぎだろ!!」
「……で、この木なんちゃらを回れば終わるんだな?」
チムは否定した
「ううん、神域は全部で、八つ」
「……は?」
「神域が八つある。
それぞれ別の神話圏。
文化も神も価値観も、全部違う」
「ちょっと待て」
俺は思わず声を荒げた。
「八つって、
俺一人で八回“神のトラブル対応”すんの?」
「うん」
「無理無理無理無理!!」
「でも全部行く必要はないかもしれないよ?多分」
「今の“多分“に希望感ゼロなんだけど」
チムは苦笑する。
「どの神域で何が起きるかは、
君が動いた結果次第だから」
「最悪じゃねえか……」
「そろそろ着くよ、見て あれが北欧神域、ユグドラ・アース」
「マジででっかい木じゃねえか!!!?」
「マジででっかい木じゃねえか!!!?」
思わず叫んだ瞬間、視界が一気に開けた。
空を突き破るように、一本の巨木が立っていた。
根は大地を覆い尽くし、幹は山脈みたいに太く、枝は雲の向こうまで伸びている。
葉の隙間から淡い光が零れていて、昼なのか夜なのかも分からない。
風が吹くたび、世界そのものが呼吸しているみたいだった。
「……え、これ、自然?」
「ううん」
チムがさらっと言う。
「世界樹。
この神域そのものだよ」
「スケール感どうなってんだよ北欧……」




