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「あの、もう一つ聞いて良いですか?」
「ああ」
わたしは気になっていたことを訊ねた。
「その、転職を……?」
ラルフ様は少し照れたような顔をしたが、笑顔で言った。
「騎士は働きながらリアを探すのに最適だったんだ。これなら誰に後ろ指を指されることもなく、リアも戻ってきやすいだろう?」
彼はわたしを探すために、自分の人生を変えてしまった。わたしは申し訳なくて下を向いてしまった。
彼はそんなわたしに気づいて、笑って言った。
「リア、俺は財務官になりたくてなったわけじゃない。ただ何となくやっていただけだ。騎士になってわかったが、俺には騎士の方が合っている」
ラルフ様は本当にわたしを愛してくれている。わたしはこの先、彼を疑うことなく彼の傍で生きて行こう。
わたしがそう決意を新たにしたとき、カイル様から声が掛かり、クリス様を抱いたカイル様が応接室に入ってきた。
「オルレアン閣下、妻が長い間、大変お世話になりました」
ラルフ様はそう言って深々と頭を下げた。わたしは未亡人だと偽ったことを謝った。
「いや、君たちの誤解が解けたようで良かった。それにしても君たち親子はそっくりだな。すぐにフィニアスの父親だとわかったよ」
カイル様がそう言った後クリス様を見つめると、クリス様はわたしに手を伸ばした。
そうだわ。わたしがエステリオス王国に戻るということは、クリス様と離れることになる。
わたしにとって、クリス様はもう一人の息子のような大切な存在だ。
わたしがクリス様を抱き上げようとしたとき、バンッと応接室のドアが開き、セリーナ様が現れて言った。
「カイル様!わたしはあなたを愛しています!わたしと結婚してください!!わたしは、ある日あなたが突然消えたらと思うと……、とても耐えられない!!わたしをクリス様の……クリスの母親にしてください!!」
カイル様はセリーナ様を見つめて戸惑っているようだ。
そのとき、クリス様がセリーナ様の前に立って言った。
「かあたま?」
「ええ……! あなたの母様になりたいの……!」
セリーナ様はクリス様を抱きしめてそう言った。
「セリーナ……、私も君が突然消えたら、どこまでも探し続けるだろう。お父上は何年かかっても説得する。君を愛している。私の妻に、クリスの母になってくれ」
カイル様はそう言って、セリーナ様とクリス様を抱きしめた。セリーナ様は泣き笑いを見せ、クリス様はキャッキャと笑っていた。
応接室には幸せな空気が流れていた。 けれど……、この人たち、盗み聞きしていたわね?
***
エステリオス王国に戻ったわたしは、騎士の体力(精力)に驚愕した。
ラルフ様は以前から体力(精力)があったけれど、騎士になり身体を鍛えているため、それは以前にも増していた。
わたしは、毎晩ラルフ様に求められ、身体は常にヘトヘトだ。
けれど、これ以上ないほどにわたしとフィニアスを愛してくれるラルフ様と共に過ごすことが、わたしたちにとって最高の幸せなのだ!
***
「——というのが、君の父上である、我が国最強の騎士、遅咲きの黒豹の成り立ちだ。君が八人兄弟なのもそういった理由だ、フィニアス」
僕は今、騎士学校で、騎士道精神の授業を受けている。
先生……、その話、必要でしたか?
僕の隣では、エステリオス王国に留学中の、僕の乳兄弟であるクリスが、腹を抱えて大笑いしている。
追伸しよう。僕はもうじき九人兄弟になる。これからも増えるかもしれない……。
——おわり——
多くの作品の中から、この作品を読んでいただき、ありがとうございました。