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 倉庫から持ってきた剣を振っていると、やっぱり折ってしまった。気遣いと共に剣を振るのは気持ちよくない。不快感が手を鈍らせ、更に剣を折ってしまうという悪循環に陥る。


 不完全燃焼から眠れない夜が三日続いた。その翌朝、唐突に部屋の扉がノックされる。聞き間違いかと思ったけれど念のため返事をしたら、扉が開けられた。


 開いた扉の向こうには、二人の門下生と、馬車で牽引するような荷台があった。門下生たちは、荷台に積まれた大量の剣を手際よく僕の部屋に運ぶ。僕が門下生の一人に「新しい剣?」と訊くと、彼はきつく結んでいた唇を渋々解いて「はい」と答えた。


 師範に剣の替えが欲しいと伝えてから、まだ三日しか経っていない。もしかして無理してくれたんだろうか。師範の酷い顔色を思い出した僕は、門下生たちが口を利きたがっていないのを承知の上で「師範にお礼を伝えといてください」と言った。


 門下生の少年が、苦々しい顔つきで僕を見る。


「この剣、レイさんのお金で造られたものですよ」


「僕の?」


「レイさんが今まで道場に寄付したお金です。最近、剣の性能を上げなくちゃいけなくなって、レイさんの寄付金を崩すことにしたって師範が言ってました」


 はぁ、と相槌を打ちながら、僕は目の前の門下生がどうしてこんなに複雑な顔をしているのか考えていた。僕が寄付したお金をどう使うかは師範の勝手だ。礼の一言も寄付する際に貰っている。崩すことにした、という言い方はちょっと気になったけど、この門下生は僕と喋りたくなさそうだし、言い間違えたんだと思った。


「師範は今まで、レイさんが道場に寄付したお金を、ほとんどそのまま残していたんですよ」


 そう言って門下生は扉の向こうに消えていった。閉められた扉の向こうから、ガラガラと荷台の引かれる音がする。音が聞こえなくなるまで、僕は呆然としたまま立っていた。


 頭の中で色んな仮定が錯綜していた。「使い道がないなら私が預かっていてもいい」と言われたことを思い出す。その瞬間、いてもたってもいられなくなって、僕は門下生たちが持ってきた新しい剣を手に取り、無我夢中で振った。ほんの一瞬だけ僕は期待した。それが許せなかった。今までその期待が思い通りになったことなんて一度もないのに。やっぱり僕の人間としての機能はどこまでも不具合があった。


 よく考えたら、僕が道場に寄付した金額は少なくないはずだ。なのに道場の様子がこれといって変わっていないことに、僕は全く疑問を感じなかった。興味がなかったからだろう。僕の脳味噌は、興味のないことには徹底的に反応しない。


 僕は道場に興味がないんだ。今更それを自覚した。僕は、剣を振るのは好きだけど、道場はそれほど好きじゃないんだと思った。ここには僕を不安定にさせるものが多すぎる。


 ここ以外で生きていけるなら出て行くかもしれない。でも僕が剣を振り続けるためには、この道場で生きるのが一番楽だった。ご飯とか作れないし、服とかも洗えないし。だから僕はこの道場に寄生している。


 寄生の対価に寄付している。そう考えると、師範にはもっと僕の寄付金を使ってほしかった。


 もしかすると、師範はもう僕を魔物と戦わせる気がないのかもしれない。それでもいいんだけど、僕が魔物と戦わないなら、僕はもうこの道場に寄付できなくなってしまう。これからは対価もなしに寄生することになる。師範はそれでいいんだろうか?


 たくさんの悩み事が頭を満たすよりも早く、僕は剣を振ることに集中した。少しずつ悩み事が頭の端っこに追いやられていく。このまま、何も考えずに素振りに没頭したい。そう思った直後、部屋の扉がノックされた。


 返事をする前に扉が開かれる。


「レイ」


 僕の部屋を訪れたのは、窶れた様子のアッシュだった。


「頼む。俺に剣を教えてくれ」





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