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本当に、最後の日なら

作者: 白藍瑚珀

 私はこれを思いつきで書いている。

 7月5日、どうやら日本は滅亡するらしい。


 仕事以外でSNSをほとんど開かない私は、帰りの満員電車の中でそれを知った。職場の人がやけに地震だの日本滅亡だのと言っていた謎が今、解けた。


 私はいつも通り、帰りにコンビニで煙草を買った。スーパーで106円になっていたキャベツを買った。サラダチキンと、ホールのレアチーズケーキタルトも買った。

 一応保有しているポイントは全て使った。最後になるなら、少しでも得をしておきたい。


 過去にも何度かこういう予言はあった。

 最初の記憶は、小学校低学年の頃だったと思う。当時はよく分からず、ヘルメットを被って眠りにつく兄を横目にぐっすり寝た。翌日、兄はヘルメットを取って爆睡していた。

 もう一つは中学生ぐらいだっただろうか。今度は昼間にその日が来ると言われていた。私は大事なものをポシェットに詰め込んで庭に出た。予告の時間は過ぎ、澄んだ空を見上げながら鳥の囀りを聞いていたのをよく覚えている。


 今の私はどうだろう。キッチンに座り込み、換気扇の下で煙草を吸っている。


 アパートの前の公園で、大学生らしき男女四人が花火をしていた。最後の日に青春しようとでも思ったのだろうか。

 正直うるさくて迷惑だ。


 最後の日が分かるなら、苦労しない。

 騒ぎながらも大半の人間がいつも通りの日常を過ごしているのだから、確実に半分は信じていないのだろう。

 本当に最後の日なら、仕事になど行かない。最後の日に顔を合わせていたのがパソコンの画面など、なんとも馬鹿馬鹿しい。

 私ならまっすぐに離れて暮らす家族のもとへ行き、愛してると言って抱きしめるだろう。


 ちょうど、両親とメッセージのやり取りをしていた。

 本当に最後の日なら、愛してると伝えなければいけない。せめてメッセージだけでも。父に縁起でもないこと言うなと叱られそうだ。

 迷った挙句、私は伝えなかった。


 終わるなら、一瞬で終わってほしい。苦しんで死ぬなど真っ平ごめんだ。


 本当に最後の日なら、困ることもある。

 大好きなあの漫画は完結していないし、昨日お昼に食べようか迷った焼肉ランチも食べていない。死ぬまでに生きたいと思っていた有名作曲家のコンサートにも行けていない。


 テレビをつけ、YouTubeを流す。


 ホールのタルトは半分しか食べられなかった。あまり食欲がなかったことに今更気がついた。


 最後の日だと思って過ごすことは、大切なことかもしれない。


 美味しい料理を食べる。行きたいと思っていたところへ行く。やりたいと思っていたことをやる。大切な人へ、伝えたい言葉を伝える。


 会うたびに弱っていく実家の愛犬を見て、確実に時間は流れているのだと感じる。分厚かった祖父の手も、随分と薄くなった。たった五分の電話の中で、同じことを繰り返すようにもなった。

 あまり変わっていないと思っていた両親も、数年前の写真より皺が濃くなり白髪が増えた。

 帰省する時には、みんなに美味しいスイーツでも買っていこう。


 私は残りのケーキを冷蔵庫に入れ、もう一度煙草に火をつけた。

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