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 なんということでしょう……。


 ラルフ様が筋骨隆々の騎士になって、目の前に現れた。


 彼は、フィニアスを離すことなく抱いたままで、わたしと向かい合って騎士団本部の応接室のソファーに座っている。

 フィニアスはラルフ様の顔をじっと見つめて、その小さな手でラルフ様の頬に触れ、無邪気な笑顔を浮かべている。本能で自分の父親だとわかるのだろうか。


「リア、まず誤解を解きたい。俺が愛しているのはリア、昔も今も君、ルリアナだけだ」


 その言葉にわたしは驚きを隠せなかった。


「……わたし、聞いてしまったんです。結婚式の前日にラルフ様が話していたことを」

「結婚式の前日……?」


 わたしはシルヴァンディール伯爵家の庭園で、ラルフ様が話していたことを伝えた。


『なぜ、俺があんな女と結婚せねばならないのだ!!』

『あの馬鹿が間違えたりするから、俺は三年も我慢を……!』


 それを聞いて、求婚状は誤ってフォース子爵家に送られたのだと、そしてエステリオス王国では結婚後三年は離婚ができないため、三年後に離婚するのだろうと思ったことを伝えた。


「そうか……。それで……」


 ラルフ様は一抹の後悔を示す表情を浮かべた。


「それに、“リア”って……。ラルフ様、そのときはわたしのこと、“リア”とは呼んでいませんでしたよね?」


 ラルフ様は顔を赤らめて白状するように言った。


「君のいないところでは、呼んでいたんだ。“リア”と、ずっと、幼い頃から……」


 わたしは首を傾げた。わたしがいないところでは“リア”と呼んでいたということにも驚いたが、幼い頃からとは?

 わたしの記憶にはないけれど、わたしたちは幼い頃に会っているのだろうか?


 そして、もう一つ。庭園でユリアナ様と抱き合っていたのを見たことも告げた。


「リア、一つずつ説明していこう」


 ラルフ様は深呼吸をして、落ち着いた表情で言った。





 ラルフ様の話を聞いて、わたしは両手で顔を覆ってしまった。


 シルヴァンディール伯爵家がファーク子爵家へ求婚状を誤配してしまったこと。

 ラルフ様は求婚の撤回を求めたが、ユリアナ様が受け入れてくれなかったこと。

 けれどラルフ様は諦めずに奔走し、結果、ユリアナ様は別の男性と恋に落ちたこと。

 そして、求婚の撤回に成功し、フォース子爵家に求婚状を送ったこと。

 そこまで三年かかったこと。


 わたしへの求婚は誤りではないと。



 わたしはラルフ様に愛されていた……! ラルフ様が愛した“リア”はわたしだったのだ……!



 わたしは涙が止まらなかった。


「リア、君は俺の初めての友達なんだよ」


 ラルフ様とわたしは幼い頃、王城で開かれたガーデンパーティーで会っていて、ラルフ様はそのときのことを、大切な思い出だと言って話してくれた。


「俺は、この血のような赤い瞳がコンプレックスで、そのせいで友達と呼べる存在がいなかったんだ。しかし君は、この瞳を綺麗だと、わたしが友達になってあげると言ったんだ」


 ラルフ様の赤い瞳は本当に美しいもの。わたしは覚えていないけれど、幼い頃のわたしも同じように思ったはずだわ。


「君は幼い頃、赤目の黒兎を飼っていただろう? 俺の黒髪と赤い瞳を、その兎みたいで大好きだと言ってくれたんだ」


 言えない……! あの兎はペットとして飼っていたわけではなく、非常食だったなんて……!



「君と結婚して本当に幸せだった。これからもそれが続くと信じて疑わなかった。……しかし、君はある日突然姿を消してしまった。そうさせてしまったのは俺のせいだったんだな」


 ラルフ様は庭園でユリアナ様と抱き合っていたことについて説明した。


 ユリアナ様が恋に落ちた婚約者は、ユリアナ様との結婚直前に病に倒れ入院したという。

 治療薬は国内にはなく他国から輸入するしかなかった。しかしその薬は簡単に輸入できるものではなく、ユリアナ様は財務官のラルフ様に貿易官に伝手がないかと頼み、ラルフ様は知り合いの貿易官に頼んでその薬を輸入してもらった。

 その薬によりユリアナ様の婚約者は徐々に回復し、もうじき退院して結婚できるということになった。

 あの庭園ではその報告を受けていただけで、婚約者との結婚を目前にしたユリアナ様が感極まってラルフ様に飛びついてきただけだということだった。


「リア、多くを誤解させてしまい、本当にすまなかった。俺の元に戻ってきてくれるだろうか?」


 わたしは嬉しくて、けれど申し訳なくて、泣きながら答えた。


「ラルフ様、わたしはあなたを愛しています。もう一度、あなたの妻になりたいです」


 わたしがそう答えると、ラルフ様はフィニアスを抱いたまま立ち上がり、わたしの隣に来て、わたしとフィニアスを強く抱きしめた。


「リア、愛してる。それと、俺の子を、フィニアスを生んでくれてありがとう。Ralph(ラルフ)からPhineas(フィニアス)と名付けてくれたんだな」


 わたしは頷くことしかできなかった。


 そのとき、フィニアスが言った。


「とうたま、めっ」


 彼はわたしが泣いているのを見て、ラルフ様が意地悪をしたと思ったのか、ラルフ様を叱っているように見えた。教えていないのに、やはり父親だと認識しているようだ。


「そうだな。父様が悪かった。フィニアス、生まれてきてくれてありがとう。お前のことも、母様と同じくらい愛しているよ」


 そう言って笑い合う二人はどこから見ても親子だった。







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