第3話 犯罪者とウィッチアウェイ
ドドロ君の嫌いな食べ物は菓子パン。理由はスラムを思い出すのと甘すぎるから。ハルヤの嫌いな食べ物は納豆。理由は特にない。ほとんどストーリーの進まない反術のワルツ第3話、始まります。
朝が来た。バイトに行かないと。 あ、そうだ。バイトクビになったんだった。頭が痛い。あれ?何のために生きてるんだっけ?じゃあもういいか。死のう…… でも、
「なにも成し遂げずに死ぬより、なにかしてから死にたいな。」
ドドロとハルヤはパトロールに来ていた。
「カグラさんが『君たち多分戦い方的に相性いいよ』って言ったから一緒に来たけど、なんかいいように使われた感じがする……」
手をつなごうか迷うほど、ドドロはすぐに私のもとを離れてしまう。リードでもつないでやろうかと思っていたところ、交差点の方から悲鳴が聞こえた。
「強盗よ!」
落ち着きのなかったドドロは急にこちらを向いた。見ると銀行の前で、首から結晶の腕を生やした男が民間人を襲っている。
「……許せねえ。力を持ってしてやることがそれかよ。ぜってえに懲らしめてやる。」
俺もドドロの意見に賛成だ。俺は祭器に結晶を纏わせ、ドドロも血管で頭を覆う。
「よりにもよってこのタイプかよぉ……!」
「何の話だ!?」
心の中で言っていたつもりだったが、漏れていたようだ。
「特殊反術は多種多様すぎて分類区別できるわけがないんだが、一応そういう区分みたいなのがある。」
「生成型」
カグラやヨツキのような、通常反術で作り出すには高い技術と大量のエネルギーを必要とする物を創り出す能力。また通常反術では再現不可能なものを創り出す能力。
「強化型」
ドドロのような、代謝を向上させるなどして身体能力を向上させる能力。(ドドロの能力に関しては、1話のあとがきをご覧ください。)
「そしてこいつみたいなのが『肉体型』。肉体そのものを作り変えるから、まるで自分の体のように操れる。武器とか使う奴よりよっぽど厄介だ。」
「どこで判断してんだ?」
ドドロは攻撃タイミングをうかがいながらこちらに問いかける。
「あいつの反術、首の内側から出てるだろ。もしあれが外側から出ていたなら生成型かもしれなかったな。なにより、手の動きがなめらかすぎる。血管ならまだしも、結晶であの動きができるわけがない。」
「そこだァァァァァ!!」
言い終わる前にドドロが奴に突っ込む。「奴」ってのは言いにくいな。首から手が生えてるわけだし「ネックハンド」とかどうだろう。
「このネックハンド野郎が!」
……同じこと考えてた。そんなことしている場合じゃない。ネックハンドは掴んでいた人を離し、ドドロとスクラム状態になる。この位置からだと後ろに回って攻撃するのは時間がかかりすぎる。俺も正面から突っ込み、剣を構える。
「伏せろドドロォ!」
ドドロは手を離し体制を低くする。そうすることによってガラ空きになった首根っこに刃を突き立てて撃つ……
「……なッ!」
剣は軽く握られただけで砕けてしまった。対応する間もなくもう片方の手で殴られ、大きく吹き飛ばされる。いつの間にかドドロも距離を取っていた。
「……反術使いの方ですか。いつもお仕事ご苦労様です。」
初めて犯罪者が口を開いた。(なんか恥ずかしくなってきたので呼び方は戻した。)
「お前は何がしたい!」
ゆっくりと、光無き眼でこちらを除いてくる。
「自殺ですよ。生きる意味がなくなってしまったんです。でも何もできずに死ぬのは嫌だから。人殺しと強盗をやってみようと思ったんです。もちろん。こんな理由で犯罪がまかり通るなんて思っていません。どうぞ、私を殺してください。殺してほしいので、私は抵抗しますが。」
起き上がりながら叫ぶ。
「自殺に他人巻き込みやがって…… ぜってえ生かして償わせてやる!」
地面を強く蹴り上げ、再び正面から首を狙って突っ込む。
「……能がないんですか。同じパターンの攻撃なんて。」
「そうかもしれねえな!行け!ドドロ!」
ドドロは後ろに回り込み、両足で踏み込んだかと思うと、目にもとまらぬ速さで足元に体当たりをかます。同時に、俺は剣を首に打ち込む。
