森に出る
「おい、本当にこっちで合ってるのか?」
「合ってるって、俺の幸運を信じろ」
「はぁ…」
俺たちは今、街の門から出た北の森に来ていた
冒険者ギルドにて
「なぁ、どの依頼を受けるんだ?」
そう言いながら俺は、掲示板に貼り付けられた魔物討伐の依頼者を眺めていた
ボトム級 スライム討伐
イビルスピリット討伐
ゴブリン討伐
ポイズンバグ等討伐
うーん、種類が少ない。魔物の討伐もほとんど持ってかれたらしいからな。ここに残ってるのはあまりに数が多すぎるから残っている魔物たち
まぁ、その分弱いらしいが…なにをするか
ポイズンバグは明らかに毒を持ってるだろうし、毒は危ないよな。やめよう。
スライムは、物理、斬撃が効かず魔法しか有効打がないくせに窒息させて殺しに来るとかいう最悪の魔物
でも、害は少ないから依頼の達成料金が安い。だめだ
ゴブリンは、身体を鍛えてない成人男性ぐらいの身体能力と、人間と同等の道具を扱う能力があり、初心者殺しと言われてる。ダメだ
イビルスピリット…知らねぇなんだコイツ。未知の魔物は危険だからダメだ
「嘘だろ。受けられる依頼が一個もない」
「いや、ちゃんとあるだろうが……そうだな、これにするか」
そう言ってラックが手を伸ばしたのは、イビルスピリットの討伐依頼書だった
「なんだ、もしかしてソイツ、ねらい目のやつなのか?」
「さぁ、ただなんとなくこれがよさそうな気がするんだ」
「なんとなくってお前なぁー」
そう言いながらも俺は、再びイビルスピリットの依頼書に目を通す
・イビルスピリットの討伐
街の門付近にいるイビルスピリットの討伐
報酬は一匹の討伐に付き銅貨10枚
情報はこれだけか
「でも、他の依頼は受けたくないんだろ?」
「そうだが…」
「よっし!それじゃぁ受付さんに言ってくる!」
そういうと、ラックは受付まで走っていき依頼を受ける手続きを済ませてきてしまった
「受付さんが言うには、街を出た南の森に出るらしい。行ってみようぜ!」
そうして俺たちは、どういうわけか北の森に来ていた
「なぁ、本当にこっちで合ってるのか?受付さんは南の森って言ってたんだろ?」
「それはそうだけど、でも、カオスも見てただろ?」
「あぁ、まあな」
ラックの言う 見てただろ? が何を指すのかは、俺にはもう分かるようになっていた
この森に来る前に、この短剣を手にした時と同様に、俺たちは木の棒を使って進むべき方角を確かめていた
そして、木の棒が指示した方角はなんと、受付さんの言っていた方角とは真逆の北だったのだ
この短剣のこともあり、その結果に大人しく従う形でここまで来たものの、カオスはやっぱり南の森に向かった方が良かったんじゃないかと思っていた
そう考えながらも街を囲む壁にそって歩くこと30分
「!運命は俺たちをここへと導いたんだ。その証拠に、ほら」
そう言って、俺の前を歩くラックが指を指したほうを見ると、そこには宙に浮く半透明な小さい生物が見えた
そのどれもが決まった形を持っておらず、動物のような見た目をしたもの、人間の手、鎧、などなど、上げればきりがない
「イビルスピリット 発生理由は不明で、人間に直接危害を加えることはまれだが、人間の作った建造物を勝手に解体するなど迷惑なことをするために討伐対象になっている魔物。そして、」
「霊体であるために、銀、ミスリル、祝福を施した武器、もしくは、<浄化>の魔法を宿した魔法武器でなければ討伐できないため、討伐報酬が高くなる。なるほどな、そこまで考えてこの依頼を受けたのか。俺たちはちょうどその、<浄化>の力を持った短剣を持ってるからな」
「ふっ、俺はなにも考えていない。これも運命の導きだ」
「そういうことにしておくか」
「ほら、早く討伐して来いよ。アイツらが壁に夢中になってる間に」
「はいはい、半分はお前もやれよ?」
そう言ったものの俺は、結局、街をぐるっと囲む壁に夢中で俺に気づかないイビルスピリットたちを背後から次々と切り殺していった
イビルスピリットを殺すと、その半透明な身体は完全にどこかへと消えてしまい、その代わりに、地面に小石程度の透明なものが落ちていた
これは、魔石と呼ばれるもので、この魔石を動力源として魔道具を動かすことや、魔法を発動することができる。ただし、今回はそういった用途ではなく、イビルスピリットを討伐した証として扱う
すべて切り殺したころには
「ふぅー!全部で何匹倒したかな?」
「お前もこれ集めるの手伝えよ」
イビルスピリットの落とした小さな魔石が大量に転がっていた
「おいおい、こんだけあれば俺たち、二人で割ったとしても金がめっちゃ入ってくるな」
「そうだな。でもまずは、早くギルドに行かないとな。ギルドの受付終了時間は17時00分だからな」
「今何時?」
「正確な時間は分からないが、だいたい16時じゃないか?ギルドを出たのが13時ぐらいだったから」
「!それは急がないとな!」
地面に転がったすべての魔石を回収し終わった俺たちは、ギルドへと走った
???
ラックたちのいる街、オリジンから少し離れた森にて
「コマンダー様。ご報告があります」
異形の姿をした者たち、魔族と、その下僕である魔物たちが集まっていた
コマンダーと呼ばれた魔族は魔物の方へと僅かに視線をやると
「なんだ?」
ぶっきらぼうに、その続きを促した
「街へと攻め入る準備として行なっていた、イビルスピリットによる外壁破壊作戦ですが…」
「なんだ」
「何者かの手によって失敗に終わりました」
「ほう、そうか」
「そうかって、あの、コマンダーさ」
ズシャ
魔物は全てを話し終える前に、首から上を消し飛ばされて絶命した
「使えんやつめ。さて、魔物を指揮するものが1人いなくなってしまったな。次はこうならないようにしてもらいたいものだ。なぁ?」
そう言って魔物たちを眺める眼には、一切の慈悲など存在せず、魔物たちはただ恐怖に震えることしかできなかった
「しかし、今日動かしたばかりだと言うのに、なんという対応の速さ。オリジンには異変にいち早く気づける優秀な人間がいるのかもしれないな…一応魔王様に報告しなくては。ここは人類を滅ぼすための足がかりになる重要な場所なのだからな」