プロローグ②
時は流れ、夏休みが終わり、二学期に入って少し経った頃。
教室でみなとに絡まれていた。
「にしても、大和すげえな。執念がすごい。
一目惚れした相手の為だけに生徒会に入るとか、最初は正気かって思ってたけど。ちゃんと仕事してんだもんな……」
みなとの言う通り、俺は生徒会に入っていた。
生徒会なんてもんは、俺みたいな地味メンには似合わない役職であるのだ。
だが、一目惚れした先輩にお近付きになるにはこれしか思いつかなかった。
人生で初めての恋。
人生で初めての一目惚れ。
初恋!
みなとはお前には無理だ、諦めろ、なんて言っていたが、そんなのやってみなきゃわからない。
と、俺は思う。
「で、しかもいい感じなんだろ?」
「どうだろな。まあ可愛がってもらってるのは間違いないけど」
「はあ、これだから童貞は。全く困るな」
呆れたようなため息を吐く。
「は? お前だって童貞じゃんか」
「ふっふっふっ、大和よ、いつ俺が童貞だと錯覚した?」
「え、違うの?」
裏切られた。
いや、コイツはクソほどイケメンでモテるので知らんうちに童貞卒業してたって驚きはしないけど。
先に行かれたような気がして、なんか嫌。
「違うわけないだろ。チェリーボーイだよ、大和と同じ」
「…………」
なんの煽りだったんだ。
今の。
「でも、可愛がられてるってことは少なくとも悪い印象は抱かれてないってことじゃんか」
「まあそれはそうだろうけど。夕陽ケ丘先輩は俺のことを後輩として可愛がられているだけで……」
夕陽ケ丘そとめ。
この高校へ入学した時に、一目惚れした先輩の名前だ。
そして七月にあった生徒会選挙で生徒会長になった人。
成績優秀
運動神経抜群
容姿端麗
それでいて性格もいい
非の打ち所のない人だった。
だから学内では彼女のことを、
「総合高校の女神様」
なんて呼ぶ人がいる。
モテて、憧れ、尊敬される。
高嶺の花である。完璧超人とはまさに彼女のことを指す言葉なのだろう。
辞書に
『完璧超人:夕陽ケ丘そとめのことを言う』
と、書かれていたって不思議じゃない。
とにかく、そんな優秀すぎる人が俺みたいな地味メンを好きになるわけがない。
顔は平均点
成績も平凡
運動神経も普通
こんな特徴のない、平々凡々な俺を好きになるわけない。ないのだ。あるわけないし、あってはならない。
「はあ、俺、大和がそんなに臆病だとは思わなかったわ」
幻滅した、みたいな口ぶり。
「臆病? 極めて正確な分析をしてるんじゃないかと思うんだけど」
俺は夕陽ケ丘先輩から異性として好意を持たれることはないと思っている。
だから、今可愛がられているのは後輩として。
その思考に辿り着くのは必然だろう。
「まあそれはそうかもしれないけどな」
「否定しないんだな」
「大事なのは『嫌われてない』ことと『無関心でないこと』なんだよ」
「は、はあ……」
「今の大和はどっちでもない。分類するなら『好意を持たれてる』になる」
「後輩としてな」
「いいんだよ、それで。既に大和は告白されたら付き合ってもいいかも?
って思われるような立場なんだから」
ばんっと机を叩き、グイッと顔を近づける。
「あまりにも都合の良い解釈じゃね?」
「そうか? 比較的現実的な話だと思うが」
みなとが言うのなら、そうなのかもしれない……と思ってしまう。
恋愛話におけるイケメンが持つ説得力は膨大だ。
「それに夕陽ケ丘先輩には彼氏いないんだろ?」
「うん。そう言ってたよ」
夏休みに生徒会で集まった時に、突然なんの前触れもなく教えてくれた。
どういう意図があったのかは夏休みが明けた今でさえもよくわからない。
後輩をからかったんだと解釈したが、真偽は不明だ。
「んなもん、早く告白しろって遠回しに言ってんだろ」
「都合の良すぎる解釈だな。
さすがにない。ありえんわ、それは」
「大和、馬鹿か?」
ケラケラ笑われる。
「都合良くもなんともねえよ。そんなもんな、
『私彼氏いませんよ〜、私フリーですよ〜、今告白してくれたらオッケーしちゃいますよ〜』
って、合図に決まってんだろ」
「はあ……んなわけ」
みなとの冗談だろと思った。
でも、みなとの表情は真面目そのものだった。
「えっ……マジ?」
「マジ。少なくとも、俺だったら絶対に告白してるわ」
「成功すると思う?」
「大和と夕陽ケ丘先輩が二人っきりの時の空気とかは知らないから、絶対とは言えないけどな。
話聞いてる限りは告白失敗するビジョンが見えんわ」
「そっか」
イケメンすぎるみなとがそう言うのなら間違いない。
少なくとも俺みたいな恋愛ペーペーよりよっぽど正しい。
「俺決めたわ」
なんのために生徒会に入ったのか。
初恋を、一目惚れを、成就させるためだった。
このままだと、理由をつけてずっと逃げ続ける。
俺は誰よりも臆病だから。
「夕陽ケ丘先輩に告白してくるわ!」
俺は一歩、踏み出した。