双方からの攻撃によって板挟みになった犯罪者は体勢を崩し、地面に打ち付けられた。
すかさず両腕に剣を突き刺し、動きを封じる。
「観念しろ。」
言い終わる前に、犯罪者が口を開いた。
「命がけの戦いも、子供のころからの夢だったんですよね!」
犯罪者は腕を引き抜き起き上がる。その勢いで腕をぶん回す。
「かっこいい必殺技とか!欲しかったんですよ!」
攻撃が右半身に当たった。骨が砕け散る音と同時に、数十メートルは吹き飛ばされる。
「大丈夫かハルヤ!」
「大丈夫じゃない!右腕の骨が砕け散ってる!」
俺の後ろに立っていたドドロも、俺と同時に吹き飛ばされた。
間髪入れずに、犯罪者はこちらに向かって体ごと腕を回しながら横向きで突撃して来る。シールドマシンみたいだ。(トンネル掘るやつ)
なんとか横に転がって避けると、今度はそこに向かって突撃して来た。ギリギリで避けられたが、右腕の回復にかなり力を使っているため、もう避けられるほどの体力は残っていない。
犯罪者の方も、息を切らして立ち尽くしている。お互いに見つめ合っている中、ドドロがこちらに何かささやいた。
「ハルヤぁ…… 次の突撃の時、頭ン狙え…… 」
確かに、そこならいけるかもしれない。もちろん頭は結晶によって守られているが、まともに攻撃が当たりそうな部分はここしかない。
最初で最後のチャンス。最低でも1人は確実に攻撃を当てる…… いや、それじゃダメだ。ここで俺たちが行動不能になってどうする。失敗したら、街に大きな被害が出る。2人とも攻撃を当てて、確実にあいつを倒す!
「殺してくれよぉ! 早く!」
突撃してくる犯罪者に向かって、ドドロは飛びあがって両足で蹴る体制を取る。ならば俺は先に犯罪者の頭に剣を当てて、ドドロの蹴りで勢いを上げて押し切る!
犯罪者に向かって走り出す。これだけは!死んでも当てる!
「届けえええええええええええええええええええええええ‼‼」
ブォン
急に視界が震える。すごい音がし、風を切った。真っ赤な閃光が、目の前をよぎった。
慌てて犯罪者の方を見ると、倒れこみ、気絶している。結晶によって創られた腕には、大きな風穴が開いている。
攻撃をしたと思われる人が、交差点から出てきた。ショートカットの、凛々しい女性。女性はこちらに気づくと、腰を抜かしてしまった俺に手を差し伸べて言った。
「今日から君たち3人の教育係になりました。フウカです。フウカお姉さんって呼んでね。」
俺は手を取る。どうやらおっかない人が教育係になってしまったらしい。ん?三人?俺と、ドドロと、あと誰だ?
交差点から、もう一人女性が出てきた。俺と同い年くらいの、青い髪の……
「あ、思い出した!テストの時拳銃ぶっぱなしてたおっかない女だ!」
女は顔をしかめると、こちらに銃口を向け、そのまま発砲した。
ここまで見ていただきありがとうございました。戦闘描写、心理描写、まだまだ至らぬ部分は多々ありますが、温かい目で見ていただけると幸いです。さて、あとがきまで読んでくださった方のために、特別にフウカお姉さんの能力をお教えします。多分次の次の回くらいで解明しますが、ここでお話してもなにも問題は無いので話しちゃいます。
フウカお姉さんの能力は「圧縮」と「射出」です。分類で言うと生成型ですね。
お姉さんは直方体の片手で握れる程度の箱(スマホを何枚か重ねたくらいの大きさだと思ってください。)を創り出すことができます。ここにはお姉さまの血液が圧縮されています。それを腕に取り付けると、DVDをデッキに入れるような感じで、吸い込まれます。そして、吸い込みが終わると同時にビーム発射。今回犯罪者に当てたやつですね。このビームはとんでもない威力を持つため、フウカお姉さんは小規模の討伐には向いておりません。そこをなんとか努力とテクニックでカバーし、フウカさんは現在、組織で5本の指に入るほどの反術使いになりました。
来週はソラとクナイとカグラのお話。反術のワルツ、来週もまたみてくださいね。